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かつての理系女は正体がばれる

「フローラ、何がやっぱりなの?」

「アンが聖女様ってことだよ」

 何を言っているのかわからず他の二人をみても、うんうんと頷いているばかりだ。

「私は聖女様じゃないよ。そりゃ将来なれるものならなりたいけど、次の聖女様は今選考中でしょ」

「本物の聖女様のことじゃないよ、アン、あんた神崎杏でしょ?」

 アンはしばらく口がきけなかった。

 

 すこしして心臓の鼓動が落ち着いた頃、こんどはヘレンが言い出した。

「ねえアン、私初めてあったときからあなたのこと、よく知っている気がしていたのよ。この世界で黒髪の子はほとんど居ないのに、よく知っている気がしてたの。そして思い出したの。中学からの同級生のこと」

 この世界に「中学」という言葉はない。

「そうよ、私達はけっこう見た目変わっちゃったのに、聖女様だけずるいわ」

 フローラの言う「聖女様」という言葉に、尊敬するニュアンスが全く感じられない。

「私は院の聖女様しか知らないけど、子どものときはこんなにかわいかったのね」

「ネリス、何言ってるの?」

「私、恩田真美。ヘレンは緒方のぞみよ。で、フローラは木下優花さんよね」


 そう言われてみれば、フローラの行動は優花を思い出させる。優花は人ができて自分ができないと、意地になってできるまでがんばる子だった。中1の冬、扶桑のスキー教室では友達の中で一人だけ初心者だった。それが相当悔しかったらしく、中2の冬、優花の家族と一緒にスキーに行ったときはびっくりするくらい上手になっていた。

 勉強だって器用にこなす子ではないけれど、きっと見えないところで必死に勉強していたにちがいない。王立女学校でも、いつの間にか自分で着替えができるようになり、もうアンより早いくらいだ。


 ネリスは友達をつくるのがとても上手い。年上だらけの教室で、どんどん友達を作っている。もしかしたら男だらけの札幌生活で身につけたのかもしれない。男ばっかりの物理科でふつうに仲間になっていた。将来の希望の女騎士になっても、圧倒的多数の男性騎士に負けない働きをしそうだ。

 

 そう言えばのぞみは、扶桑女子大付属に入学当初は垢抜けなかった。川崎の緑が多い地域で育ったのぞみは、動物とか虫とか土とか女子が苦手なものが平気だった。付属で過ごすうちどんどんおしゃれになっていったけど、ヘレンもきっとそうなるのだろう。

 

 アンには付き合いが短いフローラ・ネリス・ヘレンの性格が、優花・真美・のぞみと考えれば妙に納得できた。

「みんな気づいてたの?」

 それにはヘレンが返事した。

「私はね、もともとは前の記憶はなかったのよ。だけどアンに会ってから誰かに似てる、似てるって思っているうちに、思い出したのよ、前世」

「私達も、大体そうね」

 ネリスもフローラも同じらしい。

 

 アンは気づいたら涙を流していた。

「私、この世界でひとりじゃないのね」

「そうよ、みんないっしょよ」

 フローラが手を握ってきた。

 

 しばらく泣いていたら、気持ちが落ち着いてきたので聞いてみた。

「で、みんな、どうやってこっちの世界に来たの?」

「「「ブラックホール」」」

「明くんのせいか」

と言いながら、つい視線がヘレンにむいてしまう。

 その視線を受けて、ヘレンは抗議する。

「たしかに明くんもいけないけど、聖女項のせいかもしれないじゃん」

 下手なことを言うと攻撃されそうな気がして、話題をそらすことにした。

「うん、で、実は私、夢の中で修二くんと手をつないでブラックホールに飛び込んだんだけど、みんなは?」

 聞けばやっぱり、ヘレンは明くん、フローラは健太、ネリスは笠井くん(カサドン)と夢の中で手を繋いでブラックホールに飛び込んだということだ。

「ということは男子もみんなこっちに来ている可能性が高いと思うのよ」

 フローラが言う。アンもそう思う。

「私、実は中央に出てきたの、修二くんを探すためでもあるんだ」

 そう言ったら、流石にみんなはそこまで考えていなかったらしい。

「そうか、人を探すなら中央だよね」

 ネリスが納得している。

「そうかな、地方かもしれないよ」

 フローラは納得しない。だからアンは聞いてみる。

「なにか、根拠があるの?」

「うん、今思うとなんだけどね、ネッセタールの幼馴染がね、ちょっと健太に似てるのよ」

「え、どんな子、どんな子?」


 しばらくその話題で盛り上がった。

 

 盛り上がったあとで、ヘレンがぽつりと言った。

「とういうことはやっぱり男子はこっちに来るてる可能性が高いか」

 フローラが答える。

「でも、前世の記憶をとりもどしてる保証はないわよ」

「そうね」

 そう言うわけで、自分たちに関わりのある男性をしっかり観察することを決めた。


 ヘレンが余計なことに気づいてしまった。

「でもさ、私達、男性との接点、全然ないよね」

「うーん」

 それからみんな無言になった。アンは修二を思い出していた。他の子もそうだろう。

 とりあえず勉学に励み、チャンスがあればかつてのパートナーを探すことにした。

 また、「聖女様」というあだ名は封印することになった。この世界では不敬だからだ。

 

 最近、どちらかの部屋に集まって四人で寝ることが多くなっている。

 今夜もアンの部屋に集まって寝た。

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