第38話【連合SIDE】 黒幕は気配は、微笑む悪魔の掌の上に。
「何? 携帯型の通信魔道具だと?」
宝都ラピスの辺境に存在するセデル連合本拠地。
セデルの執務室では、部下のアルバロが三つの板を机に置いた。
「はい。どうやら勇者の師匠が100台ほど作成したそうで、テスターを集めて使用した感想を聞きたいと」
「ほう? なるほど」
「とはいえ、どれほど優れたアイテムであろうと、100%の返答は得られないものです。3台だけですが、逆に言えば、3台だからこそ、我々が所持していることも気が付くことはないでしょう」
「なるほど、確かにそうだな。しかし……こんな小さなもので本当に通信ができるのか?」
セデルが疑問に思うのも無理はない。
通信という技術は、この世界では主に3通りになるだろう。
1つ目に、魔法使いに『通信魔法』を取得してもらうもの。
ただし、通信魔法は攻撃性という意味では威力がとても低いが、内部の情報量が多く、『求められる射程』が遠すぎるため、魔法としては『低威力、超精密、超長距離』に完全に特化している。
何十年にも及ぶ計画の中で満足する人間が2人か3人できるかどうかであり、できる人間はまず『一般市場』に降りてこない。
2つ目に、ダンジョンから手に入れた『通信魔道具』を使うこと。
これならば、硬貨さえ用意できれば通信が可能になる。
ただし、そのようなアイテムの存在が露見した場合、世の中の権力者が黙っていない。
高い性能を持つものは少なく、『世界会議の本部であっても使用手続きが面倒』なほど、確保できていないのだ。
こちらもまず『一般市場』には降りてこない。
3つ目に、『通信施設』を作り出すことだ。
ただし、これは圧倒的な性能を持つ中継施設がなければそもそも困難を極める。
何度も何度も計算を行い、精密な『長距離射撃』で別の施設に『情報体となった魔法』を飛ばす必要があるのだ。
しかも、人間の理論だけでは『超遠距離』に届かないため、希少な鉱石が必要になる。
まず、『調達しようとした時点』でバレるし、何よりモンスタードロップのアイテムと比べて傍受されやすいという、リスクとリターンが見合っていないものになる。
とにかく『困難』なのだ。
むしろ、訝し気な目線でみるだけで、失笑して投げ捨てるという行為を取らないセデルは、まだ『良い方』だろう。
「私も使ってみたのですが、本当に使える様子。どこまで届くのかはわかりませんが……」
「まあ、それは実験してみないと分からないか」
セデルがそう言ったとき、ドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、ピンク色の髪をショートカットにした少女だ。
14歳くらいだろう。小柄だが、胸部は存在を主張しており、スーツのミニスカートから見える足もきれいな物。
そんな少女が、封筒をいくつか抱えている。
「セデル会長。いくつかお手紙が届いています」
「重要なものはあるのか?」
「『協会本部』からの手紙があります」
「ほう、見せてみろ」
「はい」
少女は封筒をセデルに手渡した。
「……確かに、協会本部からのものだな。ああ、もう下がっていいぞ」
「はい、失礼しまし――」
「ああ、そうだ。今日の夜。俺の部屋にこい」
「え? そ、それは……」
「何をするかなど決まっているだろう。大怪我した冒険者の父親の治療費。誰が払っていると思ってる」
「す、すみません」
「謝罪に価値はない。夜に誠意を示してもらうぞ。業務に戻れ」
「は、はい……」
少女は青い表情で部屋を出ていった。
「……アイツも、アイツの父親も愚かだな。遠くから付与魔法をモンスターにかけて攻撃力を上げて、致命傷にならない程度の大けがを負わせるなど、嵌める手段として定石だろうに」
「陰謀を嗅ぎ取る知識も知恵もないということでしょう。ただ顔と体がいいだけの女にはわかりませんよ」
「それもそうだな。で、何々……」
手紙を読み始めたセデルだが、すぐに頷いた。
「さすがに情報が速い」
「というと?」
「協会の本部役員であるパストル様は俺の後ろ盾でな。どうやら、今回の通信魔道具に関する情報を掴んだらしい」
「それは……速いですね」
「本部役員の特権で、ある程度なら本部の通信魔道具も使えるが、携帯型の魔道具が欲しいということらしい。こちらには3台あるから、1台を俺、1台はお前、1台をパストル様にお渡ししよう」
「畏まりました。これで、セデル様の評価も上がりますね」
「その通りだ。しかし……ここから届くのか?」
セデルは暇なので、勇者屋敷を遠くから見に行った。
そこには巨大なアンテナが立っており、通信魔道具と聞いて思い浮かぶのはこのアンテナだが、届くのだろうか。という疑問が出てくるのは当然だろう。
「通信性能はともかく、中継性能に関しては、本部にもアンテナはあるはずです」
「それはそうか」
……厳密に言えば、ホーラスが作った通信魔道具は、ホーラスの部屋にあるメインキューブが全ての処理を行なっているため、これを介さない限りうんともすんとも言わないが……別に彼らは魔道具技師ではないので、気が付かないのも無理はない。
「では、1台送ろうか。これから楽しみだな」
ゆがんだ笑みを浮かべるセデル。
ただ、彼はすでに、地雷を踏んでいる。
★
「ロリは正義、足がすべすべのロリは神。神に手を出すのは許しません」
「エリー。『むっつりスケベ』で『ロリコン』で『足フェチ』はフォローできませんよ?」
「ランジェア。わかってください。最近、幼女の股に顔を埋めて深呼吸できていないのでムラムラしてるんです」
「わかりたくありませんね」
「まあ、それはともかく、セデルを利用しないとパストルを引きずり出せないので、計画のためにまだ泳がせてあげますが……」
「が?」
「制裁のレベルを15まで上げる必要がありますね。レベル5で済ませるつもりでしたが」
「それの最大は?」
「10です」
「大幅に上限をぶっちぎっていますが……」
「神に手を出すのですから普通の尺度など関係ありません」
「……」
「神の領域を犯せば神罰が下る。それを教えてあげましょう。未来に起こる全ての希望を掛け金として積んでもらいましょうか。それを粉々に踏みつぶしてあげます」
ランジェアは黒いオーラを浮かべるエリーを見て思った。
こいつにも神罰が下ればいいのに、と。
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