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第33話 恐喝はよくない。幼女にするのは特によくない。

「……信じられないほど鉱石納品のクエストばっかりだな」

「この町なら当然でしょう」


 冒険者協会をホーラスとエリーは訪れていた。


 なお、冒険者『協会』となる場合、基本的には『ギルド』に属さない冒険者が利用している。


 『ギルド』というのは、冒険者たちが自分たちで集まり、『クエストを発行し、それを達成するシステム』を作り出しているので、冒険者協会に来る理由はあまりない。


 冒険者が多く移動しているということは、すなわち『ギルド』も移動し始めているということであり、それは『クエストの取り合い』を意味するということでもある。

 しかし、この町なら『キンセカイ大鉱脈』という、どれほど多くの冒険者が来ようと抱えられるダンジョンがある。


 クエストも多くはこのダンジョンに由来するので、この町に来る冒険者というのは、どのみちダンジョンに入るというものになるのだ。


 大変シンプルでわかりやすい。


 そして……一つの場所で長い間活動することになる『協会支部』というのは、その町の特徴が表れている場合が多いのだ。


 エリーが『冒険者協会を見に行きましょう』と言って、ホーラスを誘ってきたわけだが、見事に鉱石納品のクエストばかりだった。


「この町の冒険者協会。初めて入ったけど、クエストボードがこんなに鉱石関係で埋め尽くされてるのはここくらいだろうな」

「別の『協会支部』には入ったことが?」

「十年前まで冒険者だったしな。城で働くために冒険者カードは返納したけど」

「そういうことですか」


 冒険者は『中立』を掲げているので、どこかの国に肩入れすることはない。


 そのため、『冒険者のままでどこかに仕官する』ということは、原則的には不可能だ。


 当時の彼のランクはともかく、それをやめなければ、『城で働く』ということは不可能だろう。


「ただいま~!」


 元気な声が聞こえてきたので出入り口のほうを向くと、十歳くらいの女の子が、鉱石が入った袋を背負ってカウンターに向かっていた。


「誰だ?」

「ナーシャちゃんですね。この協会支部にいる冒険者の中で最年少で、みんなのマスコットです」

「マスコットっていうか小動物って感じがするが……あの年齢で冒険者を? しかも見る限りソロで?」

「キンセカイ大鉱脈の浅い場所には、モンスターが一切出ず、通常よりも低い位置に採取ポイントがあるエリアが存在します。一般的に使うルートからも外れていて、その『低さ』もあって掘りにくいのですが……」

「元気な子供に行かせるのには適してるってことか」

「そういうことです」

「ていうか、詳しいな」

「私が町で有名な小さくてかわいい女の子を知らないわけがないでしょう」

「……」


 ホーラスはナーシャを見る。


 確かに、顔だちはとても可愛らしい。

 背伸びしてカウンターに袋を置いて、女性職員に笑顔で『確認お願いします!』と言っている姿は、確かに微笑ましいし、癒しというのも分かる。


 のだが、エリーの視線はなんだか『違う』気がする。


「はい。ナーシャちゃん。今日もたくさん集めてきましたね」


 『たくさん』と言っているが、十歳の女の子が運べる量などそうでもない。

 とはいえ、それを突っ込むほどホーラスも野暮ではない。


「最近はよく頑張ってますね」

「はい! 勇者さんみたいに、すごい冒険者になりたいんです!」


 ナーシャの『憧れ』は、ランジェアたちラスター・レポートということだろう。


 確かに、容姿端麗でスタイル抜群で魔王討伐を成し遂げた美少女たちだ。憧れるというのも分かる。


(ああああああああ~~~~~♡♡♡ ナーシャちゃんかわいいいいっ!)


 ……ホーラスはなんかとんでもない電波を受信した気がした。

 ちらっとエリーを見る。


「なんですか?」

「その……あまり憧れを穢すようなことをするなよ?」

「何の話ですか?」

「……いや、なんでもない」


 ホーラスは『俺って、変態には勝てないんだろうか』と思い始めてきたが、なんだか悲しくなってきたので思考の外にたたき出すことにした。

 正しい判断である。


 その時、扉が開いて、五人組がぞろぞろと入ってきた。


「ったく、セデルさんは人使いが荒いよなぁ」

「まあまあ、これが終われば娼館にいって何人か壊そうぜ」


 冒険者であることはわかるが、どこか『真っ当ではない雰囲気』だ。


 先頭に立っている男が、全員に聞こえるように言った。


「おい! 俺たちはSランクギルド、『エクスカリバー』だ! この協会支部はたった今から、『セデル連合』の命令に従ってもらうぞ!」


 そう、宣言した。


 『連合』とは、異なるコミュニティやギルドの構成員の内、何人かずつで寄り合って結成されるものだ。

 ちなみに、連合結成時、関連コミュニティやギルドの『トップが全員そろっている』場合、『大連合』となる。


 主に『連合』の場合、専門の技能を持つものが集まって何かを加工したり、特殊な『耐性スキル』を持つものが調査作戦を行ったりと、『特殊作戦チーム』の意味合いがある。

 『大連合』の場合、とても規模の大きな作戦を実行する場合に結成する場合が多く、滅多にないことだ。


「エリー。こういうのって可能なのか?」

「連合の代表者が所属するギルドのランクによっては可能です」

「そのセデルってやつは?」

「SSランクギルド『全世風靡』の構成員です。十分可能かと」

「なるほど」


 説明を聞いたホーラスの感想だが。


(『全世風靡』……どこかで聞いたことがあるような……まあいいか)


 ただ、職員も動揺している中、最初に動いたのは、ナーシャちゃんだった。


「何言ってるんですか!」

「あっ?」

「ここの人たちが何か悪いことをしたんですか! 勝手なことを言わないでください!」


 強い子である。


「ったく、ガキが調子に乗ってんじゃねえ!」

「ひっ……」

「最近は勇者コミュニティが調子に乗っててイライラしてんだ。女が調子に乗るなんざ百年はやいんだよ! ぶっ殺すぞっ!」

「うっ、ぐっ……うっ」


 ナーシャの顔が赤くなり……。


「うえええええええええええええええええええええんっ!」


 大粒の涙をボロボロとこぼした。


「ったく、ガキが大人の前で調子に乗ってんじゃ……」

「調子に乗る幼い子を許せない大人の器も、たかが知れてますよ」

「あっ?」


 男が振り向くと、そこには『めっちゃ怖い笑顔』をしたエリーが立っている。


「よーしよーし。もう怖くないぞー」

「うええええええええええん!」


 その一方。ホーラスはしゃがんで、ナーシャを優しく抱きしめて頭をポンポンと撫でている。


 慣れているが……いや、よくよく考えればホーラスも27で普通におっさんだ。経験によってはこれくらいできるだろう。


「なんだよお前。って、ずいぶん良い顔と体じゃねえ――」

「ふざけてるのなら痛い目にあわせてあげましょうか?」

「はっ? ……っ!」


 エリーの体から黒い威圧オーラがジワジワ溢れている。


 相手を威圧で押しつぶすというより、相手に恐怖を植え付けるような、そんなタイプだ。


「な、なんだよいったい……」


 男はジワジワと後ずさりして、カウンターに近づく。

 そして……ナーシャの対応をしている女性職員は、男の髪を『ガッ』と掴んで……。


「調子に乗んなよこのゴミがっ!」


 後頭部をカウンターに叩きつけた!


「があああっ!」


 突然の後頭部強打に悲鳴を上げる男。


「てめえ、ナーシャちゃんに怒鳴りやがって、連合だかなんだか知らねえが、あんまり調子に乗ってたらぶっ潰すからな! 本部じゃねえからって舐めてんじゃねえぞ!」


 カウンターに後頭部を叩きつけたままで、分厚いマニュアル冊子を持ってきて振り下ろし、額を直撃!


「いでええええっ!」

「ここは高ランクが寄りやすくてなあ。てめえみたいな調子に乗る冒険者も多いんだ。あんまり舐めたことしてるとすりつぶすから覚悟しておけ!」


 髪を持ち上げて、そのまま背中に右ストレート。


 明らかに受付嬢ではない威力とともに、男はエビ反りの状態で支部の外まで吹き飛んでいった。


「てめえらもさっさと出ていけ!」

「「「「ひいいいいいっ!」」」」


 五人組の内、四人も支部を出ていった。


 それを見ながらホーラスは思う。

 この国は王女がまだ十四歳で、国民がロリコン気味であるという情報は持っている。


 ただ、あまりにも教育に悪すぎる。

 ので、最初はナーシャの頭をなでて落ち着かせていたが、途中からは耳をふさいでいた。


 支部の空気が緩くなってきたあたりで、塞ぐのをやめる。


「よーしよーし、ナーシャちゃん。もう大丈夫だぞ。怖い人はいなくなったからなー」


 『怖い男』とは言わないホーラスであった。

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