第144話 竜封院最強の剣士、レーティス
カオストン竜石国四大ダンジョンの一つ、『天の怒り』
モンスターでも罠でもなく、『天候』を攻略しなければ奥に進めないという、とにかく『厄介』を極めたような構成。
ただし、その最奥に眠るのが『封印神シルドレス』へとつながるアイテムであると考えると、納得せざるを得ない話。
この世のシステムを定めるたった五つの存在。
その一つに挑めると考えれば、むしろ安いだろう。
世界に存在するダンジョンは全て百層構造であり、奥に行けば行くほど難易度が上がるものになっており、『最初から鬼畜』ということはありえない。
しかし、ダンジョンごとの特性によって『厄介』なものは存在する。
天候という、人の身ではどうしようもない存在は、難易度を上げるのに丁度いい。
「師匠! 竜封院から来たって人が玄関にいますよ!」
シンディが笑顔で勇者屋敷のロビーに入る。
その先でホーラスは新聞を読んでいたが、シンディの報告を聞いて苦い表情になった。
「……どうしたんですか?」
「いや……まあ、なんていうんだろう。めんどくさいやつほど正面からやってくるんだなぁ。と思ってな」
ホーラスは溜息をついた。
災冥竜テラ・ディザスが絡んでいた時のロバートのことでも思い出しているのだろう。
あの時は、ホーラスが持っているガイ・ギガントとゼツ・ハルコンの『残香個体』の力を求めていたが、今回はどうだろうか。
彼としても想定できる部分はあるが、相手がそれ以上なのかそれ以下なのか、それもわからない。
「……さて、どうなるのやら」
ホーラスは玄関に行って扉を開けた。
「遅いぞ! この俺が来たからには即座に来い!」
こちらを見下した……といっても、ホーラスの方が身長が高い(183センチ)ので見上げているが、そんな雰囲気の男がいた。
年齢は十八歳。身長は170センチ後半といったもので、腰には剣を装備している。
金髪と青い瞳を持つ端正な顔立ちで、見下したような表情さえ作らなければ、無表情でもモテることだろう。
マントには交差する鎖が付けられた竜の頭の紋章が記されており、竜封院の制服だ。
「……どちら様?」
「貴様が竜封院の情報をある程度掴んでいると聞いていたが、どうやら間違いだったようだな! 俺はレーティス。竜封院最強の剣士だ!」
「竜封院最強?」
ホーラスは自分の観察力を上げた。
……いや、こういうものは意識したからと言って上がるものではないが、彼の場合は目や耳までゴーレム化させているので、この表現で間違いはない。
そして、彼目線では……。
「剣士としてみれば、確かに見てきた中で相当な実力だな」
「ほう、この俺の実力を見抜けるとは……」
「ただ、他が杜撰だな」
「はっ? ……ふざけるな!」
沸点が低いようで、レーティスは剣の柄に手をかけ……たところで、彼の顔の前にホーラスの手が迫っていた。
彼の掌には小さい……直径一センチ程度の光の玉が出現。
――ビカッ!
「うああああっ!」
強烈な光が目に当てられて悶絶しているレーティス。
「過剰な光を遮断する魔法くらい使っておけよ」
「ぐうっ!」
「ところで回復魔法は使えないのか? その程度ならすぐに治せるだろ」
「うるさい! ひ、卑怯だぞ。いきなり攻撃しやがって!」
「先に剣の柄に手を掛けたのはそっちだろうに」
「俺のやることは正しいんだ! 忘れていないだろうな。貴様はモンスターだ! この場で切り捨ててもいいんだぞ!」
「ロバートも同じことを言ってきたな。最近あんまり言われないんだよなぁ。竜封院だとそういうのが気になるのかね?」
ホーラスは溜息をついた。
「馬鹿にしやがって、さっさとあの欠片をよこせ!」
「やっぱり目的はそれか」
封印神シルドレスがいる場所に入るための欠片。
三つ集めてキンセカイ大鉱脈の奥に行くことができれば、実際に封印神シルドレスにあうことが可能。
そういうアイテムであり、そもそも竜封院はシルドレスの力の一端を使っている組織だ。
実際にあって自分たちの封印の力を強化してもらおうということなのだろう。
「……ほう、ならば貴様は、あの欠片が何を意味しているのか知っているようだな」
「まあな」
「なら話は早い! 封印神シルドレスに会うことができる欠片。あれはシルドレスの力を使っている俺たちにふさわしいものだ! 俺たちは、あの欠片を使ってシルドレスに会い、さらなる力を奪うことで頂点に立つ!」
「竜封院の中でどれくらいのメンバーがそんなことを考えているのかわからんが、渡すと思ってるのか?」
「貴様が持っていたとしても何の意味もない! 早く寄越せと言っている!」
「……」
ホーラスは呆れた様子で見ていたが、一瞬、本気で威圧した。
「っ!」
顔を真っ青にして、腰が引けたレーティス。
「……はぁ、俺はこれから、竜石国の四大ダンジョン、『天の怒り』に入る。俺から奪いたければ追ってくるんだな」
「ぐっ、お、覚えてろ! この屈辱は忘れんぞ!」
レーティスは引けた腰で無理矢理立つと、そのまま去っていった。
「……どうしてあんなのばっかりなのやら、ロバートの時も思ったが、傲慢にふるまう使者も謎だが、人事の方はもっと謎だな」
そんなことを言って、ホーラスは屋敷に入っていった。
Every organization has a trash bin.




