第26話 ホーラスVS霊天竜ガイ・ギガント 3(決着)
一方的な蹂躙だ。
ガイ・ギガントがブレスを放てば空気に上書きされ、爪や尻尾をふるえば装甲にはじかれる。
しかし、ホーラスが剣をふるえば鱗を切り裂き、銃弾を放てば硬い体を貫通する。
しかもそれが、短距離の高速移動を可能にするガイ・ギガントであっても避けられない……いや、反射神経をはるかに上回る速度で襲い掛かる。
要するに……『格が違う』のだ。
「ふーむ。あの『オマケ』を組み込んで強化したが、なかなかの性能だ。とはいえ……『骨ゴーレム』の性能を『演算力』に極振り……いや、少しリミッターを外して、『キューブ』の力を『範囲拡張』から『演算拡張』に振っておかないと使えない」
使っている剣と銃を見ながら、ホーラスはつぶやく。
「魔力の安定化が済んでない状態で使ってるからなぁ。とはいえ、『ほぼ全力』といって差し支えない。『本気』とは全然言えないけど」
そういって、剣と銃を構えなおしている。
……彼の言葉をそのままくみ取れば、現在、彼は骨ゴーレムの力を『演算力』に極振りしており、『安定化』には使っていない。
その上で、キューブ……彼が使っている一辺3センチの立方体のことだろうが、そちらも『演算』のために使っている。
ホーラスのゴーレム操作の射程は半径3メートルだが、おそらくこの数字は、キューブが持つ『範囲拡張』の性能込みのものであり、ホーラス単体での操作範囲はもっと狭いということなのだろう。
装甲を展開する前は、『急速に魔力を安定させる』ことを目的としていたはず。
キューブが持つ『演算拡張』だが、骨ゴーレムが行っていた安定化を補助するために使っていたのだろう。
要するに、この装甲を展開する前と今では、『ホーラスの体がどれほど戦闘に最適化されているのか』に根本的な差があるということだ。
「さてと、あんまり長引かせる意味もないか」
剣と銃をアイテムボックスに格納すると、別の剣を取り出す。
拵えが未来を感じさせる機械的な物であることに変わりはない。
ただし、片刃の両手剣だ。
ホーラスはそれを、真横に一閃。
三日月のような形をした魔力の塊が放出され、ガイ・ギガントに向かう。
それに対して、尻尾で防御を試みるが……一撃で切断された。
「!?」
「そんなんじゃ防げんよ」
剣から莫大な魔力があふれ出す。
ただ……それはよく見ると、一つ一つが小さな魔法陣だ。
「……」
「もう言葉も出ないか? 気持ちはわかるが……ん?」
ガイ・ギガントの口に魔力が集まる。
それは、これまでとは比べ物にならないほど濃密な圧力を放っている。
それはおろか、全身にあふれている紫色の魔力が、全て口に集まっている。
「全身全霊……ね」
先に攻撃を放ったのは、ガイ・ギガント。
放つだけで周囲の空気を震わせるほどのブレスを放つ。
「格の違いがなければよかったのにな。それが学問を持たない竜の限界だ」
ブレスがホーラスにあたる直前、剣を振り上げる。
再び飛ぶ斬撃が放たれ、ブレスを空気に上書きしながらガイ・ギガントに向かう。
全身全霊、要するに、来ると分かっていても、逃げることすらできない。
斬撃はガイ・ギガントの体を豆腐のように両断し、そのまま上に向かう。
曇天にあたると、周囲に存在する雲を全て弾き飛ばし、快晴が広がった。
「ふーむ……」
ガイ・ギガントの体が大量の金貨と一つのインゴットを残して塵となって消えていく。
「金貨……1万枚ってところか。ガイ・ギガントの魔力を攻撃で狂わせて、金貨に割り振られるリソースの大部分をドロップアイテムに変換したし、そんなもんだよなぁ」
ホーラスは左腰に接続したキューブを取り外して『機械仕掛けの神』を格納すると、インゴットに近づいて拾い上げる。
「この質……やっぱり最善から四番目ってところだな。まあ仕方がない」
インゴットを上着の裏に突っ込んで、ホーラスは王都に歩いていった。
★
ホーラスが装甲を展開してからあっさり終わった戦いだが、王都にいた人間たちは、王都を取り囲む壁の上や高い建物の窓から、ホーラスとガイ・ギガントの戦いを見ていた。
彼らは世界会議の本部から『出現した霊天竜ガイ・ギガントは勇者の師匠が倒すので、避難することだけ考えよ』という命令を受け取っており……まあ避難できているかどうかはあえて『微妙』と表現するとして、ホーラスの強さを見た。
最初は『対等か、少し下』だと思っていた。
ガイ・ギガントが全力になって最初のブレスを王都に向けたとき、彼らは一度、狂乱状態になった。
しかし、ホーラスが装甲を展開してからは、あまりにも一方的。
これが、『勇者の師匠』
魔王を討伐し、世界を救った勇者を鍛え上げた、『勇者の師匠』なのだと。
全員に理解させるのに、そう時間はかからなかった。
そして、『このホーラスが、十年も城の雑用係と事務で勤務していた』という事実。
魔王によって避難を余儀なくされた『弱者の立場』を利用して調子に乗ったり、同じ平民だからと一日に何百件もクレームをつけていた王都庶民たちの、背筋を凍らせる話もまた広まりつつ。
おおむね、事態は収束したといっていいだろう。
なお、今回の戦いでホーラスが得た1万枚の金貨だが、それらは今回壊れた物の修復に使ってほしいと、『1万枚すべてを置いていった』ので、近い間に、今回の一件で傷ついた王都は修復されるはず。
こうして、『勇者』を認められない器の小さい貴族たちの最後っ屁は、死傷者はゼロ(ディードは話を大きくしてほしくないので黙っている様子、ガイ・ギガント復活の生贄になった魔術師達は闇に葬られた)であり、多少、建物が壊された程度で済むという、あっけない物となった。
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