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二年三組の変身・午前 二年三組修学旅行・二日目

「これがかの有名な夢の国かぁ」


 竜田が入り口を見ながらワクワクしていた。結局あの後3時まで起きていたのに元気すぎるだろこいつ。


 辺りを見渡すと、期待が溢れ出ている生徒やダルそうな生徒、家族連れだっている。やっぱりこういうテーマパークはなんというか、場違い感が強い。


「そういや夢の国で万引きしても捕まらないとかいう都市伝説あったよね」


 雑談のノリで竜田が話しかけてきた。久々に私服姿を見るので新鮮に感じる(同じ部屋なので朝いっしょに着替えたし今更感あるが)。


「にしてもそんな都市伝説初めて聞いたな。万引き認定が園外にでた瞬間だからとかか?」


「ううん、実際はお店を出た瞬間に連れて行かれるらしいよ。たしか「夢の国を出て現実に戻ったから捕まる」だとか、そういう都市伝説だったはず」


「はは、小学生とかが好きそうなやつだな」


「でも僕はこの手のやつ好きだよー?」


 楽しそうに笑っているので本心なんだろうが……意外だ。いや、竜田なら案外なんでも楽しめそうな気がするしイメージ通りなのかな?


「でも夢の国の中……夢を見てる最中なら捕まらないとか国会じゃん」


「えっと……不逮捕特権だっけ」


「それ。それにほら、議員達もいつも会議中に夢をみ――あだっ!」


 上手いこと言ってやったという顔でカッコつけている竜田の頭にチョップする。


「なにすんのさ」


「いや、なんか……」


 流石に顔がムカついたからと口に出すのは憚れる。そこまでの度胸を持っていないのが僕だ。しかしどう切り抜けるものか……。


「……あ!」


 なだめているとどうやら開演時間になったらしく、先程までとは打って変わって満面の笑みで竜田が走り出す。


「早く行こう!」


「……」


 呆れつつも、いつもより早く歩きながらついていく。テーマパークで浮足立っているのは僕も変わりなかった。





「よし!まずは小さめのジェットコースター行こう!」


 ジェットコースター……というか、いわゆる絶叫マシンが苦手なのかどうかもわからないので不安だ。幼い頃、ブランコの速度でビビってた記憶があるのでもしかしたら苦手かもしれない……なんて思いながらも、一緒に並ぶ。食わず嫌いは良くないからな。


「すごいね、このアトラクション小さいのにもう15分待ち」


「同じこと考えてる人が多いんだろうな。おっきいとこだと時間帯によってはもっとありそうだな」


「だね。一人だったら死んでたよ」


「……」


 そうは言ってるが、竜田は一人でも楽しめるタイプだと思う。実際休み時間は誰かが話しかけるまでボーっとしていたりもする。


 他愛のない雑談をしながら10分ほど経つと、ようやく僕達の番が来る。


「楽しみだね」


「……正直言うと、座るだけでなんか緊張感出る」


「ま、まぁ楽しめる……と思うよ!小さいからそんなに激しくないだろうし!」


 フォローはしてくれているが、絶叫マシンという未知の恐怖を打ち消すほどではない。だが、恐怖が気持ち程度に薄れた気もする。


 そんなこんなしていると、動き出す。嵐の前の静けさというべきか、ゆっくりとした移動だ。


 歯車か何かと噛み合ったのか、一瞬ガタン!と言って止まり、緩やかに登っていく。


「……」


「……」


 僕も竜田も黙ってはいるが、竜田が笑顔なのに対し僕は不安満載だった。見た目よりも高い気がする……実際に体験してみると変わるものなんだな。


「「あ」」


 頂点に達し、下が見える。


 それと同時に既に次の山に着いていた。


 速い。すごく、速い。Gと風がやばい。なんとも言えない身体の感覚が、恐怖と興奮を与えてくる。これはあれだ、肝試しやお化け屋敷のような病みつきになるタイプの恐怖だ。


 気付けば一周回っていたらしく、僕達は降りることになった。


「……っとと」


 足元がおぼつかない。平衡感覚が乱れているのだろう。楽しかった。


「その顔、すっごく楽しかったんでしょ」


「ああ、みんな叫んでるからそんなに怖いのかと思ったけど、これはやみつきになるな」


「でしょでしょ!というか宗介くん一切叫んでなかったよね」


「ん、あー」


 確かに竜田や他の客は叫んでいた。今も叫び声が聞こえてくる。しかし僕は、そうやって力を入れるよりも、脱力して流れに身を任せるほうが楽しいと思った。だから、最初の方こそ驚いて声が出たが力を抜いて遠心力に振られていたのだ。


 その事を竜田に伝えると「そういう楽しみ方もあるのか……」と、興味深く考えていた。僕、そこまで珍しいこと言ってない気がするんだけど。


「つぎ、どうするの?」


 このままだと考え続けそうなので意識を現実へと引っ張る。無事戻ってきたようで、竜田はマップを指差す。


「ココに行こう!」


 こうして。


 竜田と二人で園内を周り、ひたすらに楽しんだ。




「ふぁ〜、昼ごはん早めにしてよかったね。人増えてきたよ」


 現在の時刻は11:30。コーヒーカップやれなんやらで疲れてしまったので先に休憩したいと打診したのだ。いやほんとになんであんなに回るのアレ……。


「午後はどうすんの?」


「んー、そうだね……。やっぱり有名どころは乗りたいでしょ!」


 そう言って指差した2つは、この園の顔と言っていいジェットコースター達だった。


 1つは超高速トロッコ、もう1つは超高速宇宙船……をモチーフにしたものだった。


「竜田…ジェットコースター好きすぎだろ」


「僕がというより人間が、だけどね」


「それもそうか。……んで、どっちから行くんだ?」


「じゃあトロッコの方!」


 ということで。


 約1時間程並び続け、ようやく僕達の順番が来た。こんなに待っても楽しいのは一瞬というのが残念だ。


「ベルトよし、体調よし、景色よし、覚悟よし」


「僕は覚悟できてないけどな」


 竜田が楽しそうに確認していたので横から茶々を入れる。先程のでわかったが、ジェットコースターは覚悟を決めて乗るほどのものでもない。


 僕は期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと登っていくジェットコースターに身を委ねる。


「……高くね?」


「そりゃあここでもデカいジェットコースターだから!」


「……そっか」


 覚悟、持ってくればよかった。





「……っはぁ……はぁ……!」


「大丈夫?水買ってこようか?」


 肩で息をしつつ、手で竜田を制する。


「そこまでじゃない……大丈夫……」


 口ではそう言っているが結構足腰に来ている。まさかあんなに振り回されるとは思わなかった。とてもキツい。


「じゃあもう一個の方やめとく?」


「乗る」


「あ、うん。じゃあ休憩したら行こっか」


 それとコレとは話は別だ、という思いが顔に出ていたのか、竜田はすんなり了解してくれた。物分かりが良くて助かる。たまに良すぎて怖いが。


 その後、室内ということもあり暗闇の中で轟音が鳴り響く宇宙船に乗り、再び出口付近でダウンしたのだった。




「あれ、竜田と鴨川じゃん。何してんのこんなトコで」


「あ、千葉。竜田が寝ちゃってるからここで休憩してた」


 出口付近にあったベンチに座っていると、ちょっと足が震えている委員長こと利根とねさんと、それをニヤニヤ見ている千葉せんようがやってきた。


 ちなみに竜田が寝ているのは僕のせいだ。僕が疲れたと言い座ると、竜田も隣に座り、そのまま寝てしまった。昨日は遅くまで話してたし、無理もない。


「せっかくの夢の国なのにもったいないなぁ。本物の夢見ちゃってどうすんのさ」


「まぁまぁ。そそぎちゃん、人によって楽しみ方はそれぞれだよ」


「まふがそこまでいうなら」


 まだ序盤だよ。そんなに言ってねぇよ。


「んでこれからどうすんの?二人は」


「あー、竜田がいつ起きるかわかんないし……いや、起こすか」


 竜田の好きな人は利根さんだったはずだ。それなら起こしてあげたほうがいいだろう。そう思い、竜田の肩を強めに揺らす。


「……ん?おは―――――」


 目を開くと竜田は固まってしまった。


「あれ、竜田くん?大丈夫ですか?固まってる……まさか、雪ちゃんってメドゥーサ!?」


「なんでそうなるのかなー」


「あ、いや、僕は大丈夫だよ!利根さんこそ大丈夫?」


「はい!言われてみれば石化してません!」


「おーい、なんで私がメドゥーサってのが確定事項になってんの?」


「その、利根さん達はどこ行ってたの?」


「ええっと、まず電車で大きな駅に出まして、そこから新幹線で……」


「まふ、多分そこからじゃないと思うよ」


「そうなんだ!僕と同じじゃん!」


「さては竜田寝ぼけてるな?軽く叩いたら治るかな、鴨川」


「僕に話を振らないでくれますかね」


 こんなポンコツ集団に絡まれるだなんて勘弁だ。と思うと同時にある案が生まれた。利根さんと千葉に聞こえないように小声で伝える。


「竜田。あっこにキャラクターと話せるアトラクションあるんだけど、利根さん達を誘うのはどうだ?」


「!」


 流石にこの時間帯だ。乗り物系のアトラクションは諦めたほうが良いだろう。なので、近場かつ並んで座ってもおかしくないアトラクションを選んだわけだ。我ながらいいアイデアだろう。


「あのさ、利根さん」


「は、はい!」


 妙に真面目な雰囲気を醸し出す竜田に気圧されたのか、利根さんも緊張している。なんでだよ。


「このアトラクション、一緒に行きませんかっ!」


「さ、サーイエッサー!」


 だからなんでだよ。


「じゃ、じゃあ行こっか」


 そう言って竜田と利根さんが歩き出した。


「……え、二人で!?」


 思わず声を出してしまった。なんであの二人で行く流れになったんだ?いやまぁ恋の成就の事を考えたら二人きりのほうが良いだろうけど、千葉はどうだろうか。


 恐る恐る様子を見ると、先程よりもっとニヤついた顔をしていた。


「竜田ってさぁ、まふのこと好きなの?」


「さぁ?」


 うまく誤魔化せただろうか。ちょっと声が震えていた気がする。千葉は深く追求してこなかったが、もしかすると最初の反応でわかってしまったのかもしれない。


「まふとは後で合流するとして……いやぁ、まさか一時的とはいえ鴨川とデートする事になるとは思わなかったな」


「不快なら離れるけど……」


 提案すると、千葉は目に見えてムスッとした。


「不快なわけないじゃん。いつメンになるぐらい散々遊んできたのに今更だよそれ」


 僕が言いたいのは「一緒に遊ぶこと」ではなく「一緒に遊んで勘違いされること」なのだが……わかっているのか?


「あのアトラクションは……30分ぐらいか。近場で時間潰せるトコあったかなぁ」


「あ、それならその横にグッズ売り場あるよ」


「ナイスッ!じゃあそこ行こ!」


 竜田といい千葉といい、僕を引っ張ってくれるのは助かるが即決速攻過ぎてついていけないな、と思った。




 

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