第98話 ナナホシ学園
ノースは勇者屋敷を訪れて二日目にして大人気である。
前提として、彼女は『実年齢は十四歳』で『可愛らしい顔立ち』で『スタイルは良く足はスベスベ』なので、それだけで興奮する変態がいることは確かである。
それに加えて、魔王討伐の旅の中でコミュニティの外をなかなか頼りにできない状態が続いていたこともあり、仲間内で触れ合って慰めていた時代が長い。
そもそも、祖国が滅んだり、両親を失ったメンバーも多いのだ。
要は『女性同士の濃密な絡み合い』も大変多く……ノースはなんとそこに適応している。
とはいえ、ホーラスとノースの発言からチラホラ見える『あまり子育てに適した環境ではない雰囲気』を考えれば、『妙に適応力が高い』のもある種、当然と言えば当然なのか。
ノースの身なり、肌や髪の質を見る限り貧しいということはない。確定事項として、かなりの剣術を有するホーラスは父親から剣を教わり、その父親を木刀でボコボコにする母親というものなので、強さはある。
そしてこの世界において、モンスターを倒せば金貨が出てくる。糧在神アルゼントを倒した今もそれは変わらない。彼が倒されたことで『殺された者の力がアルゼントのものになる』ことがなくなっただけで、モンスターを倒せば硬貨が出てくるシステムはそのままだ。
故に、強さがあるということは金持ちに『直結する』のだ。
ディアマンテ王国が自国通貨の発行に乗り出しているので十年後や二十年後はわからないが、少なくとも『金に困ってはいない』はず。
そんなノースだが、屋敷に来て初日で『適応する』というのはなかなか異常だ。
「すうううううううううはあああああああああすううううううはああああああっ!」
「これ、どうにかならないの?」
なりません。
……適応はできているが、理解できないことはあるようだ。
ロリがロリコンを理解するのはなかなか難しい。『性癖』というものは、大人になってからわかるものなので。多分、知らんけど。
★
「師匠。私たちに『ナナホシ学園』への体験入学の話が出ていますが、どうしますか?」
「体験入学?」
勇者屋敷のロビーにいるのは、ホーラスとランジェアとノース。
ホーラスが新聞を読んでいると、ランジェアが彼に話しかけた。
「学校かぁ……」
「ノースちゃんは行ったことは?」
「ないよ。私の地元って学校がないし……っていうかそもそもどこの国家にも属してないし」
「一体、どこ?」
ノースの返答にどう答えたらいいのかわからないランジェア。
ちなみに、ノースが『そう言った』ということは、ホーラスもそういうことになるわけだが。
「まあいいとして、どうしますか?」
「実際には誰が呼ばれてるんだ?」
「幹部六人と師匠です。学校側としては、生徒たちに何かいい刺激になるかもしれませんし、私たちも学校に行ったことはないので、長くても二か月と言ったところですが、そういう雰囲気を感じてみるのもいいのでは? とのことです」
「まあ、別に強く断る理由はないが……俺、二十七だぞ」
「師匠には先生をやっていただきたいそうです」
「そっちか」
外見は十代後半だが、実際には二十七歳のホーラス。
もちろん、能力が高ければ先生をやるとしても問題はないわけで、実際に魔王を討伐する人間を育て上げたのだから、何かを教える能力が申し分ないのはわかる。
一応、外見だけは若いので生徒側をやれなくはないが、本人がモヤっとする以上、先生側でいいだろう。
「私も体験入学の話を貰ったよ」
「ノースも?」
「面白そうだから、乗ってみようかなって思ってる!」
理由はわからないが、ノースもその話を受けるつもりらしい。
「お兄ちゃんも先生、やってみたら?」
「先生ねぇ」
「私だって働いてるところ見てみたいもん! お兄ちゃんもお父さんもお母さんも無職だし!」
ホーラスの心に何かがぶっささった……ような気がした。
そう、ホーラスはディアマンテ王国の王城で働いていたので、その点ではニート歴は短い。
冒険者という身分も、しっかりクエストをこなしたりダンジョンに入って金貨を稼いでいるのなら、『無職』とは言われない。
だが、ホーラスは現状、そういう立場ではない。
ディアマンテ王国で働くために冒険者を辞めて、そしてディアマンテ王国では解雇されたため、『趣味でゴーレムをいじっている人』の範疇なのだ。
「……そっか……俺……二十七歳無職なのか」
別に手遅れという年齢ではないが、口にされると思うところがあるフレーズである。
彼の場合は教師体験ということになるだろうか。その話を受ける方向で彼の意思が決まったのは、間違いない。




