第20話 会見
世界会議を開く。としたが、その実態は、『多くの国を遠慮なく巻き込むため』だ。
自分たちに難癖をつけたいと考えているものを全員呼べ。
会見の場に集められた者たちは、『勇者を前にする』という状況に立ち、一瞬、怯んだのは間違いないだろう。
しかし、彼らは、民ではなく、『家』を愛しているがゆえに、そして、常に顔色を窺っているがゆえに、『ここにいるのは味方だ』と判断するのは早かった。
アシュトン・レクオテニデスの暴挙を徹底非難し、その上で、『勇者を舐めすぎている』というランジェアの主張から始まった会見。
『何か言いたいことがあるのなら、言ってみなさい』と……それから、十分は経過しただろうか。
「魔王を討伐したからと言って調子に乗るな! 我々は貴様らの功績は確かに認めた。だが、権威まで認めたつもりはないぞ!」
「貴様らは平民! そもそも、貴族のために尽くすことが当然のことなのだ! 世界を救う力を手に入れたのなら、それをもとに貴族と蜜月の関係を築くべきだろう!」
「魔王討伐後のこともそうだ! 世の中に貴族があるからこそ、世界は魔王の侵略から耐え忍ぶことができていた! 勇者だけで世界を救ったなど、思い上がりも甚だしい!」
「ゴーレムマスターが師匠だと? ふざけるな! あんな泥人形で遊ぶような奴らが、平民を鍛え上げただけで魔王を討伐できるか!」
「そうだそうだ! 何か裏があったに違いない! 不正だ! これは正しく処罰されなければならない不正だ! 洗いざらい話してもらおうか!」
「加えて、勇者は勘違いしている。魔王討伐の旅で得た財貨を全て世界会議に、そして貴族に献上することで、貴様らは世界に認められるのだ!」
「それで借金を作らせておいて、『世界を救った』など、自己矛盾もいい加減にしろ! 外見はいいようだが、中身は醜悪のようだな!」
出るわ出るわ、勇者ランジェアと勇者コミュニティ、そして彼女らの師匠であるホーラスへの罵詈雑言。
……さすがに世界会議の施設に設けられた会見の場で、『勇者が魔王と討伐したという事実』そのものを認めないという発言はできない。
勇者の行動に納得がいかないからと言って、『実は魔王は討伐されていないのではないか』というところまではいかない。
魔王討伐は世界会議そのものが認めたことであり、彼らは貴族だ。『王』が決めたことに、公の場で真っ向から否定することはできない。
とはいえ、非難のセリフなどというのは、普段から他人の揚げ足取りをしている人間からすれば、いくらでもあるのだろう。
ランジェアが何も言い返さないのをいいことに、次々と口を開く。
何も言わない……いや、あまりにも怒涛の言葉の濁流が降ってくるゆえに、話すタイミングすらないというのが正しいだろう。
「その上で、カオストン竜石国に身を置くなど、あるまじき行為だ! コミュニティのトップである勇者は、世界最大であるディアマンテ王国の王太子と婚約すべきだ!」
「そうだ! 幹部の連中も、世の中の大国の王子たちと関係を結ぶことは義務だ!」
「勇者の師匠という男も、これから世界に何が起こるかわからないというのに、何故勇者と一緒に竜石国に身を置いた! その知識と技術を世界に捧げ、教鞭をとり、世の中を導いていくべきだろう!」
「何を成すべきなのかが全くわかっていない。だから貴様ら平民は愚かなのだ!」
やってきたことの非難を並べた後は、魔王討伐後の身の置き方。
というより……勇者コミュニティと、ホーラスの『未来』のことだ。
ここに集まっている貴族たちは、『平民の自由と未来を奪う権利を持っている』と無意識に思っている。
権威主義……いや、貴族主義と選民思想の典型的な悪性。
貴族の言うことは平民にとっては正しい事であり、それが絶対的不可侵を持ち、妨げられることはあってならない。
世界会議は『神からの自立』を唱えた国家の集まりだが、自分が神にでもなったつもりか。
矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、そして自らにとって都合のいい方向へ誘導する『記者』とは違う。
最初から『貴族である私たちに全てをささげろ』という、全ての『道理』を無視し、『無理』を通すかのようなもの。
(……そろそろいいでしょう)
そう、ランジェアは内心でつぶやく。
確かに、今回ランジェアは、『難癖をつけたいやつを全員呼べ』といった。
そうなれば、このような状況になるのは火を見るよりも明らかだろう。
それはそうだ。
ランジェアは彼らに対し、ゆっくりを手のひらを見せて……
『お静かに』
ピタッ――と。
ランジェアが発した一言で、貴族は全員。黙った。
それは疎か……そう、強引に言葉をつけるなら、『いきなり極寒の大地に放り込まれ、誰も助けは来ない』と理解させられたような、そんな全身が震えるほどの圧力を、彼らは感じている。
『勝手に盛り上がりすぎだ。勇者の屋敷を包囲し、我々の体が貴様らの性欲を満たすためのおもちゃに過ぎないと、レクオテニデス公爵家の当主が主張した。それに対し、思うところはあるかと諸君に聞いて、結果はこの有様。魔王討伐を達成した勇者に対し、世界会議が、謝罪する気がないと主張しているに等しい』
……誰かが、息をのんだ。
『貴様らがどんな主義を掲げようと構わないし、その主義の善悪を問うつもりもない。そんなのは時間の無駄だ。だが、あまりにも、魔王討伐において何もできなかったものが多すぎるというのに、我々に対し、何もかも勘違いしている』
集まった全員を眼光だけで黙らせ、押さえつけ、一方的に『わからせる』という所業。
彼らは後悔しているだろう。
なぜ逆らったのか。
なぜ調子に乗ったのか。
なぜ、何故、ナゼ……。
『師匠は私に、実力を与えてくれた。魔王を討伐することができた。お前たちに何ができた? 何もできなかったものが、何かを成したものを批判するな。邪魔しない距離で我々から何かを見て真似て、何かを見出すというのならともかく、その在り方を否定し、自らのものになれと、そんな恐ろしいものを何も知らない、無知な血脈が調子に乗るなよ』
ランジェアは言葉を続ける。
『まったく、お前たちには――』
……その時、奥の扉が開いた。
「世界に対し、愛想をつかすのは待ってくれんか?」
『……誰だお前は』
「体格も雰囲気も変わりすぎてわからぬかな? バルゼイル・ディアマンテだ。あの『式』の日以来だな。勇者ランジェアよ」
まだ、『ランジェアの威圧は続いている』。
だがその中で、バルゼイルは王として、貴族全員が跪く『魔境』の中で、まっすぐ歩いていた。
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