第57話 ランジェアVSパストル……霊宝竜ゼツ・ハルコン 1
宝都ラピスの辺境で発生した大爆発。
それは、直径100メートルをまとめて吹き飛ばすかのような、そんな威力を誇っていた。
辺境とはいえ、人がいなかったわけではない。
そこにいた人たちは、全員が死亡か、もしくは重傷となっている。
死体を見れば、一撃で絶命に至ったのか、その損壊が激しい者も多い。
「はははっ、すごい。凄いぞ。この力があれば、すべてを支配できる!」
その中心点に立つのは、パストルだ。
スーツ姿であることは以前と変わりはない。
ただし、本人の雰囲気は、以前とはまるで別物。
いや、彼が『管理者であること』に執着しているのは以前からであり、その『管理』の最高峰である『支配』を唱えている以上、内面は変わっていないのだろう。
しかし、そこに付随された『力』が、彼をゆがんだものに変えた。
彼の右手には青色の金属球が存在し、今も青色の魔力を放出して光っている。
「圧倒的な力。絶対的な力。これこそが、支配者に必要な物だ。今までの俺は間違えていた。管理するということは、従わせるということ。そこで、『権力』などという、人と人の関係が作るものを盾にしたところで何の意味もない。相手を問答無用で黙らせる暴力。これこそが、支配者の力!」
「……滑稽なものですね」
「ん?」
パストルは声をかけてきた方を見る。
そこには、ランジェア、ティアリス、エリー、ラーメルの四人がいた。
「ほう、この町にいた幹部が勢ぞろいか。お前たちの師匠はどうした?」
「師匠は日課でダンジョンの中よ。というより、あなたがこのタイミングで暴れている理由も、貴方に力を与えた人間が、師匠がダンジョンにいる瞬間を狙ったからに決まってるわ」
「ふざけるな! 俺は絶対的な力を手に入れたんだ! 俺は支配する側で、お前たちは支配される側だ! 今の俺なら、あの男を殺すことすら容易い!」
「……はぁ」
ランジェアはため息をついた。
「貴方程度が師匠に? 寝言は寝て言ってください」
「俺をバカにするな! 俺の絶対的な力を見せてやる!」
パストルが右手の金属球を掲げる。
……次の瞬間、エリーは狙撃銃を構えており、その弾丸が金属球に直撃したが、傷一つついていない。
「……随分頑丈ですね。というより、それが壊れなくとも、腕を吹き飛ばす威力のはずですが」
「随分物騒な……まあいい……俺の力を見よ!」
パストルが掲げると、金属球が粒子になって、彼の腕に入っていく。
「フフフッ、フハハハハハハッ!」
すべての粒子が彼の中に入ると、体の内側から青い魔力があふれ、パストルの体を包み込む。
包み込んだ後、どんどん大きくなり……やがてその魔力が霧散し、姿を現したのは、全長十メートルの竜だ。
先ほどの青い球の影響か、鱗は青く輝いており、全体的にがっしりとした印象を与えるフォルムをしている。
「すごい、すごいぞ! これが、これが俺の力! 1000年前の超巨大国家を滅ぼした、『霊宝竜ゼツ・ハルコン』の力だ!」
パストルは口に魔力を集めると、それを一気に放出。
ランジェアたちに向かうが……ランジェアが『竜銀剣テル・アガータ』を一度振ると、それだけでブレスが霧散する。
「……なるほど、この剣の手入れをしっかりしておけと言っていた理由がよくわかります」
「それだけ強いということね」
「どうすんだ?」
「私一人で充分です。三人は、被害が広がらないよう、避難誘導を」
「わかった。ヘマしないようにね」
「この程度の相手にそんなことはしません」
次の瞬間、三人はランジェアを残して後ろに走っていった。
「ほう? 俺にたった一人で挑むつもりか」
「霊宝竜ゼツ・ハルコン……おそらく『霊天竜ガイ・ギガント』と同格でしょうか。ただ、力を得たばかりで使い方がわかっていないあなたなら、私一人で十分です」
ランジェアは剣を構えなおす。
「ククク、面白い。が、もっと面白くしたいなぁ。そこらへんでまだ生きている奴を人質に……ん?」
パストルが周囲を見渡す。
すでに、この辺りに、死体も重傷者もいない。
いや、彼の視界の端で、スーツやメイド服を着た少女たちが、運んでいるのが見える。
「……既に片付けていたか」
「我々は最前線にいましたから。死体や重傷者くらい触り慣れています」
「フンッ! 英雄というのもなかなか、底辺な生き方だ!」
パストルは口に再びエネルギーをためる。
そしてすぐに、それを放った。
「無駄です」
ブレスをかき消して、次の瞬間迫っていた尻尾を剣で弾く。
そのまま、ランジェアは突撃した。
「矮小な人間の分際で、愚かな!」
足を上げて、ランジェアを踏みつける。
だが、ランジェアは踏み付けの間合いに入る前に跳躍すると、そのまま胸のあたりまで飛び上がって、剣を振り上げた。
本来なら届かないが、魔力を刃にまとわせて延長し、胸を切り裂く。
「ぐっ、おおおっ!」
「体の動かし方が全然わかっていませんね」
剣を延長させたまま、空中を蹴って、次々と斬撃を叩き込む。
パストルは回避できておらず、次々と傷が胸に増えていく。
「ちっ、調子に乗るな!」
腕を振り上げて拳を繰り出すが……
「『儀典氷竜刃・謳歌』」
ランジェアの体から水色の魔力があふれ、剣を振ると、その拳を弾き……いや、吹き飛ばした。
「ぐおおおおっ! な、なんだ!?」
「勇者ですから、『技』くらいあります」
「チッ、舐めるな!」
片手でダメなら両手で。
パストルは両手の拳をランジェアに繰り出し……。
「『儀典氷竜刃・月下嵐乱』」
引き絞るように構えて、水色の魔力を纏った突きを放つ。
拳に衝突……する前に、魔力が解き放たれ、両腕を吹き飛ばした。
「ぐああああっ!」
叫ぶパストルだが、その間に腕は再生している。
「随分回復力が高い」
「い、いったいそれは何だ! こ、これほどの威力の技など。聞いたことが……」
「私が使う技は『儀典氷竜刃』……師匠から教わった『氷竜刃』という戦い方は、氷属性に対して高い適性を持つ私が、『竜銀剣テル・アガータ』と高い安定状態を保ちつつ全方位の斬撃の反復練習で体に叩き込ませ、攻撃する際に『名前』を付けることで高い攻撃力を発揮する。というもの」
「ぐっ……」
「もともと、これは氷の竜を倒して手に入れたインゴットから作られた剣ですが、そこに『ヤマタノオロチ』を討伐したことで手に入れたインゴットを合わせ、『儀式化』させることでさらに威力を上げています。まあ、儀式に関しては説明が長くなるので端折りますが」
「全ての斬撃に対して名前を付けて、圧倒的な攻撃力を発揮するという理屈か。そんなこと、聞いたことがない!」
「普通は聞かないでしょうね」
ホーラスが何度も言っていることだが、『魔力は安定を求めている』のだ。
そして、そのホーラスが編み出した戦闘術で『名前を付ける』という手段をとるということは、『魔力の安定化』に関しては、『名前を付けることが重要』ということになる。
魔力の性質を理解しないとたどり着けない理論であり、単なる本部役員であったパストルは知るはずもない。
「さて……あまり時間もかけられませんね」
空中に立ったまま、パストルを見下ろすランジェア。
「クソっ! 俺は支配する側だ! お前ら冒険者は、俺に支配される側だ! 俺に逆らうなああああああっ!」
パストルは吠える。
「竜となり、翼を得たことで、見下ろされるのが前よりも嫌になりましたか? まだ飛べもしない。得たばかりの翼に、何を期待しているのか……」
ランジェアは剣を構える。
「ここがあなたにとっての修羅場です。くぐれるものならくぐってみなさい」
「俺は支配する側だ! 俺に従えええええええっ!」
人と竜は、衝突する。
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