隠蔽された・散 幕間
「昼も食べ終わったし、遊ぶか」
葵さんが切り出す。言葉通り、フードコートで昼飯を食べ終えたところだ。
「どこに行きますか?」
「そうだな……例えば青春を感じられて、かといって人が多すぎず、若者らしさも感じるエリア自体は暗いがある物は明るい……そんな場所だな」
「ゲームセンターですねわかりました」
「……最近冷たくないか?」
不満を口にする葵さんを横目にゲームセンターに歩き出す。
僕自身ゲームセンターで遊ぶなんてことは滅多にない。
母親から仕送りはあるがそれはあくまで生活費。遊ぶための金はそこからやり繰りして手に入る雀の涙ほど。他にも僕の性格や立地的問題があるため行くことが無いのだ。
「まずはお決まりのクレーンゲームだな」
「……取れるんですか?」
「そうだな……例えばあれ」
葵さんが指差したのはピンクが多めに使われたファンシーな機体。中にはペンギンやクマ、トナカイ等の人形がある。あとはゴリラや……これは……チベットスナギツネか?なんでこんなものあるんだよ。
「あれはUFOの爪が二本だ。まあおそらく実力機だろう。実力機というのはその名の通り実力で景品が取れる機体の事をいう。アニメとかで主人公が取ってるのは多分これでだと思うな」
……なるほど、つまり葵さんは実力があるということか?
「ちなみに私はクレーンゲームなんてやったこともないし知識も少ししかないので素人だぞ」
葵さん、凄いドヤ顔してる……腕も組んでるし。
「じゃあなんでクレーンゲームをやろうとしたんですか!」
「定番だからだよ。景品がほしいからじゃない、遊びたいからやるんだ。景品はあくまでおまけだよ」
(かっこいいこと言ってるけど取れなかったとき用の保険にしか聞こえない……)
流石に声には出さなかった。
「よし、じゃあ取り敢えずやるか。500円入れて……穴に近いこのペンギンでいいか」
葵さんはこれまで見たこと無い真剣な眼差しでペンギンの人形を見つめる。葵さんの真面目な顔を初めて見るのがクレーンゲームってどうなんだ。
「……よし、ソウスケ君。奥行きを指示してくれ」
「わかりました。……ストップ!」
位置はまぁ悪くないんじゃないか?
アームがゆっくり降りてきて、ペンギンの身体を掴む。そして持ち上げた。
が、しかし全身を持ち上げることはなくそのままコテンと元の位置に戻ってしまった。
「大きさと今の感じからしてこの人形の重さは……だからアームはここに……ブツブツ」
なんかブツブツ呟き始めたぞ。大学を首席で卒業だっけか。どこの大学かは知らないが改めて葵さんの凄さを思い出した気がする。
「よし、考えがまとまった。まず、ソウスケ君はこの場合どこを持ち上げればいいと思う?」
「……考えまとまったって言ってませんでしたっけ」
「それとこれとは話は別さ。初めて……まぁ初めてでは無いのだが初めてと言っておこう。その時にも言っただろう、嫌いな四文字熟語は熟思黙想だと。考えがまとまったら自分の意見を発表する前に他人の意見も取り入れるべきだろう」
「……」
一瞬、初めて会ったときの刺々しい葵さんを思い出した。会話を好まない人間が嫌いで、それで強く当たって……。
「今とキャラ全然違うよな……」
「ああ、前のアパートからは新幹線で移動したわけなんだが……いかんせん、会話をする機会がなくてな、ストレスが溜まっていた。
会話ニウム不足だったんだ。その節は済まなかったね」
呟きを拾うな、そんな理由で僕に当たるな、会話ニウムってなんだよ。そんな事を口に出したくなったが話が脱線してしまっているため深追いせず、元の会話に戻る事にした。閑話休題ってやつだ。
「で、結局どうするんですか」
「重心を持ち上げる。天秤というのは重心が固定されているから釣り合っているんだ。これも同じように重心を持ち上げれば傾く事なく動く……はずだ」
最後少し自信無さげだったな。
「ちなみにこの大きさからして重心はこのあたりだと思う。一応理系だが手にとって見ないと実際の重心はわからないからな、安易に絶対的な自信は持たないようにしている。クレーンゲームの腕は普通だが物理は得意なんだぞ?」
葵さんは指で指し示しながら話した。
なるほど、確実性が無いことは自信を持たない。クレーンゲームの実力が無いことは自分で理解しているからこそ自信満々に言えたのか……。
「いや納得しかけましたけど誇れることでは無いですよねこれ」
「よし、取っていくぞ。先程と同じく奥行きは頼む」
僕は言われるがまま、葵さんか指し示した辺りで止まるように集中して「ストップ」と言った。集中し過ぎたせいか大きめの声が出てしまったが。
「ありがとうソウスケ君。よし、これで少しは近づくだろ」
アームがペンギンを持ち上げる。今度は多少フラつきながらも完全に持ち上がった。
「「おおっ!」」
そしてそこから動いた瞬間にアームが揺れ、そのままペンギンは落ちてしまった。
「「あぁ……」」
落胆するや否や、落ちたペンギンは跳ねて頭が穴の上まで来た。
「これは……たしかクレーンゲーム動画で見たことあるぞ。アームで頭を押すシチュだ」
「そんなに上手くいきますかね?」
いった。上手くいっちゃった。なんならそのシーンカットするぐらいには上手く取れた。しかも余った200円でコツを掴んだ葵さんはチベットスナギツネの人形も取った。なんでよりにもよってそれを選んだんだ。まぁいいが。
「楽しかったな。次はメダルゲームでもするか」
「まだ遊ぶんですか……」
何故だろう、クレーンゲームはたった10分程度しかしていないのにかなりの時間が経った気がする。それほど楽しかったのだろうか。
「さて、この手のメダルゲームだが……タイミングよくここをこうして……」
ジャラジャラジャラ。メダルを1枚入れただけで大量に落ちてくる。
「次はこう……」
ジャラジャラジャラジャラ。
「そしてここも……」
ジャラジャラジャラジャラジャラ。
「よし、これでこの席は終わりだな」
ジャラララララララララ!
「なにやってんですか!てかあったメダル全どりって出来ないでしょう!?」
なんかいろいろしているうちに葵さんが座った席の眼の前のメダルが無くなっていた。どういう原理だよ……。
「まぁ驚くのも無理はない。私のこの茶色の脳細胞を持ってしてもようやく成し得る事ができる事象だからな」
急にキャラが生えたなおい。
「さて、ここは人席荒らしてしまったし、次のゲームにでも行こうではないか」
その調子で釣りゲー、競馬ゲー、ビンゴゲー……メダルを稼ぎまくり最初はカップ1杯にも満たなかったメダルが、最終的には箱が5つ山盛り状態になるまでに増えていた。
「お、おおおおお客様!せ、僭越ながら?失礼ながりゃ?えと……ど、メダル、多くね……?」
「「タメ口!?」」
妙な店員に絡まれたが……不正をしていないこと、僕も葵さんもメダルゲームに満足したこと、メダルを返却するとを伝え逃げるように去った。
……今後、葵さんとゲームセンターに行くことがあってもメダルゲームは辞めておこう。




