旅立つ陰キャ(旅立ちを見送る側だけど)
「姉さんが事故って家がてんやわんやらしいので、しばらく実家に帰る」
葵さんから今朝伝えられた事だった。ちなみに嫩さんははねられた側らしい。左足と肋骨がやられたのだとか。そんな呑気な話ではないけど、本人から葵さんに送られてきた笑顔の写真を見るとついそう思ってしまう。
久々の一人だ、晩御飯どうしようか。自分の分だけだしテキトーに済ませるのもありなんだよな。こういうのが久しぶり過ぎて、むしろこっちが非日常に感じる。いや、それが正しいか。
短いからといって、葵さんとの生活が非日常というわけではない。二人暮らしがこれからの日常なんだ。少なくとも、あと1年……高校を卒業するまではこの日常は続くと思う。大学もこの場所から通おうとは思ってるけど、二年も経つと葵さんも何か変わってるかもしれないし。
今更だが、いや常々思っているわけだが、葵さんの仕事はなんなのだろうか。あの人がいつも言っているようにホワイト企業なのは、今回の長期休暇からもわかる。しかし業務内容というか、企業の輪郭すら見えない。会話はするのにそういうのは見事に話さないんだよな、葵さん。
一番想像しやすいのはOLだが、実際なんの会社なのかが想像できない。案外プログラムとか上手そうだし、そっち系かもしれない。もしくは前に外であったことがあるし、営業部署の可能性も……。
考えれば考えるほどわからなくなる。そもそも、いわゆるOLやサラリーマンの詳しい仕事内容というのを理解しきれていないというのも理由の1つだと思うが。
もちろんサラリーマンといっても色々な業種があるのはわかる。その中でもパソコンに色々入力している所をドラマやアニメで見たりするが、じゃあ何を入力しているんだ?となる。他者への連絡?資料作成?じゃあその資料ってなんの資料?疑問を挙げたらきりが無い。
その点高校生は楽だ。出された課題をこなし、テストの前に少し勉強するだけで成績は足りる。日頃の積み重ねというのは少しでもなんとかなるし、難しい事を考えなくて済む。もっとも、僕の場合は自分からあれこれと考えようとしているわけだが。
葵さんが帰ってきたら聞こうかな……でも迷惑かな……。まぁそれとなく尋ねるぐらいなら大丈夫か。好奇心には抗えない。
さてさて、別に僕の思考回路を葵さんにつぎ込む必要は無いんだ、別のことを考えよう。
そうだな、1月はやはり寒い。とても寒い。三学期は毎日学ランだけでなくマフラーと手袋も常備している。
あとはあれだ、クラスで咳き込む人が多い。乾燥や急激な気温変化の影響なのか、病欠の生徒も増えている気がする。
病気に対する対策は確かに義務教育の範囲で色々教えては貰っているが、高校生で実行する者は少ないかもしれない。
手洗いうがい、消毒、マスク、規則正しい生活。僕も手洗いうがいやマスクこそしているが、消毒までは出来ていないし生活が規則正しいかと問われると返答に悩む。
そもそもとして大型パンデミックが起こったりしなければ、そこまでの意識を持つことも無いだろう。日本人は毎年、インフルエンザがニュースで報道され始めてからそれを意識する生き物なんだ。かくいう僕も、こういう時期じゃないとマスクまではしないけど。
というか、なんかあれだな。僕の捻くれた哲学的な思考回路が改善されてる気がするぞ。自覚できるぐらいには。まぁ、良いこととも悪いこととも言い難い事だな。
「……ただいま」




