表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/73

二人の陰キャ 幕間

「それで、さ」


 葵さんと別れた後。珍しく、僕側から話しかけた。


「結局どうなったの?」


 一瞬、問いかけた相手は困惑したが、すぐに思い至ったらしく、予想通り顔を赤くした。


「いや、その……まぁ……と、真冬……さん」


「んっ!はは、はい!」


 竜田は雪像づくりに集中していた少女を呼んだ。しかも下の名前で。


 既に結果は分かっているようなものな気がするが、それでも本人の口から聞きたい。千葉さんも自分から詮索していなかったのか、「えっ、まじ!?」と驚いていた。


「えっとですねー、うん」


「その〜……ね」


 二人は横に並び、恥ずかしそうにほお頬をかく。歯切りも悪く、まるで察してくれと言わんばかりの空気だった。ので、本人たちから結果を聞くためにド直球に質問を投げつける。


「竜田、告白してどうなったの?」


「なっ!……んでそれ知ってるの?」


「この前の駅で去ったふりして様子見てたから?」


「酷っ!」


「ちなみにこの情報はすでに千葉さんと共有しているし、こちらはこちらで話した結果『二人から言われるまでは待とう』という結論に至ったんだけど……」


 そう。立ち去った直後、電車に揺られていた時に千葉さんに伝えていたのだ。彼女は好奇心と(本人いわく)親心が衝突した結果この結論を出したと言っていたが。


「いくらなんでも遅すぎるよ!もう年越したよ!『今年中には教えてくれるかなー、もしかすると年明け直後にサプライズかなー』とか思ってた私の心を返してよ!」


「知らないよ!?」


「それと今日も聞くの一瞬ためらったんだよ?『振ったから言ってないんじゃないか……』って!でも完全に"そう"じゃん!言ってよ!」


「いやっ、そのっ、ごめん!舞い上がってて……」


「ま、舞い上が……!」


 あーダメだこれは。


 本人たちから詳しいことを聞くのは後にしよう、一旦離れよう。


 僕はその場をさっと離れて御杖に話しかけに行った。


「御杖、久しぶり」


 ……。そういえばなんで僕は話しかけに行ったんだ?一人でぼーっとしてればよかったじゃないか。葵さんに毒されてないか?


「おう、あけましておめでとう」


「あ、うん。今年もよろしく」


 あけおめって略さないタイプなのか。御杖に関しては前の修学旅行で少し慣れるぐらいには関わったので、思ってた反応と違いびっくりだった。

 まぁ僕なんかが描いた像が正解したほうがおかしいというものか。


「そういや鴨川。竜田のやつ、あのー……アイツ、誰だっけ」


「ん?……あぁ、利根さんか。まぁおそらくだけど、利根さんと付き合い始めたんだと思うよ」


「あいつがなぁ……」


 そういえば昔の御杖については聞いたことがあったが、どういう経緯で仲良くなったのかは知らないんだよな。あっちはまだあたふたしてるし、聞くか。


「御杖はどういう経緯で竜田と知り合ったんだ?」


「……まぁお前なら良いか、言いふらす相手いなさそうだし」


 酷いな、事実だけど。


「俺、中学の頃から新聞配りしてたって言ってたろ。あん時に見つかったんだよ、アイツに。

 そっから学校に行った日は絡まれるようになって……嫌ではなかったから話してたんだけどな。

 それが気に入らないのか、それとも俺の面で判断したのか……俺と竜田の関係が拗れたもんだと噂されたんだよ」


 ……なるほど、それから疎遠だったからぎこちなかったわけか。見た目で判断は良くないけど、いや、うん。ダメなんだけど、この見た目はちょっと、うん。


 噂というのは流さなくても勝手に大きくなっていくもんだ。例えば「御杖の顔が怖い」と誰かが話せば無意識でも耳にした人間の頭に影響は与えるはずで。そういう積み重ねで噂なんてものが大きくなるのかもしれないなと。


「何の話ですかー!私も混ぜてください!」


「あ、城廻さん」


「えっと、御杖くんでしたっけ。どうも!郡山城跡の城に輪廻の廻、クールなレインで城廻冷雨です!」


「……おい、なにこのハイテンションな姉さんは」


「葵さん……えっと、僕の同居人の知り合い。こう見えて四十代らしい」


「よっ……嘘だろおい」


 本人の前でこの情報は余計だったかと思ったが言ってしまったし仕方ない。だいぶ失礼な気がするけど、仕方ない。ごめんなさい。


「俺は御杖だ」


「よろしくっ!御杖くんはどこでそのピアス買ったんですか?私それが気になってまして」


「……!このピアスは『チェリースター』っていうブランドので――」


 そういえばバイト先の人はガラが悪いんだったか。共通の趣味を優しい人と話せるのは嬉しいんだろう。……めっちゃテンション高いけど。


 僕は二人に気を遣ってその場を離れた。


「はぁ――」


 白い息を吐く。


 そろそろ三人のところにっても良いんだろうが、正直話し疲れた。軽く挨拶して帰るか。


「ごめん竜田、千葉さん、利根さん。僕もう帰る。また今度よろしく」


「えっ、じゃあ今言う!ストップ!利根……真冬さん、いいよね」


「う、うん!」


 ぐっと拳を握り、顔を赤く――しかしいつもとは違う、真面目な顔でそれを言った。


 多分、告白した時の竜田はこんな感じだったんだろう。その覚悟、度胸、全部が凄いと思える。




「僕、告白して、それで、その時から付き合ってます!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ