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決闘する陰キャ(僕はそこまで乗り気じゃない)

「上質な遊びこそが、子供の脳を活性化させるのよ!」


 ある作品の、ある少女が無い胸を張って言っていた。


 何事も上質である必要性は無いにしろ、遊び……というよりもは教育は上質でも良いと思う。


 さて、今日は考えるのを短い時間で辞めた理由だが――。


「みなさん、全力でいきましょーっ!」


『おおーっ!!』


「……おー」


 今日はクラス対抗体育祭の日で、頭を働かせたくないからだ。


 体育祭についてだが。1年、2年、3年の全員が参加し、各学年の同じクラスでの対抗になっている。つまり、僕のクラスは3組なので1年3組と3年3組との協力ということだ。


 もちろんインドアな自分が出る競技は少ない。だが、日差しとテンションがあつくて元気もやる気も出ないのだ。ただでさえ少ない体力を思考回路に回してクラスの足を引っ張るわけにはいかない。


 ちなみに現在の僕のクラスは委員長である利根さんと千葉さんを中心に男女混合で応援してたりする。というかうちのクラスの男女の距離感こんなに近かったっけ……。お祭り気分なのか、夏休みの間に色々あったのか。


 知る由もないので自分が出る競技まで日陰で休むことにした。


 僕が出る競技は玉入れと綱引き。大縄跳びという選択肢もあったが、あれは僕一人がミスをするだけで記録が止まる。だから大縄跳びよりも足を引っ張ったことがバレにくいこの2つが良いと考えたのだ。


「……」


 アブラゼミと生徒全体の声が響いている。今は……50m走か。


 たしか1年の3組に脚が速いやつがいるとかいう話を聞いたが……。味方としては心強いな。


 優勝したところで賞状以外に何かが貰えるわけではないが、それでもやるなら優勝したほうが気持ちがいい。各学年の3組には頑張っていただきたい。


 歓声とアブラゼミの声がまた響く。夏を感じるものの、少しは音量を下げても良いんじゃないかと言いたくなる。


「あちー……」


 頭を働かせたくないが、一人で考える癖がついているのでボーッとすることが苦手だ。ついなにか考えてしまう。


 頭の回転を止められないのなら遅くするぐらいに頑張ろう。例えばほら、アレみたいに。うん。こんな感じで。


 わー、みんな速いなぁ。すごーい。わー、3組1位じゃん。お、2回連続1位。僕があそこにいたら轢き殺されるぞ。


 あ、歓声大きくなった。てことはあれが噂の足の速い一年生かな?頑張れー。


 おー圧倒的1位だ。幸先いいな3組。


「か、鴨川君大丈夫?」


 あれ、なんか話しかけられたぞ。あぁ、竜田か。


「――大丈夫、ちょっと頭休めてただけだから」


「それなら良いけど」


 竜田に変な所を見せてしまったかもしれない。過ぎてしまったことは後の祭り、気にしないことにした。


「そういや竜田は何の種目に出るんだ?」


「100mリレーと借り物競争」


「借り物競争あるのか」


「さては団体競技しか見てなかったでしょ。鴨川君そういうタイプっぽいし」


 図星で何も言い返せない。だが、借り物競争といえば小学生辺りを思い浮かべてしまう。あると知ら無かったのもあるが高校でもやるのかと意表を突かれたのもある。


「そういや鴨川君最近利根さんと話した?」


「え?いや……」


「校外学習メンバーでまた遊びたいって言ってたよ。それと、鴨川君個人と話したことがないからちょっと気にしてるらしいよ」


 校外学習メンバー。竜田と千葉さん、そして利根さんと校外学習を楽しんだのを思い出す。もうあれから3ヶ月も経ったと思うと、時間の流れの速さを身を持って感じれる。


 それと、気になるという部分。十中八九……いや、必然的に異性として気になっているということはあり得ないだろう。僕とだけ親しくなってないからもやもやしてる〜とかその辺りだろうと予想はしているが、まぁこれで正解だろう。


 僕は陰キャで人と話すのは嫌い(最近は葵さんのせいで会話嫌いキャラが薄れてきている)だが、他人の思考回路ぐらいは想像できる。コミュ障というわけではないのだ。


 一学期の頃に「世の中がつまらないんじゃ〜」という内容について考えていた日を覚えている。大好きな小説の中でも印象深い言葉だから。


 そして、あの日も脳内ではっきり言っていた気がするが、この際もう一度言わせていただこう。


 僕は『ぼっちな陰キャ』ではなく『一人好きの陰キャ』なのである。


「そういうことだから暇があったら利根さんに話しかけてあげてね。僕は100mリレーの準備に行くよ」


「わかった。頑張れよ」


「うん」


 ……コミュ障ではないとかどーだか言っていたが。


 本音を言うなら、同年代の女子と話すのはとても苦手だ。


 中学の頃に一度話す機会があったので会話したが、話題も合わなけりゃノリもわからない。おまけに陰で悪口を吐かれ放題だった。


 もちろんこの時期の僕が今程に会話慣れしていなかったというのもあるが、それを差し引いてもトラウマレベルな仕打ちだった。


 利根さんがそういうタイプの人間だと言いたいわけではない。むしろ逆タイプの人間だろう。だが、それでも怖いものは怖いのだから仕方ない。ぶっちゃけトラウマが無くても会話のきっかけが無いから話しかけれない気もするが。


 にして『校外学習メンバーでまた遊びたい』か。利根さんは一期一会を大事にするようなタイプなのだろうか。そうでなければこんなに関わるようなメンツでもないし。


「……あ、100m走竜田の番じゃん。頑張れー」


 やる気のない声援を送る。聞こえてないはずなのにこっちを見ると満面の笑みで手を振ってきた。こういうところが人気なんだろうな、竜田は。


『さぁここでトップの7組がバトンを渡す!そして間髪入れずに1組!そこからワンテンポ遅れて3、6、2組と続く!』


 竜田にバトンが渡る。素人目だが、バトンの受け渡しにミスは無いように見えた。


『おおっとここで3組が一気にスピードを上げる!1組と並んだ!そして後ろも5組がものすごいスピードで距離を詰めて……2組を抜いたぁぁ!』


 5組のあの生徒、凄いな。竜田よりも速いのが見て分かる。フォームといい陸上部だったりするのだろうか。


『さぁ7組もスピードを上げていますが、このまま逃げ切れるか!?……っとここで3組と5組がそれぞれ順位を一つ上げる!』


「おぉ……」


 思わず声が出る。手に汗握るとはまさにこの事、気付けば拳を力強く握りしめていた。


『3組、7組の後ろにつく!そして、バトンが、バトンが、両者共にアンカーに託された!


 1組と5組もほぼ同時にアンカーへーっ!!一体誰が勝つんだーっ!!』


 竜田はバトンを渡しレーンから外れた瞬間に仰向けに倒れた。周りの様子からして熱中症とかそういう類ではなく、全力疾走による疲れということはわかる。


『さぁトップはラストのコーナーに入る!


 な、なんと!3組がアウトコースを攻める!ここて抜くつもりだっ!』


 というか実況力入ってるな。とても熱中したじゃないか。


『7組と3組が完全に並んだー!ゴールまではわずか!7組が出る!3組が追い抜く!更に抜き返す!……ゴール!ゴールです!


 7組と3組に続いて5組、1組、2組、6組、8組、4組と続けてゴールです!』


 言葉的にどちらが先にゴールしたか確認しているのだろう。だが、僕がいる場所からは良く見えた。勝ったのは――。


『た、只今結果が出ました!1位は……7組です!!!』


 ――僅かに7組が前に出ていた。惜しかったがいい試合を見れた。実況の人ありがとう。



『お次は玉入れです!』


 カット。8組中4番目でした。


『お次は綱引き!』


 カット。準決勝敗退、3位でした。



『お次は借り物競争!』


 リレーで疲れていたのとお題の達成までに時間がかかった為7位。後で聞いた話によるとお題は『自分の担任』だったらしい。あの先生ちょうど席を外してたんだとか。……それで7位って最下位の人は何を引いたってんだ。


 その後も大縄跳びやスウェーデンリレーなどがあり、ホントに祭りのような時間が過ぎていった。




「お疲れ様、ソウスケ君。結局優勝したのかい?……ああ、おめでとう。そうだな、私も勝負事で勝つのは好きだ。だがそれと同時に勝ち続けることが嫌いだ。


 ……あ、すまない。少し昔のことを思い出してただけだ。まぁつまりは、何事も過剰はダメということさ」

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