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隠蔽された・散(夏休み4週間目)

「楽しまずして何の人生ぞや」


 葵さんが窓の外を見ながら呟く。そういえば遊ぼうって誘われた日にその言葉について考えてたっけか。……その1日は内緒にしていたはずだけど。


 僕たちは今バスに乗っている。葵さんは免許は持っているが車を持っていないので長距離の移動手段が交通機関しかないのだ。


「さて、そろそろ着くぞ」


 今日の目的地……それは、デパート。遊ぼうと誘われたはずだが、デパートでの買い物は遊びなのだろうか。


「そういえば葵さん。デパートでなにするんですか?」


「まず服を買うだろう?そして昼飯も食べて……本も買いたいな。あ、ゲームセンターもあるからそこで遊ぶことも出来るぞ」


 なるほど、どうやら恋愛漫画で見かけるデパートでのデートみたいなものか。現実で楽しめるのか分からないが。


「……まるでデートですね」


「ふむ、確かにデートだな。もしかしたらこれがきっかけで恋心が芽生えるかもしれないぞ」


「……さいですか」


 どうやら僕も葵さんもデートをする気は無いみたいだ。



「まず当初の目的の服だ。行くぞ!」


 服を見に行く葵さんの姿は女性っぽさを感じて、なんだかいつもの葵さんと違って見える。


「……ってここメンズですよ?」


「ああ、言い忘れていたな。今日買うのは私の服ではなく、ソウスケ君の服だ」


「なんで本人に伝えてないんですか」


「ははは、ただの伝え忘れさ」


 ただの伝え忘れだった。


「さて、私がソウスケ君に似合う服を選んでも良いのだが……どうする?」


 葵さんの服を見てみる。茶髪に似合う緑のカーディガンに白のTシャツ、そして黒のジーンズ。


 動きやすさ重視に見えるがそれはそれとしてファッションセンスは悪くない……だろう(僕のファッションセンスがあるかわからないので確証は持てない)。


「じゃあ……お願いします」


「わかった。そうだな……例えばなんのためにチャックがこんなに大量に付いているかわからない黒いTシャツなんかどうだ」


「わざとですか」


「お気に召さないか。それなら……ダメージが強すぎて最早パンツすら隠せ無さそうなこのダメージジーンズはどうだ」


「わざとですよね」


「これも嫌か。……じゃあこの金持ちが着てそうなセンスのない金色のファーなんかはどうだ」


「今センスのないって言いましたよね?」


「ふむ、つまりソウスケ君は普通の服を買いたいわけだ」


 いやそもそも服買いたいと思ってないけど。流石にここまで来てしまったので言うのはやめておいた(というか今更言える程の度胸もない)。


「さて、冗談はこれくらいにしておいて。まともな服を買いに行こうか。


 まずソウスケ君の服は無地にジーンといった面白みのない服装だが。ソウスケ君はおしゃれに無頓着なのか?」


「あ、いえ。ただなにもわからないのでこれでいいやって」


「それを無頓着と言うんだ。何もわからないがそれでも気にするような人は助言を求めたり調べたりするぞ」


 ……おっしゃるとおりで。


「というかソウスケ君は無地のシャツしか持ってないだろ。全部色違いだ。値段も安いものを買ったんだろう」


 大当たりである。


「それだとつまらないからこうやって買いに来ているわけだ」


「……だから変なのを見せていたんですか?」


 僕がそう聞くと、一瞬間が空いた後に葵さんはこっちを向いて「あ、ああ!その通りだ!うん!」という下手にもほどがある嘘をついたのだった。



 ここから先は葵さんが服を持ってきて僕が試着をするという作業だった。ので割愛する(試着シーンが楽しいと思う人もいるかもしれないが僕はいちいち着替えるのが面倒なので記憶に残したくない)。


「結局、この中で買ったのは3着ですか」


「ああ。もちろん金は私が出すさ」


 そういうことを言いたかったわけではなかったが、どちらにせよ今の僕は払える状況でも無いので何も言わずお言葉に甘える事にした。



「たまにはこうしてフードコートで食べるのも良いな」


 買い物が終わったので僕はちゃんぽん、葵さんはかけうどんを食べている。


「はは、僕的にはちょっと人が多いと思ってしまいますけどね」


「ふむ、そういえばソウスケ君はぼっち陰キャで陽キャや煩いところが苦手だったな、すまない。ああいや、今はぼっちではないのか」


「なんでいちいち棘があるんですかね」


 その後も他愛もない話をしつつ、食事を済ませた。




 その後、ゲームセンターのクレーンゲームで大きめのペンギンの人形を手に入れたり、メダルゲームでメダルが想像以上に手に入り店員さんも大慌てだったりと大忙しだった。


「今日は疲れたな。私でも疲れたんだ、ソウスケ君は大変なことになってるんじゃないか?」


「毎日学校まで歩いてるんでそこまで弱くはないです。かと言って疲れていない訳でもないですけど」


 葵さんは口では疲れたと言っているが傍から見ると一切疲れている様子が伺えない。なんなら今から全力疾走もできるのでは?と思うほどだ。


「……まずいな、バスがあと2分で来るぞ。走れるかソウスケ君」


「……頑張ります」


 まさかこの後本当に全力疾走を披露してくれるとは思わなかったのだった。




「そういえばなんで今日はこんな買い物を?」


「私とソウスケ君で来週温泉旅行をするからだ」


 ……それは初耳だぞ?

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