第202話 会場へ。鉄の箱で爆走中
「おおっ、これは速い」
ラスター・レポートが所有する移動ゴーレム。
大型のタイヤ四つで鉄の箱が爆走するのは、やはり時代……いや、世界錯誤ともいえるか。
いずれにせよ、とても便利である。
そんな便利な鉄の箱で、スメラギは楽しそうに外を見ている。
「こ、こんなゴーレムを作れるなんて、一体どういう技術力してんのよ」
「勇者が使っていたそうだが、そこからも改良されているな。まあ、これくらいは当然だろう」
リヴェルとアイヴァンも外を見ているが……こちらはどちらかというと呆れの方が強そうだ。
アイヴァンも当然と言っているが、内心では呆れていることだろう。
「シーナチカ教会の神殿に行った時よりも速いですね」
「まあ、いろんな素材を扱えるようになったからな」
新聞を読んでいるホーラスに、ランジェアが話しかけている。
「何がどうなると、そこまで広がって……」
「シド達から貰った『誰もいない実験室』だけど、これは端的に言えば『水属性錬金術』だ。その力を研究したら、水属性に対して強い力がある鉱石も使えるようになった」
「ほう……」
「ディアマンテ王国で勤務してた時代、何かのゴーレムを研究するとなれば、アンテナの規格に合わせた『鉄製ゴーレム』だったからな。技術がそっちに寄ってたんだが、最近はそれに囚われないからな」
「その水属性錬金術を応用して、この車は速くなったんですね」
「そういうことだ」
ホーラスは頷いた。
と思っていたら、窓の傍に居たスメラギが戻ってきて、冷蔵庫を開ける。
「んー……お」
わらび餅を発見して笑顔になるスメラギ。
そのまま取って食べている。
「うん。おいしい」
「実家か!」
リヴェルからツッコミが飛んできた。
「あはは、まあ、こんな人数でこんなデカい鉄の箱を使ってるんだ。まったりのんびりできるのは確かだろう?」
「それはそうだけど、いくらなんでも限度がある!」
そう、人数は少ない。
ホーラス、ランジェア、アイヴァン、リヴェル、スメラギ。
たったの五人だ。
「とはいえ、『血闘杯』に参加するメンバーは先に集合しておく必要があるし、そうなるとこのメンバーになるからねぇ。限度があると言われても、まあこうなるのは分かりきってたことでしょ?」
「……はぁ、まあ、それでいいわ」
リヴェルは溜息をついて、自分も冷蔵庫からわらび餅を取り出して食べている。
美味しかったのか、うれしそうな笑みを浮かべた。
「……実家か?」
「それでいい。といったのはアタシよ!」
「なんだそれは……」
アイヴァンも冷蔵庫に近づいて、中を見る。
「……わらび餅なくなってるぞ」
「私が食べたのが最後の皿だったから!」
「はぁ……」
冷蔵庫からまんじゅうを取り出して食べ始めた。
「……お前ら、どうした?」
「いやぁ、敷地に和菓子エリアがあっただろ?」
「あったな」
木造平屋で、本当に和菓子だけ作って、食べに来た人に渡すようなところだ。
長椅子などの食べる場所も木造であり、それっぽい雰囲気の場所である。
「美味しかったからな。なんかハマった」
「あっそう……」
「まあ、確かにあの子が作る和菓子はコミュニティでも人気ですね。身内に作るだけで販売はしませんが」
「へぇ……」
「ナツメだろ? 俺は転生者って聞いたけどな」
「て、転生者!?」
「ああ」
「あの、異世界からやってきたっていう……」
「ナツメは工房組のナンバーツーだが……正直、あの集団の中でそのレベルに達するとなれば、それ相応の『発想力』が必要になる。まあ、転生者なら納得だ。和菓子作りが得意なのは、前世で何かやってたんだろう」
「ほう……異世界ねぇ。そのあたりの文献って、時々残ってたりするけど、ホーラスはたくさん持ってるの?」
「魔王がいた時代、本当に色々なところを飛び回ったからな。滅んだ国の小さな廃村にも言ったことがある。ゴーレムで生き残りが居ないか探してたら、そういうのもよく見つけるさ」
「めっちゃ大規模!」
ホーラスの活動可能範囲は驚異的だ。
時速三千キロメートルで移動できる飛行ゴーレムがあるので、それは速すぎる。
それを駆使すれば文字通り、何処にでも行ける。
そんな中、見つけたもの、気付いたものは多いだろう。
「異世界人かぁ。まあ、私が見る限り、ラスター・レポートにはチラホラいるね。明かしている人、いない人含めて」
「そうなの?」
スメラギは斬鉄神。
五大神の一角であり、言い換えればルール側の人間だ。
普段はボーっとしているだけでそこまでルール側と言う印象はないが、それでも、彼の知識は歴史の塊である。
彼が過ごしたのは二千年。
多くのことを知っていても不思議はない。
「そうだよ。ただ、だからと言って、彼女たちの行動は変わらないだろう。過去はどうあれ、今は変わらない」
「まあ、それはそうね……ていうか、異世界人基準で、この鉄の箱ってどう思うのかしら?」
「十トンを運ぶトラックだって、時速百キロくらいは出せるでしょ。そう考えれば、まあそんなものかと思うだろうけどね」
「へぇ」
「まあ、私が知る異世界に、魔法は存在しないんだけど」
「どうやって走ってんの!?」
「電気だったかな。まあ逆にあちら側がこの車を見たら、『ガスを一切出さずに走ってる』ってことで大騒ぎだろうけどね」
「……?」
ランジェアは首を傾げた。
どうやら、そういう、『世界ギャップ』には興味がもともとないらしい。
説明されて分かるかどうかは、別として。
There's no driver to begin with. That's probably what will surprise everyone.
(そもそも運転手がいないよ。驚かれるのはそこじゃないかな)




