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隠蔽された・彩(夏休み最後の1週間)

「真実はいつも一つ」


 何かの作品の主人公が言っていた。


 ちなみに僕的にはこの言葉は間違っている……つまりは、真実は1つではないと思っている。


 どこかの漫画でも語られていた気がするが、真実とは『嘘偽りの無い本当のこと』であり『実際に起こった出来事』である事実とは違う。真実はあくまで主観なので、そこに感情や思い込みなどが介入してくる。


 まぁ毎度のことながらこういう言葉を思い出してる理由は今の状況にあるわけで。


「はっはっは、私の知人がここを経営していてな。良かったら来ないかと言われたんだ」


「なるほど、それでこんなデカイ旅館に……」


 旅館は山の中にあった。葵さんは知人が経営していると言っていたが、旅館はだいぶと年季が入っているような……。


「ようこそ!ウェルカム!ビエン・ベニードス!


 加茂川さん待ってましたよ!お久しぶりです!それと鴨川くんでしたっけ?お話は加茂川さんから聞いてますよ!


 あ、申し遅れました!わたくし、安土城の城に樽廻船の廻、冷たい雨で城廻(しろめぐり) 冷雨れいうって言います!短い間ですがよろしくお願いします!」


 ……苦手なタイプだ。すっごく。そもそも冷たい雨でレイウさんなのに明るすぎるだろ。


「ちなみに名前は冷雨ですが心にはさんさん太陽ぎ輝いています!いつでもぽかぽかにっこり笑顔ですよ!」


 もっと苦手になった。というか僕のこれはありきたりなツッコミだったのか……。ちょっとショックだ。


 閑話休題。たしか女将をやっているらしい……が、失礼を承知で言うなら接客態度や年齢からして全く信じられない。


「あー……コレはこう見えて40代でな、若い頃にこの旅館を親から継いだらしい」


「40代!?」


 見た目は完全に葵さんと同い年ぐらいにしか見えない。肌もハリがあり、シワ一つ無い。なによりもさっきみたいな元気な言動……。


 そんなふうに観察していると照れ隠しのように頭をかきながら城廻さんが言う。


「いや〜、お恥ずかしながら葵さんがボーイフレンドを連れてくると聞いてテンションが上がってしまい……」


「言った覚えないが?」


 すかさずいつものトーンで訂正する葵さん。


「あれ?でも『一緒に暮らしていて話が合うがどこか違って……その違う部分嫌いなんだが面白いやつなんだ』って言ってませんでした?」


「記憶を改善するな!その前に『うちのはとこの話なんだが』と伝えたはずだ!」


「あれ〜?そうでしたっけ?まぁでも葵さんがそこまで惚れ込んだ男なんですから、そのままゴールインしちゃえばいいじゃないですか〜」


 ふむ、なるほど。葵さんと僕が結婚か。やはり会話好きという面で少々噛み合わない部分があるのでそこさえなんとかなればやぶさかでもない。


 ちなみに、やぶさかではないという言い方では上から目線な感じだが実は普通に目上の人にも使える言葉だったりもする。たしか「喜んで何かをしたり、そのためなら努力も厭わない」的な意味だったような……。


「ソウスケ君もこいつに言ってくれないか?」


「え?交際してる事を報告するんですか!?」


 どうやら僕が一人で考えていた内に事態はヒートアップしていたようで。葵さんが珍しく頬を赤くしながら焦っている姿はまるで「言わないでって言ったのに!」的な漢字のアレだった。


「城廻さん、葵さんも疲れてるでしょうしその辺にしてくれないてしょうか」


「ふむ……確かに遠路はるばる来られたわけですし、そのお気持ちを無碍にするのも失礼ですね……」


「いやそもそも開幕の時点でアウトだからな、聞いてるか?」


 そんな葵さんの呟きのようなツッコミは届かなかったのかスルーしたのか、城廻さんは何事もなかったかのように仕事を始める。


「お客様いらっしゃいませ。へきよう旅館へようこそ」


 それは偶然か運命か、この旅館の名前は僕が好んだ本の舞台と同じ名前だった。こういうことはよくあることなのでホントに偶然だろう。


 知っている単語や身近な単語が目につくように、つい最近習った知識が活かせる場面に出くわすように。そう、ホントによくあることなのだ。


 まぁそれはそれとして運命なんじゃね?と1、2ミリほど思うのも人間なわけで。それでテンションが上がらないわけないわけで。


「なんか……その……超ネクタイ付けたメガネの小学生とか泊まってませんよね?」


 ……変な発言をしてしまうのも仕方ないわけで。(言い訳)


「大丈夫かソウスケ君。いつも以上に変なことでも考えたか?第一そんなやつが本当にいるわけが……」


「そうですねー、居ませんねー」


「ほら、夢の見過ぎか?ソウスケ君にしては珍しくないか?」


「そうですね、自分で言っててらしくないなと思いました」


 今日の夜とか湯船に浸かってる時に思い出して恥ずかしくなるやつだこれ。


「あ、でもでも高校生探偵ならいますよー」


「「………」」


 どうやら。


 そもそも湯船に浸かれるかどうかすら怖くなってきた初日だった。


「いやまだついただけだからな?」

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