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第241話 ドラブレム王国

「なぁアイヴァン」

「なんだ?」

「SSランクギルドが拠点を置く国家が、常任理事国になるかどうかを保留にされる。これについてどう思う?」


 カオストン竜石国の首都、宝都ラピスは、小国の中心部ではあるが発展している。


 キンセカイ大鉱脈という金属が産出するダンジョンを有しており、それを『血統国家』の特権として独占権を持っているため、質の高いものが提供できるためだ。


 それゆえに、夜は明かりの魔道具がいたるところまで行き届いており、夜でも明るい。


 辺境に行けば目利きの良い人間が好む酒場もあったりするもので、ホーラスとアイヴァンはそこで話している。


 個室も用意してもらって、テーブルに置かれているのは、安いチーズと高いワインだ。

 アイヴァンが好んでいる組み合わせである。


「……わざわざ、ワインとチーズを用意して誘ってきたと思えば、そんなことを聞くためか」

「ああ。新人の兵士を相手に、ガルボロスが負けたって話もあるからな。ちょっと気になった」

「ガルボロスが負けたのは俺も聞いたが……同時に、戦っているときは顔が真っ青だったらしいが」

「何を食ったらアイツの腹の調子が悪くなるんだ? いろんな毒に対して抗体とか体の中に作ってそうだが」

「部下がそれとなく聞いたときは『沽券にかかわるから言えない』と言われたそうだ」

「……そうかよ」


 ホーラスはため息をついた。


「で、ガルボロスが船長を務めるイツツボシ海賊団は冒険者ではないが、冒険者基準でいえばSSランクだ。これによって、海洋国アビスタルは常任理事国になっていると過言ではない。それを考慮して、全世風靡やラスタ・レポートがあるこの国が『保留』になってるのが気になるのか」

「まぁそうなるか」

「ふむ……」


 アイヴァンは少し考えている様子。


「常任理事国のことについては、むしろ、ディアマンテ王国の王城で十年も働いていたお前の方がよく知ってるんじゃないか?」

「そんな些事に気をとられるような余裕はなかったよ」


 些事に気をとられる余裕はない。

 アイヴァンとしては、まず、避難民がなだれ込む王都という場所をなんとか維持するという時点で異常ではある。

 加えて、男性に対して強制的に支配する魔王を倒すため、世界中を飛び回って、素質のある少女たちを集めていた。

 加えて、『災冥竜テラ・ディザス』に『魔力の安定化技術』のプレゼンができなければ、ホーラス自身の目的を達成できない。


 様々な要因はあるが、いずれにせよ、『常任理事国』という称号が『些事』に思うのは、ある意味、当然なのだろう。


「……というか、今のディアマンテ王国は、騎士団長カインと副団長アベルの双子が戦闘面でトップとなっているが、ホーラスがいた時代はどうだったんだ?」

「上の方に関しては、エリートと言えば肩書は良いんだが、現場に出ることなんてほとんどないからな。末端の兵士の方が筋力は優れてただろうな」

「筋力は、か……流石に、四百年も歴史があれば、貴族たちの魔法の才能は、血が裏付けるようだな」

「まぁ、魔力量だけ見れば、凄い奴も多かったし、魔法は雑に使っても強い」

「固定砲台としてはそこそこだが、騎士団を名乗るには格が足らんな。まぁ、理解した」


 騎士団長カインと副団長アベル。


 確かな実力を持つ双子であり、紛れもなく美男子だ。

 ディアマンテ王国の辺境の村にいたが、今では騎士団でトップであり、中の雰囲気も変わっていくだろう。


「……常任理事国関係の話題でいうと、魔王イブは、常任理事国を自ら襲うことはなかったな。自分たちの陣地から近いところを順番に占領していたが、ホーラスはどう思う?」

「……さぁ? 魔王にとっても、別に、興味はなかったって話だろ」

「……なんというか、強者にとって、そこまで興味のないものなのか?」

「いやぁ……アイヴァンも実感してると思うが、『社会』ってのは『相対評価』だろ? 誰よりも上なのか、誰よりも下なのか。そういうものだが、俺達みたいなのは、『普通の人間の限界値よりも上』という『絶対評価』の話だからな」

「……」


 ホーラスやアイヴァンのような、魔力の扱いに長け『過ぎた』存在というのは、紛れもなく『普通の人間を超えた』という『絶対評価』が下される。

 人の社会においては百点満点のテストに対して、明らかにそれをはるかに超えた点数をたたき出す。

 そういう存在なのだ。


 加えて、モンスターを倒したら硬貨が出てきて、魔道具の燃料に使えるゆえに価値が保証されるため、それがより『強者の絶対性』を保証している。


「ふむ、今回、確か『ドラブレム王国』だったか? 新人がガルボロスに勝ったそうだが、いずれにせよ、『ピム・フクタム』という元首が相当な強さなのは間違いない。そんな存在が『社会』の最高峰である『国』を興したというのは、少し引っかかる」

「うーん……」


 アイヴァンの勘にホーラスは唸った。


「絶対的な存在である竜が、相対的な存在である社会を使う。そこには、何らかの思惑があるのは間違いない。ただ……」

「ただ?」

「新人の兵士がガルボロスに勝ったと考えるなら、これは、ピム・フクタム自身が何らかの恩恵を与えていると考えていい。普通に鍛えていては物理的に無理な話だ」

「だろうな」

「そんな存在の本体と考えるなら、相当な強さのはず。そして、調べてみれば、国力に関して言えば、カオストン竜石国よりも明確に上だ」

「ああ、そういう基準もあるのか」

「最初の話に戻るが、全世風靡やラスター・レポートを抱え、『戦力の最高値』が高いのがカオストン竜石国だとするなら、確かなトップの実力と、そこからもたらされる恩恵で確かな国力があるのがドラブレム王国だ」

「客観的に見れば、どちらにするべきか迷う部分があるのは理解した。政治的な戦いはありそうだが」

「まぁ、あるだろうな」


 利権がある都合上、何か政治的な思惑は発生するだろう。


 判断材料が少ない以上、『ドラブレム王国』も十分すさまじい国であるということくらいしかわからない。


 今は、その程度である。

Well, if we're talking about strength, then yeah—no doubt about it, they're strong.

(まぁ、強さの話をするなら、明確に強いよ)

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