キャラ付けする陰キャ(久々だなこの感じ)
「ひとつ特殊能力が手に入るなら何が良い?」
クラスの男子が何気ない会話をしていたのを、僕は隣で耳にした。
こういうのはネットならまだしもリアルなら中学生までの話題と思っていたが、たしかに思い返してみれば僕の言動もだいぶアレな気もするので強くは言えない。むしろ、彼らの会話と同じような事しかしてきていないとすら言える。
さて、この手の話題についてだが、人によっては毎回ぶち当たる壁がある。
『その能力を手に入れる経緯は?』
もしも無条件に神様から一つ僕だけに与えられるのだとすれば日常生活を便利にする、ささやかな能力をお願いするだろう。
しかし、例えば能力バトルの世界観だとすればそんな人は格好の餌。主人公のチュートリアル用に殺されるだけのモブ的な能力だ。
ではそういう時にお願いする能力は、と聞かれると僕は一つしか答えない。
『能力を無効化する能力』
無効化系のキャラクターは大抵終盤まで生き残る。もちろん言い回しからわかる通り、最後まで生きているかと言われると首を縦に振り辛い。
だが、死に際すらかっこいいのであれば男としては満足なのでは?
例えば味方のために足止めをしたり、主人公に助言を残し死に、要所々々で回想シーンが挟まったりと、主人公の人気を食って掛かるにはこの上ない能力だと思う。
もちろんそれは想像上だから言えることであって、実際に与えられるとなると生存第一の能力を選ぶだろう。あくまでこういう毒にも薬にもならない駄弁りだからこそ出せる答えだ。
ほかのシチュエーションであれば代償が必要というものであったり、見つかれば即座に処刑されるだったりと、いろいろあるのでそういう背景は先に聞いておきたいと常々思っている。
そういえば僕はこれまでファンタジー作品について考えたりはしてこなかったな。この脳内の独り言をずっと聞いてきた誰かがいたとすれば「実は隠れ厨二病だった!?」と思われかねない内容だった気がする。
まぁそんな妄想すら厨二病臭さを感じるわけだが、これ以上はいたちごっこ。話題を変えるとしよう。
例えば知り合いの人たちはどう答えるのだろうか。
前もって言っておくが、これはあくまで予想をしているだけであって、決して偏見などではない。実際に聞く勇気がないゆえの手段とも言える。勝手な妄想を勝手に押し付ける自分勝手な変態と思われても仕方がない行為な気もするが、脳内ぐらいは好き勝手使いまわしても許されるだろう。
さて、まずは竜田。
あいつは時間に干渉できる系の能力を欲しがりそうだ。時間があればその分遊べるし寝ることも出来るからな。まぁこれは竜田に限らず一定数の人気を誇る能力なわけだが。
利根さんや千葉さんは……いや、この話題を考え始めておいてなんだが、想像出来るほどにあの人達のことを知っているわけではないんだよな。
そもそもあの二人がこういうファンタジーに触れている場面を見たことがないのも一つの理由だろう。気になるがそれとなく聞くような話題でもないし、諦めるとするか。
他は……葵さんか。
いや、あの人はなんなんだろうか。会話に関するものを欲しがりそうだが、しかしどんなものを欲しがるかと考えたら答えが出てこない。
葵さんのこれまでの発言の数々から推測するに、葵さんにとっての『会話』は相手のことを知るためのものではなく、単純に『会話』自体が目的な気がする。ので、情報を得る類の能力ではないだろう。
となるとやっぱり会話のための時間をつくる能力か?会話の誘いを断れないようにする催眠系か?
予想を立てることは簡単だが、どれもイマイチ決め手に欠けるものばかりだった。仕方ない、葵さんには帰ってから聞こう。どうせこれも話さないといけないんだし。
「なるほど、これはまた珍しいね。確かに能力の前提などのくだりはソウスケ君らしかったけど、もっと捻くれたことを考えるかと――睨まないでくれないか、普通に怖い。まったく、油断も隙もないな。修学旅行から帰ってきて少し私への当たりが強くなってないか?気の所為?まぁそれでいいよ。
さて、能力の話だったね。ソウスケ君は私を会話の魔物か何かと勘違いしていないか?私が欲しい能力は……別に無い。つまらないと思うだろうが、本当に要らないと思っている。
私は今の生活に満足しているし、不満も少ない。不満があったとしてもそれは超能力を欲する理由にならない。この人の身で生まれた以上、等身大の努力で生きたいと思っているんだよ
……なんてかっこつけはしたが、超能力の代わりに大金なんかは貰いたかったりするけどね」




