第77話 使者が傲慢にふるまうのは謎だが、人事はもっと謎
ダイパール王国の首都に存在する『大神殿』で起こった様々な情報の解禁は、世界を揺るがすのには十分だ。
誰も止められない速度でそれは広がり、尾ひれがついて止まらない場所もあるにはあるが、ほぼ落ち着いている。
「……はぁ」
宝都ラピスにある勇者屋敷。
そこで新聞を読んでいるホーラスは、かなりゲッソリしていた。
「……師匠。なんだかゲッソリしてるのだ~」
「あの、なんていうか、弟子たちも全員揃ったし、外部で行動する意味がなくなったコミュニティメンバーがどんどん帰ってきてるだろ?」
「そうなのだ~。勇者コミュニティは100人くらいいるけど、ほぼ全員が揃ってるのだ~」
「なんか、一日に何人も来るんだよ。人が寝てるベッドに。あと、俺も抵抗できないんだよな。なんでだろ」
「それは……そうなるのも仕方のないことだと思うのだ~」
「そっか」
ホーラスはウルリカが言った『仕方がない』という言葉を、『今のコミュニティメンバーは、ホーラスしか見えないほど心が擦り切れているからだ』と解釈した。
以前、アイヴァンが言っていたことだが、鍛えてくれたホーラスへの感謝しかないという、とても強い依存状態になっている。
こればかりは時間で解決するしかないが、言い換えれば、時間がたつまでは、ホーラスへの異常状態が終わらないということだ。
鍛えたのはホーラスであり、鍛えた少女たちが魔王討伐のたびに出た。
その旅が過酷なモノ……いや、技術面に関してはいろいろ仕込めたはずだが、精神的にはとてもきついことなどわかっていた。
一応、ホーラスは自分の特性を『無責任』と認識しているし、それを変えるつもりはないが、そんな彼であっても、ランジェアたちに関しては責任があるのだ。
「師匠が抵抗できないのは、魔王の城で『ベッドの上で男を逃がさない秘密のテクニック』という本をティアリスが発見して、それを回し読みしてるからだと思うのだ~」
「犯人はアイツか! そういや最初にベッドに来たのはティアリスだったよ!」
ウルリカが言った仕方がないというのは、『一日に何人も来る』の部分ではなく、『ホーラスがなぜか抵抗できない』という部分。
「え、でも、男性支配の力って絶対なのに、『逃がさないテクニック』なんて必要なのか?」
「魔王が趣味で書いてたのだ~」
「どういう趣味なんだそれは……てか、なんかあいつ等から逃げられないなって思うと同時に、なんか妙に威圧感……いや、束縛感のある目をしてるんだけど、あれって魔王が作った技術なのか?」
「そうなのだ~。世の中の男性のすべてを虜にする魔王が書いた男性を逃がさない本。ティアリスが見つけたときに舞い上がり方はすごかったのだ~。魔王を倒して城を物色しているとき、ティアリスはそれを見つけて、ずっと読み込んでたのだ~」
「……」
勇者コミュニティからの束縛が強いが、ホーラスが招いたことではある。
ただ、思ったよりホーラスが想定可能な範囲を超えている気がするのは、きっと気のせいではないだろう。
「師匠」
「ん? どうしたランジェア」
「『竜封院』という組織の人が来て、『ガイ・ギガントやゼツ・ハルコンの宝石をよこせ』と要求しています」
「……思ったより早かったなぁ」
ホーラスは溜息をついた。
「どんな組織なのだ~? 竜封院なんて初めて聞くのだ~」
「簡単に言えば……大神殿が崇拝してる五大神っていうのがいるだろ? そのうちの、封印や解放をつかさどる神『だけ』を崇拝し、その力を使って、『竜』相手に優位性を確保して、種族的に弱者である人間が、他の種族からにらまれないようにするっていう行動をする組織のことだ」
「へぇ……まあ、実質的には宗教組織なのだ~」
「そういう面もあるな」
「でも、聞いたことがないのだ~。普段は何処にいるのだ~?」
「西の大山脈より奥だな。こっちとは明らかに隔たりがある領域で活動してる。亜人たちもたくさんいるそうだが……まあいいや。とりあえず対応しようか」
ため息を隠さず、ホーラスは椅子から立ち上がった。
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