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第5話 宝都にいったら弟子と屋敷が待ち構えていた

 宝都ラピス。


 カオストン竜石国の首都であり、中心部には巨大ダンジョンである『キンセカイ大鉱脈』への入り口が存在し、このダンジョンを中心に開国された。


 そして国として育ち、首都となったこの町が『宝都ラピス』と名付けられ、今に至る。


「……宝都ラピス。もうそろそろか」

「そうだな。いやー。アンタが近くを通りかかってよかったぜ。途中で軸がゆがんだ時はどうなるかと」

「こちらこそ、ここまで乗せてくれてありがとう」

「恩人なんだ。しかも強化してくれて助かるぜ」


 ホーラスは馬が引いている荷車の上に乗って、周囲を見渡している。

 御者をしている男との会話を聞く限り、町と町をつなぐ道をホーラスが歩いていると、荷車の軸がゆがんで困っていた男を発見し、ホーラスが修理をして、その駄賃としてここまで乗せてもらったということだろう。


「よし、じゃあ、俺は荷物の検分があるから、一度別れよう」

「ここまで世話になった」

「はっはっは! 道中のモンスター討伐まで任せちまって、こっちのほうが世話になったぜ」


 ホーラスは頷くと、荷車を下りた。


「俺はギンジってんだ。アンタの名は?」

「ホーラスだ。また会おう」

「おう! またな!」


 ホーラスはギンジと別れて、そのまま宝都ラピスの門に向かう。


 近くの検分所では荷物の確認が終わった商人が許可証を貰っている様子だ。


 大型の荷物を持ち込む場合は許可証がないと門をくぐれないようになっているが、ホーラスのような歩き旅のような格好の場合は簡単に通れる。


 とはいえ、初めてくるので簡単な書類を作る必要がある。


「……師匠?」


 のだが、どうやらその必要はなくなったようだ。


 職員の控室で待機していた様子のランジェアだが、ホーラスの姿を見かけて椅子から立ち上がった。


「ん? ランジェア?」

「師匠!」


 それまで氷のような無表情だったが、ホーラスを見ると一気に明るい表情になって、ホーラスに抱き着いた。


「すううううはああああすううううはああああ。あー本物の師匠です!」

「お前普段とキャラ変わりすぎだろ」


 勇者として王が並ぶ謁見の間だろうが絶対に緩まない『強者』の風格が普段からあるのだが、今のランジェアは年齢相応……いや、十七歳であることを考えるとやや幼く感じるような言動だ。


「師匠は特別ですから!」

「……そうか」


 町に入って早々疲れている様子のホーラスである。


「師匠、屋敷に案内します」

「え、屋敷?」

「はい。ラスター・レポートで屋敷を持つことになりまして、そこに師匠も一緒に住みましょう!」

「……年頃の娘が何言ってんだか」

「あ、こちらが師匠の国籍と市民権になります」


 ランジェアが二つの書類を取り出す。


 そこには、確かに、カオストン竜石国の国籍と宝都ラピスの市民権を証明する記載があった。


 なお、市民権のほうに思いっきり住所が書かれており、おそらくランジェアが言った屋敷なのだろう。


「……行動が早いな」

「というわけで、行きますよ!」

「あ、ちょっ……」


 ホーラスの腕を引っ張ってグイグイ歩くランジェア。

 その顔は天真爛漫を擬人化したかのよう。


 勇者としての彼女には氷の世界が似合うとすれば、今の彼女はひまわり畑が似合うだろう。


 ただし、そこは勇者。

 十七歳で胸と尻以外は細い体だが、膂力は絶対的。

 ただの銀髪美人と侮るなかれ。


「つきましたよ師匠。ここが私たちの家です!」

「……でかいな」


 屋敷を見上げつつ、もげそうになっていた腕を回してつぶやくホーラス。


「おかえりなさい。ランジェア。お待ちしておりました。師匠」


 門を開けて中から出てきたのは、金髪碧眼の巨乳メイドだ。


 朗らかで『めっちゃ優しそう』な微笑を浮かべており、露出の少ない正統派なメイド服だが、かなり魅力的な姿だ。


「ティアリス、久しぶりだな」

「ええ、久しぶりですね。師匠。こうして一つ屋根の下で過ごせる日を待っていました」

「あー。うん。そんな感じなんだ……」

「フフッ、ご案内します」


 ティアリスは微笑を浮かべて、中に入っていく。

 屋敷はかなり立派な物で、装飾品は少ないが、一流の建築士がいたのはわかる。


「人の気配が全くしないな」

「今は私とランジェアしか集まれていませんが、すぐに全員が揃うでしょう」

「アレ、そうなのか」

「まだ後片付けが終わっていませんから、とりあえず屋敷の確保と清掃。あとは師匠の作業場を用意しています」

「至れり尽くせりだな」

「ここまで育ててくださったお返しを何もしていませんから、これくらいは当然です」


 一つの部屋に到着。


「こちらがご用意させていただいた作業場になります」


 ドアを開けると、そこそこ広い部屋だ。

 中央に台が用意されており、壁際には鉱石が入った箱や、希少金属を並べた棚が置かれている。


「ほー。金属。やっぱりここはいろいろ揃うんだな」

「そうですね。やはり、『キンセカイ大鉱脈』はこういったものも集まります」

「この環境があれば、師匠も思いっきり研究できますね!」


 良い笑顔でランジェアがいった。


「国籍や市民権を得ようと思ったら、最低で四年だからな。まずはそこまでゆっくりやろうと思ってたが、ここまでそろってるならいろいろ前倒しにできるな。ありがとう」


 ホーラスは二人の頭をなでる。

 撫でられた二人は無抵抗で、気持ちよさそうな顔つきだ。


「さて、色々整備するか」

「では、整備が終わったら、稽古をお願いします」

「稽古って……この辺りにいい広場ってあるのか?」

「いえ、ダンジョン内部の『元ボス部屋』を使いましょう。あそこならいくら暴れても問題ありません」

「……まあ、いいだろう。ティアリスは?」

「私は準備することがたくさんありますから、お二人で楽しんでください」

「ん? 準備? いろいろあるなら手伝うが……」

「いえいえ……一人のほうが速いので」

「要するに説明するだけでかなり長いってわけか……わかった」


 部屋に入るホーラス。


「じゃあ、整備は三十分で終わるから、ランジェアは準備運動くらいはしておけ」

「はい!」


 ランジェアとティアリスがドアを閉めてどこかに行った。

 足音が聞こえなくなると、ホーラスは溜息をつく。


「……本当に希少な金属が多いな。いったいいくら使ったんだか」


 ため息はついたが、うれしそうな様子で、ホーラスは金属を眺めている。

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