かつての理系女は魔法を実習する
アンの楽しみにしていた授業が来た。魔法の実技である。実家で爆発事故をおこし母さまに禁止されてから魔法は使っていない。そして入学以来二ヶ月、基礎理論に終止した授業はもう飽きた。たまに校庭にみえる上級生の実技授業がとてもうらやましかった。
昨日の就寝前は、興奮気味のアンは仲間たちに言った。
「ついに、ついに明日よ。魔法よ、魔法!」
ネリスは呆れたように言う。
「はいはい、魔法。がんばってね」
「うん、がんばるよ!」
それに対してフローラは、
「魔法師志望の私ならともかく、なんでアンがそんなに楽しみにしてるのよ」
「だってさ、あっちの世界にはないものじゃない。せっかくこっちに来たんだからさ、やってみたいじゃん」
「わかるけどさ、そこまで興奮しなくても」
さらにヘレンまで言った。
「あのさ、魔法にまで例の『効果』ださないでね」
「あ、それは大丈夫、ベルムバッハではできたから」
「じゃ、なんでそんな期待すんのよ」
「母さまの指導じゃさ、コントロールが難しくてね。母さまも女学校で教われって」
「ふーん」
ちょっと沈黙があった。アンはみんなの納得が得られたと思っていた。
「なんか、やな予感がするのよね」
そう言ったのはフローラだった。
「「そだね~」」
ヘレンとネリスが同調する。
「なによ。ヘルムバッハじゃ、できたって言ったでしょ」
アンは納得できない。
フローラが聞いてきた。
「アン、魔法のコントロールだけど、どう難しいの?」
「いやね、かまどに火をつける魔法練習したんだけどね、かまどが爆発した」
「「「やっぱり~」」」
魔法実習は校庭で行われる。特に初心者は魔法がどこに飛んでしまうかわからないから、狭いところで行うのは危険である。
そういうわけで、青空の下、アンたちのクラスは校庭の端に一列に並んでいた。校庭といっても王都の中心部の学校だから、狭い。どの方向を向いても建物である。教室のある建物を背に、量のある建物に向かって並んでいる。これなら魔法が暴走しても、授業中なら無人の寮に当たるので被害は建物だけで済む。そして校庭中央には的が置かれている。
午後の最初の授業なので太陽が眩しく、冬も近いのに暑いくらいだ。
生徒たちが待っていると、先生がたくさんやってきた。先頭は校長先生である。
「みなさん、この日を待ち望んだ生徒も多いでしょう。これから魔法の実習を始めます」
生徒たちにぴりりと緊張感が走る。
「すでに学んだ通り、魔法の力は一つです。土魔法、火魔法、風魔法、水魔法と言った分類は、魔法の力をいかに具現化するかの違いでしかありません。ですから今日のところは、すでに魔法が使える生徒はそれを、使えない生徒はやってみたい魔法をやってみましょう」
「今日は初めての魔法実習ですから、みなさんの魔法制御に不安があります。そのため手空きの先生には全員来てもらいました。ですから安心して、今日の実習にはげんでください。では、とりあえず一人ずつやってもらいましょう」
最初の生徒が呼ばれた。先生たちは校庭を囲むように散る。流れ弾を先生たちの魔法で止める気だろう。校長先生は、呼ばれた生徒の横に立っている。
「では、あなたの得意な魔法をあの的に当てるように打ってみてください」
「はい、では、ウィンドブラスト!」
するとアンたちのあたりでも風を感じ、的もすこしゆれた。
次々と生徒が魔法を打つ。土魔法を使う生徒もいれば水魔法を使う生徒もいる。生徒が魔法を使うたびに記録を取られている。詠唱をする生徒もいればしない生徒もいる。魔法ができない生徒は、少しだけいた。そう言う生徒はしょんぼりしているが、校長先生はなにか言葉をかけている。きっと訓練すればできるようになると告げているのだろう。
さてアンの番がきた。
校長先生が話しかける。
「あなたの潜在能力を測る場でもあるので、全力で打ちなさい」
自分が家で爆発を起こしたことを思い出して、思わず「いいんですか」聞いてしまった。校長先生は「いいですよ」とのことなので、遠慮なく行くことにした。
とはいうものの、どの魔法を打つかはノープランであった。
とりあえずパワーの根源たる、修二の顔を思い出す。
修二と言えば中性子である。頭の中でイメージする。
水素を電離させ、陽子を発生させる。線形加速器で加速させ、シンクロトロンに導く。シンクロトロンで加速しまくった陽子線を水銀ターゲットにあてれば中性子線が、と思ったところで危険に気づいた。
そうして発生した中性子線は、高速すぎてほとんどのものを透過してしまう。しがってなにも起きない。水などで減速すればいいのだが、そうすると近くの生物は重大な放射線障害を負ってしまう。
いかんいかんと思い、そう言えば修二くんの小学生くらいの写真って、見せてもらってなかったなぁと思ったら。なんかブワッと力が抜けた。
今一度と思っていたら、隣の校長先生が言った。
「もういいわ、アン」
「はい」
失敗したらしい。
フローラは火の魔法を使い、的が炎上した。さすがである。
ヘレンは土の魔法で、真っ黒な土が的のまわりに盛り上がった。
ネリスは風の魔法で的を吹っ飛ばした。
校庭から教室へもどるとき、アンはみんなが羨ましく声に出した。
「みんな、うまいなぁ。私だめだった」
ヘレンが言う。
「なんかわかんないけど、アン、ちょっとだけど光ってたよ」
「光ってた?」
「うん、アンのまわりに金色の光がね、ふあっとでて散ってった」
「そうなの?」
「そうだよ、ね、フローラ」
「うん、明るくてわかりにくかったけど、光った」
「光った光った」
最後のはネリスだった。で、そのネリスが言う。
「あれ、なんの魔法?」
「わかんない」
「なにそれ~?」
「ちょっとそこ、うるさいですよ」
「「「「は~い」」」」




