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第82話 災害を前に

 災冥竜テラ・ディザスの出現。

 そこに存在するだけで災害を発生させるその力は、時間経過とともに広がっていく。


「竜石国の最北端に出現……その三時間後には、宝都ラピスが大雨ってどういう理屈ですか!?」

「雨が強すぎるのだ~。それに、空に与えられた『雨雲』という情報が強すぎて、全然解除できないのだ~」


 終わらない強風と大雨は人間に恐怖を与える。

 家の中にいたとしても、強い音が不安感を刺激するため、安全を確信できない。


「『ラスター・レポート』を総動員して、やっと落ち着けられる段階。面倒なことになりました」

「テラ・ディザスの出現場所の近隣にある村は壊滅してても不思議じゃないわね」

「宝都だって建物を強化してどうにかするのには限度があるぜ?」

「ですが、これでもまだマシな方ですよ? 師匠が先ほどから雨雲に威圧を与えて狂わせてますから」

「師匠の威圧って天候にも影響すんのかよ!」


 宝都ラピスであっても、大雨の影響は避けられない。

 そのため、ラスター・レポートも発生する避難民を抱える用意をしたり、近隣の町や村に行って避難誘導を行なっている。


「そういや師匠は?」

「都市の外れに雨風をしのげる大型の建物を作っています。が、もうそろそろ終わるでしょう」

「建物って、こんな大雨の中でそんな簡単に作れるんですか?」

「師匠を普通の人と比べちゃダメなのだ~」


 実際にモンスターであることは事実だが、ここまで人間扱いされないのも逆に珍しい。


「ふう、終わった」

「師匠」


 宝都ラピスの門で待機していた六人のところに、ホーラスがやってきた。


「師匠、もう終わったのですか?」

「ああ、まあ、とりあえず人数のデータはあらかじめ持ってたからな。ラスター・レポートは避難誘導も慣れてるだろうから、とりあえずスピード優先でやった。近隣のモンスターの対応はアイヴァンに押し付けたし、なおさら早く来るだろ」

「早く来るのは事実だと思いますが……まあ、いいです」

「師匠。本当にこの雨が、一体のモンスターの影響で出てくるなんて信じられないのだ~」

「あー。まあ、世の中はそんなのもいるってことだ」


 ホーラスはガリガリと頭をかいて、北に視線を向けた。


「そういや、俺たちは避難誘導を優先したけど、討伐を優先したアイツらはどうなってんのかね」

「雨が先ほどから強くなるばかりなので、苦戦しているとは思いますが……」


 次の瞬間、七人全員が気が付いた。


「……こっちに来てるのだ~」

「間違いないですね」

「てことは、アイツらは負けたってことか」

「予想はできていましたが、思ったよりもはやい」

「……ねえ、あれ見て。もう、全て察したわ」


 ティアリスが指を向けた。


 その先にいるのは、馬を爆速で走らせるロバートだ。

 恐怖に包まれた顔で必死に馬を走らせている。


「……アイツ、オレの記憶が正しけりゃ、行きは馬車に乗ってたよな。なんで帰りは馬だけなんだ?」

「それ以前の問題だな」


 ホーラスはロバートを見てつぶやいた。


「あの五人との契約が切れてる。アイツら、多分死んだな」

「なるほど。それで、五人を囮にして逃げたと」


 一気に険悪な雰囲気になったが……。


「で、アレが……災冥竜テラ・ディザスってわけか」


 ロバートを追ってきたのは、真紅の鱗で全身を覆って、強風を身にまとい、空を舞う竜。


 その存在感はなかなかのモノ。

 何より、そこに存在するというだけで災害を発生させるその威容は、時代が時代なら、人類は全てを賭して戦わなければならないほどだろう。


 そんな存在が、多くの人間が住む町に向かってやってくる。


「……ロバートが連れてきたのか、テラ・ディザスが勝手に来たのか。判断に困る部分はあるが……まあ、俺が何を言おうと、普通の人間なら、ロバートが連れてきたって思うだろうな」

「ロバートはどうしますか?」

「とりあえず確保しておくしかないか。俺としてはマジでどうでもいいんだけど、『竜封院の失態』は後々で必要になるし、アイツにはそれを被ってもらおうか」


 ホーラスはポケットからキューブを取り出した。


「……とりあえず、アイツを倒しに……っ!?」


 ホーラスが何かに気が付いたかのように、顔が驚愕に包まれる。


「師匠、何か?」

「アイツを倒すのはお前たちに任せる。ちょっと行かなきゃいけないところができた」

「わかりました。では、ここは私たち六人で解決します」


 ランジェアはホーラスの言い分に疑うことなく頷いた。


「それじゃ、ちょっと俺は行ってくる。ここは任せるぞ」


 ホーラスは余裕そうな表情だったのが嘘のように、真剣な顔つきになって、門から離れていった。


「……師匠があれほどの表情を……どう思いますか?」

「わかんねえって。ただ、オレたちに『中身』を言わねえってことは、それだけ急いでるか、オレたちには影響しねえってことだろ?」

「私たちの手に負えないのは事実ですね」

「いったいどういうことなんですかね?」

「これに関しては正直分からないのだ~。ただ、ウルリカたち六人と師匠一人なら師匠のほうが強いから、きっと……ヤバい存在がどこかにいるのだ~」

「その方向で考えたほうがよさそうね。気になる部分はあるけど、まずはアレを倒さないと、話が進まないわ」


 ティアリスが『とりあえず討伐』と言ったので、全員頷く。


「で、ロバートはどうするのだ~?」

「その辺に蹴り飛ばしておきます」


 ランジェアがそんなことを言うので、『雑っ!』と思いながらも、全員で移動しはじめた。


 ……その辺に蹴り飛ばしておく。の部分を反対する気は、全員にないらしい。

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