聖戦(クリスマス・中編)
「なぁ竜田、利根さんとはどこまで進んだんだ?」
僕は意を決して竜田に尋ねる。予想外の質問だったからか、肩をビクッと強張らせ、また顔を赤くした。そして、恥ずかしそうにこたつの布団に顔を隠す。その反応自体は別にいいけど、そんなに布団を上げられたら寒いじゃないか。
「どど、どこまでって……別に友達なだけだよ、今は」
「それは知ってる。じゃなくて、修学旅行の時に二人でアトラクションに行った時にいい感じだったじゃん。その後はなんかないの?」
アトラクション……そこで二人はキャストさんに恋人と間違われ、どちらからというわけでもなく気が付けば手を繋いでいたと聞いた。
そんな甘酸っぱい経験をしたんだ、僕たちが知らないうちに事が進んている可能性も考慮するために、尋ねるという手段を選んだ。
「実はその、あれ以降は話せて無くて」
「……あー」
そっちか、なるほど。それはそれで想定はしていたので問題ない。ここは少し茶化しつつも背中を押す感じの言葉をかけよう。
「でも、あんなに甘々な時間過ごしたんだからイケそうな気がするんだけどなぁ」
「た、確かに……?」
「もしダメだとしても、今日はクリスマス。押すには絶好の機会だと思うんだが」
「言われてみれば……」
「僕は応援するよ、千葉さんは知らないけど」
「……うん、やってみる!」
よし、いい感じだ。竜田がこうなったら利根さんが乗り気かそうでないかに関わらず事は進むだろう。
竜田にやる気を出させた直後に二人がリビングにやって来る。危ない、千葉さんもう少し時間かけてても良かったんじゃないか?そう思いながらじっと見ると、苦笑いで顔を逸らされた。利根さんは普段と変わらない様子だ。
二人の表情や動作を見る限り、向こうはあまりかんばしく無かったらしい。こちらさえどうにかしてしまえば良かったので別に問題ないが。
さて、次は席取りだ。実は竜田が座る場所を誘導していたのだが、それは入り口から一番近い場所……つまり下座に座らせている。利根さんはおそらく上座下座を知っていて、かつ気にするタイプのはず(千葉さんがそう言っていた)。それならば利根さんが座れる場所の選択肢は一つだけ。
「さ、座って座って」
「う、うん……」
千葉さんが上座に腰を下ろし、更に追い討ちをかける。これで正真正銘、利根さんの退路は断たれたわけだ。
「で、何するの?ゲーム?冬休みの課題は嫌だよ?」
「まぁ焦らないでよ、まふ。まずは……探検です!この家の!」
謎の倒置法と勢いに、事前に聞いていた僕するも驚く。利根さんはその意見を聞くと、ため息をつく。
「私この家何回も来てるから知ってるよ?というか二人に勝手に見せていいの?」
「いいのいいの!それとも乗り気じゃない?」
「まぁそりゃあ、うん」
目を逸らし申し訳無さそうに言う。凄いな、ここまで千葉さんの思い通りとは。千葉さんの洞察力か、それとも手に取るようにわかるほどに仲が良いのか。
「乗り気じゃないならここで待っといて良いよ。そこにゲームもあるし。探索終わったら合流するね」
「えっ、あ、うん」
「他に探索したい人はいる?」
本来ならば僕も手は挙げない。しかしこの瞬間だけは違う。僕はできるだけ笑顔で挙手する。
「折角だし」
「よしっ、じゃあ私たちは探索してくるね!」
有無を言わせない速さでリビングを出ていく千葉さん。僕はそれにそそくさとついていくほか無かった。
◆
「ちょっと強引過ぎない?この展開」
「うん、正直私もそう思う」
僕たちは反省会をしていた。おかしいな、作戦会議中は素晴らしい!と思ったのに、いざ実行したら思惑がすけすけではないか。
「取り敢えずここで10分ぐらい待っとこ。耐えきれないならこっちに来るでしょ」
「あ、うん」
ここに10分。つまり千葉さんの部屋に10分か。
……耐えきれるか?




