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リベンジ陰キャ(お泊まり会、夜)

「晩ご飯、作るぞー!」


 恋バナが終わり、勉強会の名目を保った昼も終わり、空も茜色に染まっている時刻。利根さんが元気に宣言していた。


「材料は持ってきてるよ!お肉です!」


 泊まりは1日だと言うのにカバンは大きすぎるし、カシャカシャビニールの音もするし……と思っていたら、まさかの肉を持ってきていたらしい。常温放置してないよな……?


「常温放置かと思ったでしょ?保冷剤も持ってきてるんだよ!」


「流石まふ、賢いねー」


 安全ならそれでいいとして、味付けはどうするのだろうか。まさか肉をそのまま焼いて完成だなんて言わないだろうし。


「ということで利根真冬プレゼンツの晩ご飯は、焼肉!」


 あっダメだこれ。


「真冬さん……」


 おっ、言ってやれ彼氏。


「焼肉のタレがあるかは確認しなきゃ」


 そうじゃない。いやあるけど。肉だけじゃ足りないだろ。


「ちなみ千葉雪プレゼンツの一品はシーザーサラダ!実はまふに一緒に入れてもらってたんだ」


「おお……」


「僕は何も持ってきてない……ごめん」


「いや、そもそも何かを期待してうちに招いた訳でもないし……むしろ二人に申し訳無いよ」


 食材を持ってくるだけでなく、料理まで作ってくれると言っているのだ。感謝より申し訳無さが大きい。まぁ、作ってもらっておいてなんだが、焼き肉が料理として成立するか怪しい気もするけど……もちろん口に出せるわけがない。


「別に料理ができないわけじゃないんですけどね。ほら、焼き肉って思い出深いので」


 肉のパックを開け、塩コショウをまぶしつつ語る利根さん。よかった、下味は付けてくれている。


「思い出深い……?」


「宗介くん、忘れたとか無いよね」


 忘れた、ということは僕たち四人にとって思い出深い焼き肉……ああ、そういえば。


「校外学習、肉焼いてたね」


「そうそう!」


「あん時は鴨川が焼いてくれてたからなぁ、近寄りがたい感じもしてたし」


 千葉さんはレタスをちぎりながら僕を見る。


「そんなに酷かった?」


「酷かった酷かった」


 「まぁだからこそ愚痴とか零せたんだけど」と付け加え、千葉さんは再び作業に戻る。彼女の性格を思うと、今の僕に対しては愚痴なんて零さないだろう。今の僕、というよりもこの関係性の僕というべきだろうか。


 僕は自惚れ抜きで、ある程度仲良くなったと自負している。もちろん主観的な意見なので事実と若干のズレが生じているかとは思うが、とにかくこの四人の仲はあの頃と比べ物にならない程に深まっているはずだ。一年も経っていないというのに。


「あっ、ご飯炊忘れてた!やっぱり焼き肉だし、ご飯もいるよね……」


 そういえば利根さん、校外学習の時も結構な量食べてたな。ここまでやってもらったのだから、後は家主の僕の仕事だろう。


「ご飯は僕がやっとくよ。あとテキトーにスープとかも。その間にリビング片付けてくれるとうれしいかな」


「了解!」


「僕もやること無いし片付けるよ」


 肉に下味をつけた利根さんと、手持ち無沙汰の竜田が食事のスペースを作ってくれているようだ。なるべく早く終わらせないとな。と言っても炊きあがるまで急速でも30分はかかるわけだが。


「なんのスープにするの?」


「わかめとたまごのスープかなぁ。ほら、なんか焼き肉の時飲みたくなるから」


「わからんでもないかも」


 しばらくの沈黙。リビングから竜田達の声が聞こえてくる。


 僕はこういう空気はそれほど苦ではないのだが、千葉さんの方はどうだろうか。話しかけてこないところを見ると、向こうも同じかもしれない。


 人数が人数なので少し大きめの鍋で湯を沸かしているが、やはりいつもより時間がかかる。

 無心で鍋を見つめている間にサラダの準備が終わったらしく、千葉さんは「できた!」と言って冷蔵庫の中にサラダボウルを入れた。


「……鴨川」


「どうした?」


「今リビング行ったら邪魔になるかな」


「あー……」


 確かに、向こうから音も声も聞こえない。付き合いたてのカップルだからな、仕方ない。邪魔しないようにしよう。






 結局リビングを様子見した所、別にイチャイチャしていたわけでも無く、スープも出来上がったためそのまま晩御飯を始めることにした。


 なるべく声は抑えて楽しんでいたので隣人にも壁ドンをされずに、パーティは静かに終わった。



「ごめん、それしか無くて。ベッドで寝る?」


「いーよいーよ。急にお邪魔したのは僕たちの方だし」


 風呂などを済まし、女子は葵さん、男子は僕の部屋という形で就寝の準備を始めていた。もちろん葵さんには許可を取っている。


「じゃ、電気消すよ」


「うん」


 暗がりの中、いつも通り自分のベッドに潜り込む。しかし、自室にもう一人いるという感覚が新鮮で少し心がうわついている。


「修学旅行以来だねぇ」


「そういえばそうだな。まぁ一緒の部屋で寝るとか頻度高くないでしょ」


「確かに」


 その後も何分か駄弁り、深い眠りについた。



(葵さん、元気にしてるかな……)


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