稼ぐ陰キャ 後編(文化祭当日午後)
「いやぁ、遊んだな」
葵さんが満喫しきった顔で言う。まだ12時前だというのに早すぎやしないか?
「ですねー。……宗介君だいじょぶ?」
「あぁ……大丈夫……」
正直人混みで少し酔っている。重症というわけでもないので竜田に大丈夫とだけ返す。
「私達はこの後また当番なので戻らせていただきますね」
「葵さん、またお話しようね!」
利根さんと千葉さんが葵さんへ挨拶する。千葉さんに関しては距離感だいぶ縮んでないか?流石のコミュ力と言ったところか。
僕と竜田もそれに続いて挨拶した後に教室へと向かう。
「にしても、校外学習のメンバーがこんなに続くとはね〜」
「そうだな。正直あの1回切りと思ってたからびっくりしてる」
嘘偽りのない返答だった。竜田と利根さん、千葉さんの三人が仲良くなるのはともかく僕があの輪に入るなんて夢にも思っていなかった。
「そういえば僕と鴨川くん、2年連続同じクラス何だけど覚えてる?」
「流石にあのクラスで竜田を知らないは無理があるぞ……」
一年生の頃の竜田は、持ち前のコミュ力で男女両方の人気を勝ち取り、クラスの中心的存在になっていたのだ。
「それもそだね。でさ、鴨川くんは1年の頃から一人でいるところをよく見かけたからさ。こんなに面白い人とは知らなかったよ」
「……そうか」
なんの面白みもない捻くれた陰キャだと思っていたが、竜田にとってはそれが面白かったらしい。
「これからも友達としてよろしく〜」
「……ああ」
友達。友達か……。確かに家まで来ていたのだかられっきとした友達だろう。
と、このタイミングで1つ思い出したことがあるので聞くことにした。
「そういえば前に家来てくれた時にさ」
「うん」
「好きな子がいるって、しかも『真面目で明るくてしかも可愛い』って言ってたよな」
「う、うん」
「それとさ、なんで他の友達とかじゃなくてこのグループで行こうと思ったのかなって考えたんだけどさ」
「……」
「もしかして……」
「あー……うん。……そうだよ。好きなのは利根さん」
……。あー……。そっかー……。
……そっちだったかぁ。
ここ最近の文化祭準備の工程で利根さん=ポンコツのイメージが強くこびり付いてしまったのと、千葉さんが先生の悪口許さないタイプの人間だったのがあり、勘違いしてしまった。
よくよく考えなくても利根さんは学級委員としての仕事は完璧にこなしているので真面目といえば真面目だろう。
竜田は顔をとても真っ赤にして下を向いている。おそらく僕も同じような顔をしているのだろう。勘違いが恥ずかしくて死にそうだ。
「ま、まぁ!他の人に言うつもりもないから、うん!応援するよ」
「ありがとね……」
未だに下を向いている。好きな子がバレただけで顔を赤くする高校生も珍しい気もするが、それも竜田の良いところなのだろう。
その後教室へ向かう途中に頑張って頭を冷やし、仕事に取り組んだ。その結果、12時から20分ほど経過したタイミングで完売した。脱出ゲーム、恐るべし。
「おうお前ら!後片付けは次の当番にやらせるから行って来い」
どこからともなくやって来た担任……神戸先生が笑顔で伝えてくる。
「ありがとうございます」
「神戸先生ご機嫌じゃん」
「そりゃあな。この感じだと今年の文化祭の一位は私のクラスでもおかしくないだろうからな!!あっはっは!!」
「私達の頑張りのおかげですよ〜?」
「ああ、その通りだ。千葉、利根と竜田、鴨川もありがとな。体育祭と言い今年は実にいい気分だ!!」
めちゃくちゃテンション高いなおい。大丈夫か神戸先生。
「ソウスケ君、そろそろ終わる時間だろうから来た……ぞ……って、お前は」
「あ、葵さん」
神戸先生に続いて葵さんが来た。しかし様子がおかしい。
「ん?おや?その顔……葵先輩ですか!?久しぶりですね!元気でしたか?」
神戸先生が葵さんの肩に腕を乗せる。
え、この二人交流関係あったの?というか葵先輩?
葵さんと神戸先生はこっちに来て会ったことあるとは思っていた。だが、思い返せば一学期の三者面談も母さんに来てもらってたし、この二人が出会うタイミングは偶然ぐらいしか無かったのだろう。
「葵さんと先生知り合いだったんですか」
竜田が驚いた顔で尋ねる。
葵さんは少し嬉しそうな顔をし、神戸先生の頬を指でツンツンしながら答える。
「実は高校時代の後輩でな。私もこいつも部活が情報処理部だったんだ」
「へ〜。情報処理部って理的な感じですね。あ、そういえば神戸先生は数学の先生でしたね。私すっかり忘れてました」
「おい利根それはどういうことだ!?」
「コイツ入学当初は人見知りでな。私が話しかけるたびにオドオドしながら返事してて……」
「葵先輩!?それ恥ずかしいんでやめていただけますか!?」
「大丈夫ですよ先生。今更先生に恥ずかしがるような部分は無いですよ。今までの人生全てが恥ずかしいのですから」
「うん、利根は後で職員室に来い」
そのまま三十分以上葵さんと神戸先生の昔話などを話した。知らない葵さんを知れたのは良かった。
「楽しかったな」
「ですね」
学校から自宅への帰り道。いつもなら一人だが今日は葵さんが隣りにいた。
「ソウスケ君もいい友達が出来たな」
「友達……でいいんですかね」
「遊んでるしあんなに楽しそうに話したのだから、私は友達だと思うよ。そもそも友達以外の人間と文化祭で一緒に行動しないだろう?」
「まぁそれはそうだとは思いますけど」
「自身を持って友達と思うといい。それでだな、話は変わるのだが……」
葵さんは足を止め、僕の顔を真っ直ぐ見つめて、言った。
「今度の土曜と日曜、うちの実家に来ないか?」




