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第229話 ディアマンテ王国のとある伝説

「はぁ、はぁ……なんなんですかね。自由ですよみんな本当に」

「ご苦労だったな」


 アベルは頑張った。


 ランジェアとガルボロスに配信魔道具を渡して、工作員を回収。

 で、会場の傍に戻ってきたら、剣里眼カイン、絶壁リヴェル、百天刃ザカリアが、『億罪竜(おくざいりゅう)ザビ・リエネア』に挑みに行ったという報告を部下から聞いて、直行して魔道具を渡す。


 で、急いでまた戻ってきたら、深淵樹ヴァンデ、無双剣トコヒメ、楽水錬シドが、『巨骸竜(きょがいりゅう)ギガ・ボーネグ』に挑みに行ったというので、『またそのパターンかよ』とツッコミを入れて、すぐに向かって配信魔道具を渡す。


 そのまま、ディアマンテ王国の国王、バルゼイルがいるところまでやってきて報告という流れである。


 誰もが異次元の移動速度を持っていることもあり、『どうせ間に合うんだから待っててくれてもいいじゃん』と思わなくもない。


 特に、ヴァンデ、トコヒメ、シドの三人は敗退者の中でも年長組が集まっているため、それくらいの余裕があってもいいと思うのだが、そんな思いは通じなかった。


「しかも、兄さんに至っては、『アベルが髪を整えてキリっとしてたら僕と同じになるから変わってくれると嬉しいな』って言ってきましたよ」

「それに対してはどうしたのだ?」

「そんなのボディーブローに決まってますよ」

「そうか。まあ、普段から人付き合いを兄に押し付けているからだろうな。そこはどう思うのだ?」

「それはそれ、これはこれです」

「……そうか」


 バルゼイルに兄弟はいないので、双子の考えというのはよくわからない。


 ただ、とりあえず、ダラッとするカインの尻を叩いてきたのは間違いない。


「……で、あれが……」

「ああ、『霊竜神ウロ・アダマス』だ」


 灰色の巨体に加えて、いたるところに、ダイヤモンドを思わせる鉱石が埋め込まれている。


 そんな存在が、会場の中央で威圧感を放っている。


 四人に関しては、『どう戦ったものかな』といった雰囲気だ。


 勝てる勝てないというよりは、ここが『イベント』であり、観客が多い場所だからだろう。


 別に今後の評価など一切気にしない連中ではあるが、だからと言って好き勝手にやって誤射で退場したくはない。


 そんなところか。


「それに対するは、土未来ホーラス、廃魂歌アイヴァン。斬鉄スメラギ、聖騎士マサミツですか……」

「ああ。一つ聞いておくが、アベルは、あの四人が『世界四強』だと思うか?」

「いやぁ……怪しいですね。四人も、ウロ・アダマスも男ですし、そうしたら『魔王』にはかないませんから」

「……確かに、そういう見方もあるか」

「特殊な状況を考えず、剣を振るのが早いとか、魔法が強いとか、そういう『基礎』の部分で語るとしても、上から四人とはならないでしょうね」

「心当たりはあるのか?」

「いえ……ただ、仮に来たとしても、ビスマス連邦が頑張って用意したのが『このレベル』なら、その実力を発揮するほどではないかと」

「そうか……」


 バルゼイルの表情が、少し、残念そうなものに変わった。


「……何か?」

「いや、今回出現したドラゴンたちは、いずれも……ディアマンテ王国の建国に関わったとされる」

「建国に……」

「そんな存在が『力不足』というのは、少しな」

「なんだ。そんなことですか」

「遠慮とかないのかお前は」

「別に……というより、あまり気にしても仕方がないでしょう。建国当時に決めた何かにこだわって、環境に適応できずにつぶれていくなんて、よくある話です」


 四百年前に存在した伝説と、そこから始まった王国の歴史。


 始祖が何を考えていたのかはともかく、ディアマンテ王国は現在、『世界最大』の国家となった。


 国が大きくなれば、何に開き直ればいいのかが大きく変わってくる。


 それに対応できないのは、本末転倒だ。


「そうだな」

「もちろん、凄いことが過去にあったのだということはわかりますよ。あの霊竜神を倒したというのなら、それは紛れもなく凄いことです。まあ、今回は相手が悪かったということで」

「……」

「あと……騎士団の副団長になってそこそこ経ちますが、今回出てきた四体の竜の話なんてほぼ聞きませんし、それらの伝説の痕跡なんてどこにも残ってませんよ? それで気にしろと言われても無理ですよ」

「そうだな。確かに、私も王都でそれにかかわるモニュメントを見たことがない」

「そんなものですよ」


 バルゼイルなりに思うことがあるように、アベルにはアベルの思想がある。


 彼としては、『本気で残そうと思ってない物への関心を他人に求めるな』といったところか。


「ただ……今回の戦いであの四人があの竜をたやすく蹂躙したとしても、建国伝説を馬鹿にするようなこともありませんよ」

「だろうな。六十五層のモンスターなら威圧で抑えられる私でも、あのドラゴンの相手は無理だ。過去に、本当にすごい戦いがあったのだと、そう思えただけ良しとしよう」


 わかるのだ。


 目の前のドラゴンを人間が相手するとなれば、本当に苦労する相手であるということが。


 だからこそ、バカにはしない。


 しかし、空しいと思うのは、バルゼイルなりに、自らの血に誇りがあるからだろう。

Well, this is an event venue. It won't end in a second.

(まあ、ここはイベント会場だ。秒で終わったりはしないよ)

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