第31話【SSギルドSIDE】 『全世風靡』
「何を言っている。俺は武器を調達してこいと言ったはずだ」
竜石国の高級宿の一つ、『サファイア館』
といっても、現状は『冒険者協会が管理している建物』であり、主に自国民ではなく、高ランク冒険者を泊まらせるために用意したもの。
そこで働いているスタッフも、冒険者協会から派遣されたスタッフで構成されている。
「そ、それが、店主が俺に武器を売らなかったんですよ! おかしいでしょう! アイヴァンさん!」
場所はサファイア館の中でも上等の部屋であり、そこでは豪華なソファに座った二十代後半の男が、傍に美女を侍らせて、部屋に来た男からの『報告』を聞いている。
ソファに腰かけていても高身長とわかるほどで、鍛え上げた肉体は引き締まっており、丁寧に切りそろえた黒髪と三白眼は、『強者』の風格を持っている。
「確かに、SSランクギルド『全世風靡』の俺たちに対して、武器を売らねえなんてのは、すべての冒険者に喧嘩を売ることに等しいか」
アイヴァンと呼ばれた男はそう言ってイライラしていたが……。
「しかも、生意気な女が客としてくるような店です!」
「生意気な女?」
「赤い髪のポニーテールにした上玉で、スミスハンマーを持ってました。俺のギルドに入れって言ったら、釣り合わねえってバカにしてきたんですよ!」
「……赤髪のポニーテールの上玉で、スミスハンマー?」
「そうです!」
アイヴァンはため息をついた。
「……セデル。俺はいつも言ってるはずだ。喧嘩を売る相手を間違えるな。間違えないために、常日頃から情報を集めておけと」
「喧嘩を売る相手を間違えるなって、あんな小さい店のどこが――」
「違う。その女のほうだ。明らかに、勇者コミュニティ最高の鍛冶師だろうに」
「はぁ? アイツが?」
セデルと呼ばれた報告に来ている男は呆れたような表情だが、アイヴァンの傍にいる美女は顔が硬直している。
「なら、なおさら俺たちのギルドに入るべきだ! このSSランクギルド『全世風靡』のほうが上なんだから、俺たちの顔を立てるのは当然でしょう!」
「なんで俺たちのほうが上なんだ? ラスター・レポートは魔王を倒したんだぞ」
「魔王が男性支配なんてスキルを持ってたから、俺たちが手柄を譲っただけです! 精神を防御できるアイテムさえあれば、この『全世風靡』が魔王を倒していたに決まってる!」
「……」
アイヴァンの表情はひどく冷めたものになっている。
「セデル。お前が何故、このギルドのマスターである俺の側近部隊に組み込まれてるか知っているか?」
「そんなの、俺が優秀だから――」
「説明したことなかったな。お前の実家の商会が俺に金を積んだからだ」
「え?」
「当たり前だろう。側近部隊の条件は『Aランク以上』だ。本来Bランクであるお前は入れない」
「え、え、Aランク以上だけ?」
「ああ。今はお前以外は全員がSランクだ」
「嘘っ!」
「当時は金が必要だった。しかもその金が何のために必要だったと思う? お前が絡んだその女が、コミュニティで使えない失敗作を、そんじょそこらの商会に投げ売ったからだ。オークションで競り落とすために金が必要だった」
「な、あんな女の……」
「そしてその剣は、俺が普段使ってるやつだ」
「えっ」
「俺はあの剣を手に入れて、SランクからSSランクに昇格した」
魔王と遭遇すればどんな男であっても魔王に魅了されてしまう。
それはホーラスであろうと変わらない。
だが、遭遇さえしなければ、男冒険者であっても活動は可能だ。
魔王がいる領域に近かったとしても、偵察や見張りができる女性を鍛え上げることで対処したり、そもそも魔王がいる領域から遠く離れた場所で活動したりと、『無策』ではない。
そのため、男性支配の魔王がいる世の中であっても、強い男性は、良い武器を常に求めていた。
「この『差』がわかるか? お前が無知でもバカでも構わないが、ギルドに迷惑かけたら追放確定だから覚悟しておけ」
「お、俺は……」
「まだ俺の側近部隊には置いておく。が、しばらく頭を冷やせ」
「く、クソっ、クソオオオオオオオッ!」
セデルは叫びながら部屋を飛び出していった。
「ギルドマスター。どうしますか?」
女性がアイヴァンに聞いた。
艶のある長い金髪が揺れたが……表情のほうは硬い。
「そうだな……レオナ。この町に来ているギルドメンバーで、セデルに同調しそうなやつはどれくらいだ?」
「50人はいるかと」
「このギルド潰れるんじゃないか? 俺たち、勇者コミュニティに借金があるんだが……」
「少し前に、あの『悪魔』との交渉が終わったばかり。ここで勇者コミュニティに迷惑をかければ、催促される可能性もあります。すでに、この都市にあの『悪魔』が来ているという話です」
ラスター・レポートにおいて商人長を務めているエリーだが、他のギルドからは悪魔呼ばわりされているようだ。
「まったく、この町にディードさんがいるって噂があったから来たのに、入れ違いのようだな。運がない」
アイヴァンは頭をガリガリとかきながら、どうしたものかと唸っている。
「そういや、セデルは他の高ランクギルドともコネがあると……」
「付き合いはその中でもゴロツキでしょう」
「そうか……うまく勇者コミュニティを利用して、排除できないか? ちょっと前、勇者に調子に乗ったバカな貴族の多くが捕縛された話があるだろう。あんな感じで」
「上手くいけば排除できますが、一歩間違えればこのギルドが潰れます。お勧めはできません。しかも、ギルドとして要らない部分を排除できても、『裏』で何処と繋がっているか見当もつかない者もいます」
「……聞こえの良い言葉につられたとかそんな感じか。アイツは全く……」
天井を仰いだ。
「はぁ、レオナ。幹部で集まって対策を考えておけ」
「はい」
次の瞬間、レオナは消えたようにその場からいなくなった。
気配がなくなってから、アイヴァンはソファから立ち上がると、窓に向かって歩く。
町を見下ろして……
「ホーラス。俺たちが同じ町にいるのも十年ぶりだ。ただ、いい再会はできそうにないな」
アイヴァンは目を細めた。
『おねがいじまず。おねがいじまず。おれに、剣を、おじえでぐだざい』
彼の脳裏には、絶対に忘れられない『懇願』が、今も残っている。
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