第47話【王国SIDE】 バルゼイルの推論2
「ふむ……なるほど、要するに、『宮廷冒険者計画』を進めるうえで、最重要と言える人物が姿を消したということか」
「本部役員となれば、上級ではなくとも、金貨1万枚を動かせます。しかし、その役員がいなくなれば、勢いも衰えるでしょう」
ディアマンテ王国の王城。
バルゼイルの方針で、『誰が宮廷冒険者を認めさせようとしているのかわからないから泳がせておく』という状態であった。
そのため、『検討はするけど調整とか承認とか、めちゃくちゃ時間かかる』といった『雰囲気』でダラダラやっていた。
もちろん、バルゼイルは百年前の『宮廷冒険者登場による国家の滅亡』を知っているため、そんなものを認めるつもりはさらさらない。
……なぜ、本部役員であるパストルすらも知らなかった事実をバルゼイルが知っているのか、それはそれで不自然な点はあるが、王にしか使えない資料室があるのだろう。
「しかも、その首謀者は、あの事件の原因となった男か。ふむ……」
「陛下、何か気になることが?」
「二つ、不審な点がある。一つ目は、あの大事件で、『魔道具の設計図をだれが提供したのか』ということだ」
「確かに、マジックアイテムの開発は時間がかかるものです」
「うむ、それから、私もあれから勉強したのだが、改造を加えた『魔力が通りやすい金属』でマジックアイテムの『芯』が作られていて。これが性能に直結するようだな。ただし、『小型化』する場合、通常の金属ではスペックが足りんらしい」
「はい。どうしても希少な鉱石が必要になります」
「あの大事件だが、用意されたのはメダルやカードのような形で、主に配られたのはメダルの方だ。かなり携帯性に優れているが、素材の条件が厳しすぎる」
携帯性の優れたメダルなど、薄さは三ミリもない。
そこに希少な鉱石を加工した『芯』と、マジックアイテムとして機能するための細工を施すとなれば、素材的な条件も技術的な条件もハードルが高すぎる。
「確かに……」
「そして、それを加工する技術というのも、長い研究が必要だ。一体何者がそんな設計図を提供したのか、少し気になる」
「陛下の予想は……」
「心当たりはあるな」
心当たりはあるといっているし、表情からして取り繕っている様子はない。
しかし、視線を外した。
なんというか、『突っ込んでほしくなさそうな雰囲気』を部下は感じた。
「ただ、おそらくその提供者は、通常の技術者よりも明らかに格が違う。そしてもう一つの不審な点。『今回の逃走難易度』のことだ」
「確かに、金貨1億枚の借金を棒引きにするとなれば、パストルの身柄を確保するために細心の注意を払って人材が派遣されるはず。それを容易く掻い潜るとは……」
「おそらく、今回逃走経路を確保したのは、その『技術者』だろう」
「……そうでしょうか」
「ん?」
部下の表情の曇り方を見て、バルゼイルは首を少し傾げて……すぐに理解した。
「一応言っておくが、私はその技術者が、ホーラスだとは思っていない」
通常の技術者を明らかに凌駕する技術力という意味で、ホーラスを連想する気持ちはわからなくもない。
ただ、バルゼイルはそれをすぐに否定した。
「可能性がゼロとは言わんが、作戦の描き方が、彼とは全く違う」
「それはどういう……」
「勇者の作戦は基本的に『見せしめ』と『一網打尽』だ。おそらくこれはホーラスに教わったものだろう。勇者コミュニティは百人程度で、魔王軍という大人数を相手にする戦略の都合上、一つの行動、一つの誘導で多くを動かせる策を好む」
そもそも、必要な『人数』を揃えられるとなれば、『少数で多数を相手にする』ような戦略をとる必要はない。
単純に、『敵の多数をさらに大きな多数で押しつぶせばいい』のだ。それは兵法というもの。
そして、『優秀な駒』を使って情勢の本元を表舞台に引きずり出し、そこに手を加えるというのは、『少数で多数を相手にする』という作戦の考え方だ。
アンテナ影響下のホーラスは『人材』そのものをゴーレムとして作ることは可能だが、勇者が運用するに値するレベルで『教えることができる』となれば、『戦術家としてみた場合の本命』はそちらだろう。
「ただ、『見せしめ』にしても『一網打尽』にしても、今回の『裏』にいる技術者はどこか違う。『最終的に失敗することを前提に、個人に手を加える』というのがな」
バルゼイルなりに、『臭い』と思う部分があるのだろう。
「作戦に必要なのは『バランス感覚』だ。これは一人では到底不可能。『個人』の実力だけですべてが解決することはなく、一見、一人だけで解決しているように思えても、本質的には多くのものが関わっているのは当然のことだ」
「確かに、パストル一人で、その『バランス感覚』が取れるとは思えません」
……なお、一応、報告書には『パストルと一緒にセデルも消えた』となっているが、正直、オマケなので思考の外に追い出しているようだ。
かわいそうに。
「とまぁ……そんなことはどうでもいいとしてだ」
「え?」
「私個人として不審な点はあるといったが、私が絡むことになるかは別だ。とにかく、『宮廷冒険者計画』の上がいなくなったのは事実。ここで一つ、示しておくとしよう」
「示すとは?」
「ランザ。城の大広間に、冒険者と避難民……『調子に乗っている移民』を500人ずつ集めておけ」
「すぐに手配します」
そう言って、部下……ランザはバルゼイルの執務室を出ていった。
「これで移民問題をまとめて片付けよう。しかし……」
バルゼイルの脳裏によぎったのは、かつて読んだランジェアからの手紙。
要約すれば『会見を開くから難癖をつけたいやつを全員呼べ』という内容だったが、それを思い出した。
「……『見せしめ』と『一網打尽』か。私も毒されたようだ」
バルゼイルはため息をついた。
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