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かつての理系女は慰める

 夕食後、アン達は居残り部隊に指示を出すヴェローニカにつきあった。かなり遅い時間になっても、騎士団内は物音が耐えなかった。ヴェローニカがアン達に教えてくれる。

「私達はな、所詮女だから儀仗隊のような仕事ばかりでな、このような遠征は不慣れなのだ。情けない話だがな」

 アンとしてはなんと答えていいかわからない。困っていると騎士団長室にレギーナ、ラファエラ、エリザベート、ディアナの四人がやってきた。

「ヴェローニカ様」

「なんだレギーナ」

「どうして私達を連れて行ってくれないのですか」

「なんだそんなことか」

 アンも聞いていなかったから意外だった。

「そんなことではありません! 私達はいままでいつも、アン様たちにお使えしてきました。このいちばん大事な時にお供できないのであれば、私達の忠誠をなんとお考えですか!」

「馬鹿者! いちばん大事な時は今ではない! 結局君たちはずっと働きづめではないか! まずはちゃんと休め! 私の予想ではもっとも危険なのはもう少し先だ! そのときまでに必ず呼ぶ。そのときに疲れた顔など見せたら、その場でクビにしてやる!」

「ですが、アン様もヴェローニカ様も、ずっと働き詰めではないですか」

「気にするな、それだけの給料はもらっている。それにレギーナ、君は聖女様の副官になりたいと以前言っていたな」

 アンは知らなかった。

「副官の仕事はな、指揮官を働き続けさせることでもあるぞ、な、ソニア」

「その通りです」

「ソニアは絶妙なタイミングで休暇をとるぞ」

「はい、ヴェローニカ様にお任せして良い時は、休ませてもらっております」

「これだ、わかったか。私が一人でできるのは、重要でない仕事だけだ」

「は、はい」

「わかったら下がれ、四人とも二日以内に休暇を取れ! 命令だ! ソニア、頼んだぞ」

「承知いたしました」


 アンはヴェローニカに聞いてみた。

「ヴェローニカ様、騎士団の居残り組はどれくらいですか」

「ま、ざっくり言って騎士団の3分の2だな」

 アンは、ヴェローニカがアン達の護衛を交代交代でやらせようとしていることが理解できた。部下に無駄な負担をかけたくないのだろう。アンは今度はソニアに聞いてみた。

「ソニア様、居残りの方々の様子はどうですか?」

「みな、レギーナたちと同じですよ。なぜ連れて行ってくれないんだと不満たらたらですよ」

 ヴェローニカはハッハッハと大笑いしている。騎士団の士気は高い。

 

 寝る段になって、ネリスがアンのベッドに潜り込んできた。

「今宵の聖女様の警護は、このネリスが承りますぞ」

 そう言っていたが、ネリスはアンと手を繋いだ。

 

 夜中アンが目を覚ますと、となりのネリスが泣いていた。寝る時は手を繋いでいたのだが、今ネリスはアンに背中を向けている。小声で、

「カサドン、会いたい、どこにいるの」

と言いながら泣いていた。明は見つけた。健太ももうすぐ合流する。修二とは一度顔を合わしただけで言葉を交わしたわけではないが、とにかく無事でいるのはわかっている。しかし真美の恋人笠井智樹、通称カサドンだけ見つからない。いつもふざけた口調で元気いっぱいのネリスは、密かにカサドンが見つからない辛さに耐えていたのだ。

 アンは掛けるべき言葉が見つからず、そっとネリスの背中を抱いた。

「聖女様、ごめん、おこしちゃったね」

「ううん、ごめんね」

「なにがごめんかわからんが、聖女様の胸はやわらかいのう」

 そう言いながらもネリスはまだ泣いていた。

 

 翌朝は早くは起きたのだが、出発は少し遅れた。中央病院から野戦病院への応援と合流するためである。第三騎士団と一緒に動けば医療チームの護衛はいらなくなるから合理的と言えた。

 アン達4人はまた馬車の旅である。ヴェローニカと副官ソニアも馬車に同乗した。話し合いのためである。地図をひろげ、乗り物酔いになりそうになりながらも知恵を絞る。昨日の夜寝たのも遅かったしネリスを慰めたりもしていたので睡眠は不足している。だから休息を取るべきかとも思うのだが、目を瞑ると不安な事が次々と頭をよぎってしまう。だから地図を見て情勢を考えたりしているほうが気楽だった。

 馬車の外にはレベッカ、カロリーナ、ネーナ、マリカの4騎が直衛についていてくれているのが見える。今にも雨が降り出しそうな曇り空は行軍には楽だろう。明日は雨になるかもしれない。雨は遠目が聞きにくいから、敵の浸透部隊にとっては好都合かもしれない。

 

 ヘルムスベルクには夜についた。街を囲む城壁を通ると人通りは少ないが、食堂や酒場だろうか、まだ明かりのついている店はそれなりにあった。こういう街ならば、戦いに疲れた兵たちの急速にはいいかもしれない。

 ヘルムスブルク中心部に領主メルヒオールの館がある。第三騎士団はそこに間借りする予定だ。ヘルムブルクは国境に近い城塞都市であるから、領主の館は最初からそのような用途に適するように作られたという話だ。到着してみると、たしかに広々としていて使い勝手や良さそうだ。

 メルヒオールには聖女の身分は隠したままにするか迷ったが、口外無用ということでアンは身分を明かした。アンたちにはヴェローニカと続きの間が与えられ、戦地に赴いたにしては豪華な部屋でその夜を明かした。雨が降り出した。

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