二年三組の就寝 二年三組修学旅行・1.5日目
「さぁ恋バナの時間だよ!」
竜田が嬉々とした表情で詰め寄ってきた。いつもに増して圧がすごい。
現在、初日の移動とちょっとした自由行動(俺、竜田、御杖の3人で東京を散歩した)が終わりホテルに着き、シャワー等も済ませ後は寝るだけの段階だ。時間帯は22時。
「あんなに歩いたのにまだ元気なんだな……」
「あれぐらいではへばらないよ!むしろアレだけでバテるってやばくない?」
「運動不足は自負しております……」
耳が痛い話だ。葵さんもその点については何も言ってこないので運動不足は一向に治る気配がない。まぁ葵さんがとやかく言うのは会話に関してだけだし、そもそも言われてやるものでもない気がするが。
僕は会話を切り替える為に最初の話題に戻すことにした。
「それで、恋バナって言っても僕が話せることはないぞ?」
「あー……そっか。じゃあさ、気になってる子とかは?千葉さんとか委員長とか……それこそ葵さんとか!」
「会話の食いつきが乙女か」
「いやー、こういうイベント中の夜ってなんかテンション上がんない?」
「いや、上がるには上がるけどそこまでじゃない」
僕は呆れつつ竜田を見た。
少し濡れた髪と赤いジャージ。ワクワクしているのが伝わってくるほどにぴょんぴょん揺れている。正直枕を抱いている姿にちょっと可愛いと思ってしまったが、小動物的な方向性なので問題ない……と思いたい。
「ほら、僕ってこういうイベント得意じゃないから〜……」
「確かにそうだったね、ごめん。それで気になる子は?」
ちっ、流石に方向転換が露骨過ぎたか。
僕は観念して心の内を言うことにした。抗うのも面倒だ。
「……正直、僕の周りの女性は全員可愛いと思う」
「はは、女性て」
「もう言わないぞ?」
「ごめんなさい」
ため息をつきつつ、話を続ける。
「……見た目も中身もいい人ばっかでさ。なんだけど正直そういうのよくわかんなくて」
「わかんない……ってのは?」
「いや、これまで女の人と関わるのって先生ぐらいだったから」
「小学生低学年ぐらいならまだギリあるくない!?」
「その頃は暗くて面白くない子って感じで避けられてた」
「だ、男女で二人くっつけた席じゃなかったの?」
「うちの小学校は男女混合で混ぜて、女子が僕のとなりになる機会は少なかったし隣になっても一切話さなかったぞ。……あと一回泣かれた」
「……なんかごめん。話戻そう」
「……ありがとう」
あれ、おかしいな。陰キャとして一人で生活するのも悪くないとか思ってたのに思い返したらなんか悲しいぞ。……いや、本音を言うと、そこまで悲しくはない。
確かにちょっと自信を無くしそうになっているが(そもそも0に等しいが)、人生これから80年ぐらいあるだろうし、過去のことを悔やんでも仕方がないからな。それに、今はあの頃とは違うし。
「えっと、要するに女子と仲良くなること自体が初めてだから恋愛とかそういうのはわかんないってこと?」
「まぁそうなるな。なんか嘘くさいこと言ってすまん」
「いやいや!僕が無理やり聞いたんだし、それに嘘くさいとも思ってないよ。宗介君は嘘つくタイプじゃないだろうし」
真正面から真っ直ぐ褒めてくる竜田は、やっぱり竜田なんだなと思った。もしかしたら少し頬が赤くなってたかもしれない。
「……あ、でも」
「なに?」
「いや、うん。……いいや、言おう。なんか、葵さんに関してはちょっと違う気がして……これが恋ってやつなのか?」
「っ!!!詳しく聞こうじゃないか!!!」
その後、竜田に根掘り葉掘り聞かれた。「いつ頃から」だとか「どんな感じ」だとか、しまいには自分の場合も話していた。
一方的に話されるのは会話よりもは得意なのでいいが、テンションが高くて時間帯的にもちょっとキツい。まぁ竜田が楽しそうで良かった。
そうしているとふと気付いたのか、竜田がバツが悪そうに「……ごめん」と謝ってくれた。謝罪されるほどの事でもなかったので、他の話をすることにした。
「そういえば竜田って、最初の方はもっとおっとりしてなかったか?」
「えっ!?あー……うん。あの頃はちょっとゲームとかで寝不足だったんだよね……」
「てことは今はそこまでやってないってことか」
「そうだね。僕は一つ好きなことが出来たらそこに集中しちゃうから、たまーにこういう事あるんだよね。まぁ飽きっぽいからそういう生活はすぐ終わるんだけど」
確かに4月から5月辺りぐらいだったか。一ヶ月程と聞けば長い気もするが、十分短いだろう。
いや、最近の流行を見ていると一ヶ月は長いような…………。
うん、考えるのはよそう。流行とかは僕の専門外だ。
「いや〜にしても葵さんが気になってるとはねぇ〜。同居してて辛くないの?」
「いや、気になるというか……いや、気になる、のか?まぁそこは置いとこう。
同居は別に辛くないし、どちらかというと助かる部分も多いな。僕がやれないことを葵さんはしてくれるし、葵さんのお陰で色んなことを知れたし」
「……あ、そうだ!」
竜田は何かを閃いたらしく、自分のベッドから僕のベッドへと飛び乗った。そして、目を輝かせて中々な提案をかました。
「葵さんに電話しようよ!」
「えぇ……」
「駄目なら良いけど……あ、僕が掛けようか?」
なんで電話番号持ってるんだと思ったが、家に遊びに来たりオンラインで遊んだり文化祭も周ったりしてるし当然と言えば当然か。
「いや、自分から電話するよ」
どうせ止めても無駄なので、決意を固めておく。
最近、竜田のこういうワガママが増えている気がする。こっちが素の竜田なんだろう。素が見えて嬉しいような、ちょっと面倒くさいような。そう思えている内は幸せということにしておこう。
『おお、ソウスケ君。こんばんは。そっちはどうだい?』
「あ、葵さんこんばんは。今日は軽く歩いただけで疲れました」
『はは、運動不足か。少しは筋肉……いや、スタミナをつけたほうが良いんじゃないか?』
「返す言葉もないです」
『まぁ私も人のことは言えないがな。……ルームメイトは竜田クンかい?』
「そうです。……代わりますか?」
竜田の方を覗き見ると、大きく頭を縦に振っていた。
『そうだね、まぁ久しぶりに会話したいな』
「わかりました、代わりますね」
はい、とスマホを竜田に手渡しする。もらうと同時に竜田はスピーカーをオンにした。あっ、そんな機能もあったな(ぼっち故に使う機会が少なく、忘れていた)。
スマホから葵さんの飄々とした声が聞こえてくる。
『こんばんは』
「こんばんは!葵さんからももっと言ってあげてください!宗介君、数十分歩いただけでバテるんですよ」
『ああ、帰ってきたら軽い運動を続けさせるようにしよう』
ああ、終わった。帰ったら運動が待っている。……その前に御杖が待っているけど。
「そういえば葵さん。宗介君いなくて大丈夫なんですか?」
『そうだね……家事全般はソウスケ君がやってくれていたりしたから少し大変だが、それ以外はなんとも……。いや、でも夜の話し相手がいないのは少し寂しくて淋しいな。明日も電話してくれたら嬉しいよ』
そんなにあの会話を楽しんでいたのか葵さんは。複雑だ。
ちなみに竜田はニマニマしている。そんなキャラだっけ。修学旅行でハイになってない?明日大丈夫か?
「僕達でよければあったことなかったこと全部話しますよ!」
なんか勝手に決められた。まぁ近況報告は大事だから良いけど。
『ありがとう。でもホントに少しでいいんだよ。せっかくの旅行を邪魔したいわけじゃないからね。それじゃあ、おやすみ』
「「おやすみなさい」」
……ふぅ。
気疲れぱねぇ。




