テコ入れする陰キャ(新章?開幕)
「555円のおつりでーす」
店員のお姉さんが笑顔で言った。僕みたいなやつにも笑顔を向けないといけないのには同情する。
555円。切りがよくしかもゾロ目だ。なんならあの特撮も思い出す(当時僕は生まれてなかったが)。いい数字だ。
嫌なことがあったりしたらこういうどうでもいいことなんかで喜べないのだろう。心の持ちようで世界は180度も変わる。
同じ出来事でも、5W1Hによって最高にも最悪にもなる。ゾロ目で逆にムカつく人だっているかも知れない。そう考えると、世界は広いんだな……。
買ったおにぎりを頬張りながら帰路につくのだった。
「短いぞソウスケ君。今までの比じゃないぐらいに短いぞ。他になかったのか?」
この話をしたら文句を言われたので渋々他の話もすることにした。
「コンビニに寄ったあと、公園を横切る時にこっちにボールが転がってきました。よくあるピンク色で柔らかい、ドッジボールぐらいの大きさのやつです。そしたら女の子が『すみませーん!』と言いながら走ってきたんです。
なのでそのボールを手にとって渡そうとしたんですけど……。
あからさまに警戒されまくって、その、奪うようにボールを……」
「……なんかすまん。というか、顔は中の上ぐらいってのに何でそう警戒されるんだ?いつものことなのか?」
「ですね。顔の良さは知りませんけど、多分表情が硬いんだと思います」
と言いながら葵さんと出会ったときを思い出す。めっちゃ睨んだよな、僕。今考えると失礼だったのでは……?
「確かに、ソウスケ君が初対面の人に見せる顔はおぞましいものだろうね。あの顔は今でも覚えているよ」
「あのときはすみません……」
「いや、怪しかった私も悪い。それより、他の話は無いか?」
今日はこれ以外目ぼしいイベントはなかったので、その後に考えていたことだけ伝えることにした。
「えっと……
あのあとショックすぎて整形を考えました」
「嘘だろソウスケ君!?私とソウスケ君は自他共に認めるほどに根本部分が似ていると言ったがこれは流石に……」
とても驚かれた。なんなら出会ったときからの印象を否定された。
「もし見た目のせいで他人と会話できなくなったらどうしますか?」
「すまん、確かにそのときは整形する。似てないなどと言って悪かった」
即答だった。
今日学んだことといえば……やっぱり葵さんと僕は似ているということぐらいだった。つまり、何も学べてないに等しい。
……まぁ、いいや。




