第97話 時間制限を認識していないアラサーの現実などこんなもの
ホーラスの妹。ノース。
黒髪ショートカットでかわいらしい顔立ちの十四歳の少女であり、外見上は年の近い兄妹のように見えなくもない。
可愛いにもいろいろ分類はある。ラスター・レポートで言えば、よくエリーを膝枕しているシンディは小動物型。のだ~口調でまったりしているウルリカはマスコット型だ。
ノースはその中間である。
……まあ、あまりどうでもいい。ノースは可愛いのだ。そしてそれは素なのだ。そこに理屈は要らない。以上。
「お兄ちゃん。起きて~」
朝。ノースはベッドで布団をかぶるホーラスの体を揺らしていた。
「んー……あと五分……」
だらしなさの極みのような声でホーラスは唸った。
「みんな起きてるよ。ティアリスさんがご飯を作ってるから、早く起きる!」
「んー……」
かなりだらしない様子だが、あえてホーラスの様子に理屈をつけるならば、『時間制限』を認識していないからだ。
何事も、『ここまでにしないといけない』とか『ここまではしないといけない』といった、様々な制約を課されるものである。
その中でわかりやすく人に緊張感を与えるのは『最低限』よりも『時間制限』の方が強い。
約束にしても自然現象にしても、何かが起こるまでに必要なことを完了しておかないと、最善ではないルートを通る必要が出てくる。
ホーラスはこれまで、五大神の一人である糧在神アルゼントを倒すために行動していた。
それは彼なりの理念や制約による計画の末に成し遂げられたわけで、それは公表されていないが、五大神は四大神になっている。
神という存在が持つ理屈や力関係。それに挑むために必要なゴーレムマスターとしての技術がいろいろ重なった結果、ホーラスはアルゼントへの『挑戦権』を得て、打ち倒したわけだ。
ただ、もっとも面倒な時間制限がそこにあるとすれば、『災冥竜テラ・ディザスの出現』だろう。
彼から『勝手口の鍵』を受け取ったからこそホーラスはアルゼントがいる『汝の名』に挑むことができたわけだ。
その『勝手口の鍵』の入手条件は、テラ・ディザスの様子から察するに『魔力の安定性』に関する技術をどれほど保有しているか。
ホーラスの『今』は、その技術を保有していたからこそだ。
ただ、他の神に関しては、知識はあるようだが、『ユーディネス』という、ホーラスが憧れる存在とは直結しない。
確かに、残る四大神を倒さないと、ホーラスの最終目的であろう『機械仕掛けの神の完成』には至らない。
だが、あくまでもそれは最終目的であり、その間にクリアしなければならないことの情報はそろっていないのだ。
それゆえに時間制限を認識しない。
宝都ラピスにある学校にいる生徒たちに、『夏休みの宿題を出すのは百年後でいいよ』と言ったら、誰もやらないだろう。言語的におかしいかどうかは別として。
時間制限をはっきりさせることは大事だ。
で、その大事なことができていないので、ホーラスはだらしないことになっている。
ディアマンテ王国王城の無給十年勤務を終えて、とりあえず『ユーディネス』に大きく絡む糧在神アルゼントを倒したことで燃え尽き症候群になっている部分もあるだろう。
だらっとして……。
「昨日あんなにパコパコやってたラーメルさんが起きてるんだから、お兄ちゃんも起きて」
「お前らの貞操観念ってどうなってんだよ」
さすがのホーラスも起きた。
ノースが来た日の夜だというのに、ラーメルがホーラスの部屋に忍び込んでアレコレやってたのだ。
朝、どうやらラーメルは起きて朝食でも食べているのだろう。
ただ、兄が性的においしく頂かれているという現状に対して特に何も思うところがないのはどういうことなのか。
昨日が初対面であり、ホーラスも妹の存在は知らなかったくらいである。
ただ、それでも血を分けた兄妹なのだ。
「うーん。でも、やろうっておもってやったらできる。そんなもんじゃない?」
「……」
「お母さん。お兄ちゃんが家を飛び出して寂しくなって、お父さんに『作る!』って言ってアレコレやって、私が産まれたみたいだし、そんなもんだよ」
「……それで今のノースがその様子だと、母さん。昔とあんまり変わらんな」
「うん。私がお母さんのプリンを勝手に食べたら、お母さんが勘違いしてお父さんを木刀でボコボコにしてた」
「もっとマシな例えはなかったのか?」
なかなか子供の教育に悪い家庭環境である。
「まあでも、それでケロッとしてるお父さんもお父さんだね」
「五十二になっても変わらんか……」
「加齢臭はキツイよ」
「……え、それって俺も加齢臭きつくないか?」
「お兄ちゃんの場合はお父さんから加齢臭を抜いた分のにおいが似てるよ」
「……どんな匂いだ?」
「魂が抜けた幽霊みたい」
「無臭だろそれ。もともとあった原型も消えてるじゃん」
一度死んだことでモンスター化したホーラスだが、一応、汗は出るので、体臭はあるはずである。
「まあとにかく、朝ご飯はできてるから、早く降りてきてね」
そういって、ノースは部屋を出て行った。
……もぞもぞとベッドから降りつつ、ホーラスはつぶやく。
「性教育。今からでもするべきか? いや、実技って言われたらたまらんからなぁ……」
ラスター・レポートの全員が集まる勇者屋敷。
ただし、ホーラスは年長であり、唯一の男でもあるので、どうにかしなければならないのだ。
……ただ、どのような手段を取るとしても、現実的なことにならなさそうなのがツライ。
そんな前途多難な朝から、勇者屋敷は始まるのだ。世も末である。
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