第91話 ホーラスの行動原理
ロバートが姿を消し、少し、平穏が戻ってきた。
そのはずだ。
そのはずだが……ホーラスの顔には、どこか緊張感が漂っている。
「師匠、様子がいつもと違うのだ~」
「……わかるか?」
「なんだか張り詰めているというか、酔っている気がしますね!」
場所は勇者屋敷のロビー。
そこでは、ホーラスと弟子六人が揃っている。
ウルリカが指摘して、シンディが補足したのは彼女たちにとっての『感覚』でしかない。
しかし、その感覚は、どうやら的外れではない様子。
「みんなは、俺の行動原理って理解してるか?」
「師匠の行動原理ですか……基本的には自分の計画に忠実ですね」
「無責任な部分があるのだ~。だから、何かをしたいとか、何かが気に入らないとか、そういうことが前提になるのだ~」
「まあ、そんな印象で大体合ってるな」
ホーラスは少し考えて……そう、どんな言葉を使うべきか選んでいるような、そんな雰囲気を出しつつ……。
「俺は一つの真実を知ってるんだ」
「真実?」
「ああ。この世界では、何かが何かに殺された時、殺された側が持っていた『非物質的な力』っていうのは、この世界に還元されない」
「『非物質的な力』って、いったいなんだ?」
「代表的なモノを言えば、体の中にある『魔力の核』だ」
「なるほど、それは確かに『力』ね」
「その還元されない力は、どこかに向かう。そしてそれは……五大神が作り上げたシステムによって、神の力として取り込まれる」
「……五大神。ここでかかわるのですね」
五大神に関しては、ほとんどが『神話』として2000年前に起こったことが文献などで残っている程度で、正確と言える情報は多くない。
もちろん、宗教国家にとっては権威の生命線のような存在であり、ここを突かれるとボロが出ることも多いが。
「俺が特に気に入らないのは、五大神の中の一柱。『糧在神アルゼント』だ。『糧』の在り方をつかさどる神。2000年前、世界に楔を打ち込んだ張本人だ」
「糧在神アルゼント……」
「何かを殺してその命を頂く。『糧にする』ってことがどういうことなのか。どうなるのか。それをつかさどる存在だ」
「なんだか想像しにくいぜ」
「コイツが2000年前に楔を打ち込んだ張本人といったが、わかりやすい例を言えば、『モンスターを倒せば金貨が出てくる』っていうのは、それ以前にはなかったらしい」
「そうなのですか?」
「ああ、金貨じゃなくて……『魔石』っていうのかな。魔力が集まった結晶体が手に入るらしい。しかも、地上で生まれたモンスターに至っては、倒しても死体が残るそうだ」
「それが、『糧』の概念を作り替えたことで、金貨を残して塵となって消えるようになったのね」
「そうだ。ただ……なんでこんな楔を打ち込んだのか。それを考えていくと、『すべての生物は神の家畜だ』って言われてる気がしてて、俺は気に入らん」
ホーラスは一度、ため息をついた。
「それだけじゃないように思うのだ~」
「当然、それだけじゃない。俺は……100年前にいた冒険者、ユーディネスに憧れてるんだ」
「どっかで聞いたぜ。確か、世界で初めて、ゴーレムマスターっていう技術を体系化させたって……」
「そう。自伝も書いてて、俺も持ってる」
「しかし……最終的に、『宮廷冒険者』になって、数年でその国は滅んだと聞いていますが……」
「それも事実だ。まあ、そこは真似しようとは思わんよ。ただ、俺がユーディネスに憧れてるのは事実だ」
憧れてはいるが心酔しているわけではない。
だからこそ反面教師にするし、ホーラス側できっちりバランスは取る。
「ユーディネスが作り上げた技術の中に、人をモンスターにする宝石を作る技術がある」
「それって……」
「ああ。パストルがゼツ・ハルコンに、そして、シルビオの娘が魔王になったのと同じだ」
「何故、そのような技術が……」
「詳しい経緯は俺にもわからん。ただ、ユーディネスが、その技術を使って好き勝手にしたのは真実だ。自伝には、その技術をどういう思いで作ったのかも書いてたし……それが踏みにじられるのは、俺は気に入らん」
要するに。
「魔王の誕生から15年。世界は荒らされましたが、その決着はまだついていない。そういうことですか」
「そういうことだ。俺が『機械仕掛けの神』をくみ上げてるのも、その神を倒すためだ。先の長い話だとは思ってたが……最近、それが現実になりつつある。俺が酔っているというのなら、まあ事実なんだろう」
ホーラスはそう言って、六人に背を向けた。
……少なくとも今は、これ以上を語るつもりはないらしい。
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この作品のあらすじの縦読みの伏線。やっと回収できました。長かった。




