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本音の陰キャ(クリスマス後編)

「そろそろ行こっか」


 特に何事もなく10分が過ぎ、千葉さんに一階に戻るよう言われる。


 ホントに何もなかった。ひたすらにどんな展開か話したり無言になったりしか無かった。


 こっそりバレないように階段に足をかけると、下から音が聞こえてくる。ゲームの音だろうか。


「……めちゃくちゃコントローラーの音聞こえてくるんだけど」


 モニターからの音だけでなく、コントローラーのボタンのカチャカチャ音すら聞こえてくる。なんでそっち方面に白熱してんの?


 どうしようもないのでリビングに戻ると、そこでは格闘ゲームを繰り広げる二人がいた。


「こういうゲームあんまりやらないんだけど、凄いのはわかる」


「私の家にこんなゲームあったんだ……」


 おい千葉さんよ、ソフトぐらい管理しとけ。なんて口にできるわけもないので2人の邪魔にならないように座った。


「……あ、勝った」


 そのタイミングで利根さんが竜田をKOした。いや二人とも無言なの怖いよ。もうちょっとなんか反応あるでしょ。


 と、思っていたが竜田の顔を覗き込んでみると真っ赤だった。なるほど、ゲームに熱中してたり僕らに怒ってたりではなく、単純に緊張から黙っていたのか。利根さんの方は知らないけど。


「ふたりともおかえり。どうだった?」


 利根さんがいつも通りの声色で訪ねてくる。


「あ、うん。実家もここまで広く無いし、楽しかったよ」


「良かったね」


 どうしよう、目が笑ってない。脈ナシとかではなくて、勝手にいきなり二人きりにしたから怒ってるやつだ。しかしおそらく千葉さんにしか強く言わないと思うので、僕はそのまま竜田に小声で話しかける。 


(竜田、なんでこうなってるんだ)


(あのね、緊張してたらこのゲームを見つけて、それで僕も利根さんも格ゲーが得意ってわかって……だからやってみようって流れになったんだ)


(流れはわかったけどさ、もうちょっとアプローチとかあるでしょ……)


 まぁ陰キャの僕が言えた義理ではないが。


(というか、利根さんの反応とかはどうだったんだ?)


(えっと、普段よりぎこちない感じで……嫌われてないよねこれ)


(僕もわからないぞ。陰キャを舐めるな)


 誇るところかそれ、と言わんばかりの目で見つめられる。


(でも、向こうも緊張してるだけっぽいのはなんとなくわかるぞ)


 その事だけ伝えて、二人に話しかける。自ら話しかけるだなんて、僕も成長したものだ。


「千葉、昼ごはんどうする?」


「あー、作ろうと思ってた」


「じゃあ手伝うよ。この前千葉にはお世話になったし」


 別にここは打ち合わせなんてしてなかったけど、奇しくもまた二人きりにする形となってしまう。いや、流石に露骨すぎるな、と思ったので「僕が作るから千葉もゆっくりしてて」と座るよう促す。


 流石千葉さんというべきか、僕の意図をくんで「わかんないこととかがあったら呼んでね」と残る。


 千葉さんのその力は陽キャだから相手の気持ちがわかるのか、それとも元々察する能力が高いのか。真相は定かではないが、なかなかすごい力だと思う。


 というか、そんな千葉さん達とクリスマスを共にしていて良いのだろうか。もしかすると僕抜きでやったほうが楽しかったんじゃ?いや、そもそもこのメンツじゃないほうが良いのでは……?


 だなんて延々と考えているうちに料理が出来上がってしまう。オムライスだ。


「おまちどうさま」


 四人で食べたオムライスは、我ながら素晴らしい出来栄えだった。






「じゃあ僕はそろそろ帰るよ」


 空もすっかり暗くなった頃、竜田が立ち上がりながら言った。たしかにもういい時間だ。


 昼ごはんを食べたあとはテレビゲームやボードゲームなどでも遊んだが、未だに満足しきれないほどに楽しい。しかし僕も家に葵さんを待たせているので帰らざるを得ない。


「今日は楽しかった、ありがとう」


「んーん、付き合わせてごめんね。というかあの二人結局あんまし進展しなかったよね」


「まぁ緊張せずに前みたいに会話できるようにはなったっぽいし、良いんじゃないか?」


 談笑している二人を遠目に、笑う。


「じゃあ改めて、またね」


「ありがとー!まふと竜田も気をつけるんだよー!」


 僕たちは千葉さんに手を振りながら駅へと歩いた。


 道中は今日の振り返りをした。アレは面白かった、傑作だ。そんな話をしていたが、午前中の二人きりタイムの話は一切出てこなかった(切り出す度胸もないのでなかったこと扱いになってそう)。


「あ、僕こっち方面だから」


 これが最後の狙いポイント。千葉さんの家を選んだ最大の理由。


 帰り道で、竜田と利根さんは二人きりになるのだ。


「じゃあまたね」


 僕はそそくさとその場を後にする……ふりをして、こっそり二人を見守る。あ、顔赤い。


 ん?竜田、なんか……あれ?もしかして告白しようとしてる?


 ……気になりはするがこれ以上は野暮なので、本人に後日談を聞くとしよう。僕は、今度こそ本当にその場を後にした。





「やあおかえり。メリークリスマスだ。……大丈夫か、先に風呂に入ったらどうだ。いや、私は確かにお腹が空いているが優先順位は低いよ。それに、今日は私がピザを奢るというのもやぶさかでは――おお、嬉しそうだね。よし、好きなものを頼むといい。あ、好きなものをとは言ったが限度は考え……待て!それは高い!ちょっと待って!こっち!こっちにしよう!な?な!」

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