第39話 本質的には『外回りの途中で絡まれてる人』
エリーがセデルへの制裁方法を考えているころ。
「コピー機を作ったからテストとして使ってほしいんだよ。ここに紙を置いてカバーを閉じてスイッチを押せば、コピーしてくれるんだ。紙とインクが足りていれば、何枚でも同じものが作れるぞ」
ホーラスはコピー機の営業に行っていた。
しかも、質が高いスーツとシャツ、革靴である。
「コピー機ですか。それはすごいですね」
ちなみに売り込んでいる相手はリュシア王女である。
「ただ、この町で売られてる紙を使ってみたらちょっと認識が弱かったから、これに適した紙とペンも用意した」
そう言って、ペンと紙が出てきた。
「おおっ、すごく質の良い紙ですね。それに……ペンも、こんなに書きやすいものは初めてです!」
クルクルと丸を書きながら使用感を試しているリュシアだが、どうやら満足している様子だ。
「……コピー機に文房具。ゴーレムマスターはこんなものを作れるんですね」
リュシアの側近であろう黒髪でショートカットの少女も使用感を試しているが、こちらも満足したのか頷いている。
「これがないとストレスが凄いからな」
そう言って遠い目をするホーラス。
十年近い王都ワンオペ歴は伊達ではないのだ。
「まあ、その顔を見れば、どれほどの地獄だったのかが想定できないレベルに到達しているのはわかります」
「え、そんなに?」
「そんなにですよ。殿下。とりあえずテストは引き受けましょう」
部下が色々話を進めているようにも見えるが、リュシアは気にしていない様子。
「この宮殿であれば、このコピー機を使う機会も多いでしょうし、さっそく使ってもらいましょう」
「何か不備があったら言ってくれ。試作機だから、まだ調整中の部分も多いんだ」
「わかりました! あの……試作機なんですよね。これが完成したら、どうなるんですか?」
「勇者屋敷の俺の部屋にあるメインキューブと常に通信していて、何か書類に不備があった場合、コピー機のカバーで挟んだ時に訂正ランプが点滅するんだ。その場で訂正後の書類を出してみてもらうことも可能」
「そんなことが可能なんですか!?」
不備があった場合にそれを感知するセンサーが付いている。
明らかにコピー機の役割ではない。
「これくらいの機能が必要だったんだよ。本当に。マジで」
十年近い王都ワンオペ歴は伊達ではない。
「まぁ、試作機だし、その機能が付くのは当分先だと思うけど、とりあえずコピー機としてお願いします」
「わかりました」
「それじゃあ、また何か作ったら持ってくるよ」
「それは構いませんが、宮殿は実験室ではありませんからね?」
「まあそれはわかってるけど、それはそれということで」
「いつでも遊びに来てくださいね!」
元気な王女である。
というわけで、ホーラスは宮殿を後にした。
「……で、人の荷車で何をやってるんだか」
一応、コピー機の試作機を渡す先は宮殿だけではない。
協会支部などでもこのようなアイテムは欲しい。というか、クエストシートなんてフォーマットが決まっているものを一々手書きしているのだ。欲しいに決まっている。
ほかにも渡す候補はあるので数台、荷車に載せているのだが……。
「おい! この荷車どうなってんだ! 全然動かねえぞ!」
「どうやって固定してるんだ。この魔道具、まったく荷車から離れない」
「ガラスケースの中に文房具が入ってるけど、全然あかねえ!」
白昼堂々と強盗行為に勤しんでいる犯罪者がいた。
「おい、俺の荷車に何やってんだ」
ホーラスは怒りを通り越して呆れながら、彼らに近づいた。
「ああっ? これ、お前の持ち物か」
「そうだけど」
「おい、コレで売れ」
そう言って男が上着に手を入れると、そのままホーラスのほうに掴んだものを投げてきた。
銅貨三枚である。
「……これだけで?」
「俺たちはSランクギルド『エクスカリバー』だ。俺たちにモノを売れるってことがどれほど大きなことか、わからねえわけじゃねえだろ?」
「冒険者……か」
ニヤニヤしている男たちを見て、ホーラスは溜息をついた。
「……ああ、俺のことを、どっかの商会の新人だと思ってるのか」
ホーラスの外見年齢は十代後半であり、今の格好はスーツだ。
初対面の人間なら、どこかの商会の見習いか何かだと思うだろう。
そして……『Sランクギルドと取引した』という『字面』だけは確かに立派なので、それを盾に脅せば通ると思っているし、実際に、通った過去があるのだろう。
「不平等な取引だと思うか? まあ、世の中には、こんなこともあるもんだ。社会勉強だと思って、これをおとなしく俺たちに……」
「『エクスカリバー』ねぇ。随分錆びついたもんだ」
「ああっ!? なんつったテメェ!」
リーダーらしい男がホーラスに殴り掛かる。
……一応言っておくなら、彼らは『Sランクギルド』と名乗った。『Sランクパーティー』ではない。
要するに、地位だけ高く、戦闘力は低いものは多いということだ。
もちろん、『Sランクギルド』という称号が軽いということは絶対にない。
拳の威力が低いことは、本人の『強さ』に比例しない。
もっとも……『たかがSランクギルド風情』が、『勇者コミュニティの師匠』に舐めてかかるというのは、あまりにも警戒心がなさすぎる。
「はぁ……」
ホーラスは少し、睨んだ。
それだけで殴りかかってきた男は、全身が金縛りにあったかのように硬直する。
「……なっ、あっ、か、らだ、が……」
「修羅場をくぐらないことは甘えではないし、お前たちの主義の善悪に興味はないが、自分たちがゴミ箱に入れられている自覚がないのは滑稽だ。俺の敵になる資格もない」
ホーラスが睨んだだけで動けないのは、目の前の男だけではない。
五人組。おそらく『エクスカリバーの主要幹部』だと思われるが、その全員が顔を青くして硬直している。
「お前らさ。憧れとかないだろ。あったとしても、とっくの昔に忘れただろ。そんな奴が、冒険者って領域に、土足で上がり込んでくるな」
ホーラスは、エリーとラーメルに言った。
冒険者は、『憧れを胸に秘めるべきだ』と。
当然、『憧れている存在』は、ホーラスにもいる。
もう彼は冒険者ではなくなったが、かつてその立場であったころ、その憧れを胸に秘めていた。
もちろん、冒険者が憧れを胸に秘めるべき、というのは彼の主義の話であり、別にそれに対し何を言おうとホーラスは構わない。
しかし、その上で、冒険者は憧れをもって歩むべきだとホーラスは主張する。
「……はぁ」
ため息とともに威圧をやめた。
すると、五人組は地面に崩れ落ちる。
荷車の上で硬直していたものは、バランスを崩して地面に落下した。
「え、お、お前、いったい、なんなんだよ!」
「ホーラス。お前たちにわかりやすく言えば、『勇者の師匠』だよ」
「「「「「!?」」」」」
全員が驚いている。しかし……。
「そ、そんなわけがあるか! お前が勇者の師匠だと!?」
リーダーらしい男は認められないのか、喚く。
ここでもしもそれを認めたら、『勇者の師匠』に喧嘩を売ったことになるからだ。
彼ら自身が、『高い冒険者ランク』というものが『好き勝手に行動しても許される』と考えているゆえに。
あとでどんな報復が来るのか、想像もできない。
そう、『持ち主が不在の時に、荷車で強盗行為を働き、それが盗めないからと、銅貨三枚で売れと脅迫する』という行為に、何が返ってくるのかがわからない。
ホーラスから何をされたとしても、『悪いのは彼ら』なのだから。
「ま、実際に盗まれてはいないからな。そこは未遂ってことにしておいてやるさ。どうせお前らはパストルの駒の予備に過ぎないからな」
「はっ?」
「わからなくていい」
ホーラスは荷車を引き始めた。
「言っておくが、別に許すつもりはないからな? 今回の強盗行為の話もそうだが。特に、冒険者を名乗りながら、『暴君』として動いてることだ。そこは、『俺が考える冒険者の姿』として最も不適切だ」
「ふ、ふざけるな! 勇者の師匠だからって調子に乗りやがって。魔王におびえて王都でビビってたのはお前も同じだろうが! 実際に、今! Sランクギルドの俺たちの方が偉いんだよ!」
「だから強盗しても許されるって? あんまり社会を舐めるな。通信機器が世に出始めた時代に、不注意な発言はしないほうがいいと言っておくよ」
衛兵たちが遠くから走ってきた。
「話は聞いたぞ。Sランクギルド『エクスカリバー』の幹部たち。勇者の師匠様への強盗行為とは、いったい何を考えている!」
「なっ……」
「逮捕だ! 最近は『セデル連合』などという迷惑集団がこの町でデカい顔をしているからな。どうなっているのか、そっちも吐いてもらうから、覚悟しておけ!」
「ま、待て、あ、謝るから許し――」
「貴様らは厳重注意しようが謝罪しようがすぐに忘れてバカなことをするだろうが! 連れていけ!」
「「ハッ!」」
衛兵たちがさっさと動いて、五人を連行していった。
抵抗している幹部たちだが、そもそもこの国の衛兵たちはキンセカイ大鉱脈で実戦経験を積んでいるため、力もしっかり強い。
見たところ鍛えていない『権力者』でしかない五人に抵抗する術はなかった。
「……不謹慎を承知で言うが、元気だな」
「最近は本当にアイツらには困っていまして、ただ、国際法で、『被害届を出さないと被害にならない』ということになっていますし、実際、冒険者がこの町を潤している部分も少なくないので……」
「『高ランク冒険者ギルド』が相手だと強く出にくいと」
「そうです。過去に、『ギルドの幹部を逮捕した結果、その下をうまくコントロールできず、経済的に大きな打撃があった』という経験がこの都市の人たちにありますので……」
「……社会的な問題があった時はバランス調整を取り組むべきなのに、極論を言い出すのはどこも同じか」
「耳の痛い話ですが、そのような形です。不謹慎ですが、今回の被害者がホーラス様であってよかったと、少し思っています」
「……」
Sランクギルドの職員を逮捕するとなれば、被害者がそれに負けない力が必要になる。
なんとも、『法』というものを無視した行為だが、それはそれとしても、この衛兵も不謹慎過ぎないだろうか。
もちろん、それほど悩まされているということでもあるのだろう。
「それと、ホーラス様の耳に入れておきたい話が」
「ん?」
「冒険者の協会支部に、『宮廷冒険者』という枠を設けるかどうかという話があるのはご存じでしょうか」
「この前行ったとき、なんか言ってたな」
「現在はディアマンテ王国の王都で話が進んでいるようで進んでいないような、そんな形で、この国では話だけはありますが、進めてはいません」
「ふんふん」
「ただ、協会本部の方で、セデルをこの国の宮廷冒険者にするという動きがあるそうです」
「協会本部ねぇ……ああ、俺の耳に入れておきたい理由はわかったよ。情報。感謝する」
「ありがとうございます」
「じゃあ、業務頑張って」
「はい。ホーラス様も、また何かお作りになられた時は、宮殿に訪ねてください」
「覚えておくよ」
「では、私はこれで」
衛兵は一礼すると、そのまま歩いていった。
「……パストルのクソガキめ」
ホーラスは最後にそんなことをつぶやいた後、荷車を引っ張り始めた。
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