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第6話 人に難癖付けると2%くらいは逆鱗に触れると思うんだ。それが今回だ。

 キンセカイ大鉱脈は、カオストン竜石国に存在するダンジョンであり、そして国家運営によって成り立っている。


 そもそもこの世界には造幣局などというものは存在しない。

 大きなダンジョンをうまく運用することで、そこで組織的にモンスターを討伐する方法を編み出して、モンスターから得られる硬貨を集めることがある意味『造幣局』に近くなる。


 技術力ではなく武力が金貨を生む時代。ともいえるが、間違いはない。


 そのため、このダンジョンの扱いは竜石国にとって重要な物。

 もちろん、冒険者を多数抱える『冒険者協会』にとってもキンセカイ大鉱脈はかかわりたいダンジョンだ。


 様々な交渉の末、ここで手に入った鉱石や宝石の素材アイテムの何割かを竜石国が優先して運用するという契約のもと、冒険者も多くが入っている。


 ただ、冒険者協会そのものは圧倒的な組織であり、規模的には小国に分類される竜石国にとっては格上だ。


 立ち回り方には気を付ける必要がある。


 ……一応、補足しておこう。


 冒険者『協会』というのは、厳密な冒険者の行動のルールを決めたりする場所だ。言い換えれば、システム側、監査側ということになる。


 そして、冒険者の中で、三人か四人で集まれば冒険者パーティー。

 パーティーがいくつか集まれば冒険者チーム。

 そのチームに商人や鍛冶師が提携し、人数が多くなれば冒険者コミュニティになる。


 そして、この冒険者コミュニティが、外部からの依頼を受けて、それを解決するシステムを運用し始めると、『冒険者ギルド』となる。


 要するに、冒険者コミュニティと呼ばれたラスター・レポートは、商人や鍛冶師を抱え、それ相応の規模になってはいたが、外部からの依頼をこなすシステムは持っていなかった。ということだ。


 とはいえ、勇者コミュニティになった今も、冒険者コミュニティの延長線上であることに変わりはない。


 言い換えれば……竜石国にラスター・レポートが身を置いた時点で、この国において冒険者たちが調子に乗る土台が整ってしまったともいえる。


 別に勇者コミュニティがすごいのであって、そんじょそこらのギルドに所属する冒険者など平凡でしかないが、まあ人間などそんなものだ。


「師匠とラスター・レポートは、竜石国の政府から、ダンジョンをいつでも利用していいという許可を頂いていますから、このまま行きましょう」

「至れり尽くせりだな」


 というわけで、ホーラスとランジェアはキンセカイ大鉱脈に向かっていた。


 ホーラスが言った『整備』も終わったようで、ランジェアは天真爛漫な様子で楽しみにしているようである。


 ……が、ここで大鉱脈に向かう二人を阻むものがいた。


「おい、誰だお前は」


 黒い鎧を身に着けた大男だ。


 背中に剣を背負っており、なかなかの業物だろう。


 自信にあふれた、といえる表情であり、身長も高く……いや、高いが、ホーラスのほうが若干高いので、睨み上げる形になっている。


「彼はホーラス。私たち、ラスター・レポート幹部六人の師匠です」

「はっ? こんな弱そうなやつが勇者の師匠? 馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」

「……私が嘘をついていると?」

「こんなひょろっとした奴が勇者を鍛えたなんて、バカな話があるか! もしかしたら勇者様のほうが騙されてんじゃねえかと思ってきてみりゃ、案の定弱そうなやつだ。勇者様も、こんなやつは放って、俺のところに――」


 自分に酔ったように言葉を続ける男。

 だが、長くは続かない。

 ……ランジェアの背後に、銀世界の幻覚が見えた。


『おい、調子に乗るなよ?』

「あっ、かっ……」

『お前が何を考えてようが、何を妄想しようと自由だけどな。望むのにも限度があるんだよ。逆鱗に触れてるのがわからねえのか』

「お、俺は……」


 ランジェアの圧倒的な威圧。


 魔王を討伐するという世界最大の功績を得たというそれは、圧倒的な『圧力』を伴う。


 至近距離で間近に受けたら、普通なら耐えられない。

 そして……確かにこの男も、一般的に言えば弱くはないのだろう。

 しかし、ランジェアから見れば普通と大して変わらない。


「そこまでにしておけ」

「んっ♪」


 ホーラスがため息をつきながらランジェアの頭をなでると、威圧感が消し飛んでうれしそうな声を出した。


 その威圧感が飛んだからか、男は腰を抜かして地面に崩れ落ちる。


「あんたの言い分も理解できるよ。こんな覇気のないひょろっとした奴が急に出てきて納得できないのもわかる。が……事実は事実だ。次はどうなるか俺も分からんから、あんまりちょっかいかけてくるなよ」

「……な、こ、こんな……」

「俺だって人に惨めな思いをさせたいわけじゃないからな。ランジェア、行くぞ」

「はい、師匠」


 満面の笑みを浮かべて歩き出したホーラスについてくるランジェア。


 ……その笑顔は紛れもなく本物であり、邪魔することそのものが無粋だろう。


 難癖をつけるということそのものが、軽い事だと思うものはいる。

 しかし、そこに時折ある逆鱗に、気を付けなければならない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「難癖をつけるということそのものが、軽い事だと思うものはいる。しかし、そこに時折ある逆鱗を、気を付けなければならない」 難癖をつけて、どうしようとしたんだろう。入場料を払えとでも言いたかっ…
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