予告する陰キャ(文化祭前日譚)
「それじゃあ文化祭の出し物は脱出ゲームということで!班分けしてからそれぞれ作業に移りましょう!」
体育祭に引き続き、委員長の利根さんはやる気のこもったセリフを胸を張って言っていた。
体育祭が終われば次は文化祭。準備の期間はそこまで長くないので頑張らなければならない。だが、僕が入れるような班あるか?いや、余り物だろう。
「鴨川君、私達の班に来ませんか?」
教壇から降りて来た利根さんに誘われた。予想が外れたようだ。
正直そんなに乗り気はしないが余り物として押し付け合いをされるよりもは欲しがってる人間の場所に行ったほうがマシと考えるようにしよう。
「わかりました」
「はいっ!頑張りましょう!私の席に他の方がいるのでそちらに行きましょう!」
距離感がわからない、テンションが合わない、女子。陰キャたる僕には刺激の強い三点セットだった。とにかく他のメンバーと合流して欲しい。流石に他のメンバーが全員女子とかは無いだろうし。
机とクラスメイトを避けつつ歩いていく利根さんについて行きつつ、記憶をたどり利根さんの席の場所を思い出す。
(たしかあの席だよな……って竜田と千葉さんじゃん)
そこには竜田と千葉さんがいた。千葉さんはともかく、竜田も呼ばれていたとは。……いや、校外学習のメンツを集めたと考えると不思議でもない。というかそんな理由じゃないと僕なんかは誘わないか(逆にそんな理由なら誘うのかとも思うが)。
「それでまふ、この班は何を担当するの?」
決めてなかったのかよ。
「えっとですね、脱出ゲームの謎解きを考える役割ですね」
「「「責任重大っ!?」」」
班決めより10分後。僕たちは頭を抱えていた。謎を思いつかないのだ。僕はこれまでにこういう事をした経験がないので正直お手上げ状態だ。他の人はと言うと。
「難しすぎてもあれだけど、簡単すぎてもなのよね……というか、私に関しては勉強できないし」
「僕は平均ぐらいだし、出題される側にはなれるだろうけど考えるのは……少なくともすぐにポンポン思いつかないかな」
「私は成績もいいですがこういうひらめきの力は無いですね。力になれず申し訳ないです」
(((何故この仕事を引き受けたっ!)))
せめて自分ができる仕事を持ってこよう、利根さん。しかし他の班はというと、脱出ゲームの最初のムービーを撮影してたり、景品入れや小道具などを作り始めている。
「……あれ、謎も思いついてないのに小道具作ってるんですね」
「あぁ。言い忘れてましたが私達が考える謎解きは『全員の要望通りのシフトを組む』ってやつです」
「紛らわしっ!まふ、もっと他に言い方あったでしょ!」
「確かに謎解きではあるけども……」
僕も言いたいことは色々あった。が、二人が言ってるしやめておく。……別にコミュ障とかそういうわけではない。決してそういうわけではないのだ。
「それで、要望はどこにあるんですか?」
俺は利根さんに尋ねる。すると、利根さんはキョトンとしながら――
「今から集めるんですよ?」
「……まふ、鴨川には悪いけど人選ミスじゃない?」
千葉さんがもっともな意見を言う。僕がクラスメイトに話しかけても気を遣われて本心からの要望は言わない可能性も出てくるだろうし、僕はここで待つべきなのだろう。
「じゃあ僕はみんなの話を元に作りますよ、シフト」
僕が提案すると、みんなも首を縦に振る。
「じゃあ男子は竜田、女子は私が行くよ。まふと鴨川は待っててね」
「……そうだね。じゃあ行ってくるから二人で駄弁ってて」
「わかりました!気をつけてくださいね!」
なんということだ、委員長とふたりきりにさせられてしまった。まさかこれを狙っていたのか……?いや千葉さんだし無さそうだな。
「さぁ鴨川君、駄弁りましょう!」
「あ、はい」
僕は葵さんと話す時のように乗り切ろうと思った。さぁ来てみろ!
「……」
「……」
「……きょ、今日はいい天気ですね」
「雨ですよ、利根さん」
「あ、そ、そうですね……」
「……」
「……」
「そ、そういえば校外学習の時はお肉焼いてくださってありがとうございました!凄く美味しかったです!」
「ただ焼いただけですよ。そこまで感謝されることでも無いです」
「そんな事無いですよ!私がやったら焦げちゃいますから!鴨川君は誇るべきです!」
「……どうも」
「……」
「……」
会話が長引かない。葵さんの時はこんな感じでも長引くのに……。と思ったのだが、よくよく考えてみれば葵さんは会話が大好きな人だったのでそりゃあ話術のレベルも全然違うよな、という結論にまでたどり着いた。
思い返してみれば、葵さんは塩対応の僕に対してもずっと語りかけてきている。普通は長引かないのだろう。
「……すみません」
「何がですか!?」
「いや、僕の対応が塩対応過ぎたので会話が長引かないと気付きまして。それでも諦めず僕みたいな陰キャに話しかけてくださりありがとうございました」
「いやいやいや!面と向かって私にそんな事言ってる時点で陰キャっぽさそんなに感じませんよ!?
というか、自分の事を陰キャ呼びしながら話していると私のような友が1人しかいない人間に嫉妬されますよ」
「あー……」
男女のペアがが会話している最中に「俺って陰キャだから〜」とか言ってたらそりゃあ陰キャっぽくは無いな。むしろ陰キャを馬鹿にしているのかと思う人も出てきそうだ。
「でも実際このクラスの関係図作ったら僕だけポツンと浮かんでると思うんですが」
「……」
利根さんは汗をダラダラかきながら目を逸らす。そこは否定しないのかよ。良くも悪くも正直な人だなと思った。ポンコツだけど。
その後、少し空気が和んだ僕たちはギクシャクした会話を続けた。利根さんが質問したり話題を振ったりし、僕がそれに答えて聞き返す。
旗から見れば会話には見えないかもしれないが、僕にしては頑張ったほうなので、その点は無視していただきたい。というか他人がどう思っていようが僕が会話と思っているのだからこれは会話だ。
「集め終わったよ。何人かは他のクラスの人と合わせたいから回答が遅れるって言ってた」
「こっちもそんな感じだったよ〜」
千葉さんと竜田が戻ってきた。どうやら、この班の本格的な作業は文化祭前日辺りになりそうだな。
「ただいま、ソウスケ君。……え、話したくない?ソウスケ君の話を聞くために今日も仕事を頑張ったのだが……なるほど、その様子だと会話が必要な状況に陥ってしまったといったところか。……ああ、文化祭の準備を校外学習の時のメンバーで、か。
夏休みに遊んだり、定期的に話したりしている部分を見るともうその3人はソウスケ君の友達だな。ソウスケ君に友達が出来て良かったよ」




