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第11話【王国SIDE】 これ以上に『賢いけどバカ』のわかりやすい例はない。

 イーモデード伯爵家の長男が勇者の師匠に暴言を吐いて殴り倒された。


 これを放置してしまうと、王国そのものが国際社会で非難される可能性もある。


 そのため、国王バルゼイルはイーモデード伯爵家当主への『借り』もあるため、王の予算から借金を返済、伯爵家は最低限の資金を残して財産を没収し、本人たちは辺境への追放となる。


 イーモデード伯爵家の借金は金貨2万枚。

 どうあがいても伯爵家だけで返せるわけがない。


 ……ここまで借金が膨らんだ大きな理由は、『冒険者の死亡率』だろう。


 ラスター・レポートという勇者コミュニティは、魔王を討伐するまでは『冒険者コミュニティ』であり、強大なモンスターを倒すことで多額の資金を得て、それを貸し出していた。


 言い換えれば、『何かの事故で死亡する可能性が高い』ゆえに、返済する必要がなくなる可能性が高いのである。


 まあ、膨らんだ理由はともかく、王都に存在する冒険者ギルドに頼んで『応接室』で勇者コミュニティの構成員との席を作ってもらい。そこに金貨2万枚が届けられた。


 イーモデード伯爵家の借金の返済として払われ、領収証も発行され、正式に借金は返済され、通信魔道具でそれはランジェアたちにも報告され、当然、ホーラスも知ることになる。


 ★


「陛下! 大変です!」

「……今度はなんだ」

「これを!」


 部下が持ってきた資料を受け取りつつ、バルゼイルは嫌な顔をした。


 そして、読み始めて数秒。


「な、なんだこれは! あいつらは一体何をやっている!」


 とんでもないことが資料に書かれている。


「各地の勇者コミュニティ関係施設で暴言を吐き、暴行が発生だと!? あいつらはこの国を終わらせる気か!」

「い、一応、彼らの関係者から話を聞きだしました」

「何と言っていた」

「それが……イーモデード伯爵家の嫡男が、勇者の師匠に聖剣まで抜き、それが殴り返されただけでその場は済んだこと。そして、伯爵家の借金の返済と、当主と長男の辺境への追放で『一件が収まった』ことで……」

「ことで?」

「プライドの高い子供を抱える伯爵家を借金の連帯保証人にして、息子を煽って暴言を吐かせて問題を起こし、陛下が返済と謝罪を示すことで、伯爵家がいくつか潰れるだけで借金の問題が解決すると……」

「あいつ等は私を馬鹿にしているのか!」


 実際に資料を読めば、暴行に至った子供は逮捕されている場合がほとんど。

 それぞれの伯爵家に対して抗議文が送られており、その対応に追われている。


「……どのみち、私が頭を下げなければ解決しないか」

「抗議文の中には、『王国は勇者コミュニティに敵対を示したのではないか』との文言も……」

「どうしてこのようなことが起こっている!」

「それが……」

「何か知っているのなら言え!」

「へ、陛下が金貨2万枚を用意する文書を作成した後、どうやら公爵家を筆頭とした『勉強会』があったそうで……」

「それで、全員がこんな愚行に乗ったのか。アイツらはここまで愚かだったのか!」


 バルゼイルは怒鳴る。


 もちろん、部下に言ったとしても無駄なことはわかっている。

 だが、それでも怒鳴らずにはいられなかった。


 最悪の選択。


 だがしかし、『勇者に頭を下げて有効となる価値』があるのは、そんじょそこらの貴族の当主ですら格が足りないのはわかりきっている。


 魔王討伐を成し遂げた勇者という称号。


 それを軽く扱うことは許されない。


「勇者という称号の重さが、アイツらにはわからなかったのか!」


 机に拳を振り下ろすバルゼイル。

 だが、吠えたところでどうにもならない。


「……くそっ、何故、こんな判断ができる」


 手ごろな伯爵家を連帯保証人にして、その子供を煽って暴言と暴行を発生させ、バルゼイルが謝罪と王家の予算から返済を行い、問題を収める。


 そう。


 イーモデード伯爵家の一件の表面を分析できるものが、賢しくも愚かな頭脳でその理論を導いたのだ。

 そしてその考案者が公爵にかかわる人間にいて、『勉強会』が行われたことでこのような愚かなことが各地で発生したのである。


 莫大な借金を抱えているというモヤモヤした状況から脱却したい。

 実際に今回の関係者が抱えているのはそんな浅ましい理由に過ぎないだろう。


「暴言と暴行が発生する前、公爵家の人間はこう言っていたそうです。『手ごろな伯爵家を捨てるだけで『万事解決』する素晴らしい策だ。平民しかいない浅学なコミュニティよりも、我々のほうが優れているだろう』と」

「……」


 バルゼイルはもう、言葉も出ない。


 問題を起こした者たちは、イーモデード伯爵家の一件が、『特別』だと分からなかったのだ。


 伯爵家の一件の現場にいたのが、イーモデード伯爵家とホーラスであったがゆえに、様々な『調整』や『バランス感覚』のもとで成り立った、『特別』なのだ。


 この大問題を起こした『考案者』にはそこがわからなかった。


 もしも、イーモデード伯爵家の一件が『普通』だとするなら、彼らの行動は非常に優れている。

 しかし、伯爵家の一件を『特別』と見抜く『想像力』がなかったゆえに、この大問題が発生している。


「……借金額は、合計でどうなっている」

「金貨……10億枚です」


 おそらくそれは、『ディアマンテ王国全体』の、ラスター・レポートへの借金額。


「どうすれば捻出できる。我が国の一年の国家予算は、金貨1000万枚だぞ。その100倍の額を今から返済できると、アイツらは本気で思ってたのか?」


 2万枚ならまだいい。

 というより、イーモデード伯爵家は、聖剣を手にする前は『準男爵家』で、王国法においては厳密には貴族ですらなかったくらいだ。

 それゆえに、『年間貴族予算』の額も年間に金貨200枚と、今回の大問題に比べれば小規模な物。


 だが、10億枚はシャレにならない。笑うこともできない。


「あいつらは……それだけの金を稼ぐ冒険者コミュニティを、嘲笑っていたのか。見下していたのか。金を数字だけで見ていたのか。どうすればそこまでの金が稼げるのかがわかっていなかったのか……」


 ディアマンテ王国は広く、男爵以上の貴族家は400を超える。

 それらに分散されていたのは間違いない。


 だが、あまりにも愚かすぎた。


 確かに、『これで王家が払うことで、借金は解決する』のは間違いない。


 なんせ、『貴族家本人だけの問題だけでなく、国のトップが頭を下げなければ解決できない』のだから。


 その時に金を出し渋るなど、王家の威信にかけてできるはずもない。


 だが、そんな金がどこにある。


「ぐっ、くそっ、くそがあああああああああああああああああああっ!」


 バルゼイルは吠える。


 解決策などもうわからない。

 そんな彼の咆哮は、空しく執務室に響いていた。

実感の湧きにくい数字が多いので補足


第8話で硬貨について『ある程度豊かな国なら、パン1個が銅貨1枚で買える』みたいなことを書きましたが、言い換えれば、銅貨1枚で100円とほぼ同価値。と言えるでしょう。

1000銅貨=10銀貨=1金貨なので、1金貨は10万円と同等です。


ディアマンテ王国の国家予算は、年間で金貨1000万枚。これは日本円にすると1兆円です。

そして、借金の金貨10億枚は、日本円にすると100兆円になります。

莫大ですね。


もう一つ補足。

貴族家が400って多くね? という感想に関しては、日本の江戸時代の大名が大体300くらいだった(三百諸侯という言葉もある)ということで、ご納得していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 問題把握して痩せるほど何とかしようとして、問題おこした臣下のトラブルをバランス見極めて丸く収め、義理があるからと自分の頭を下げ自腹を切る度量もある。 あれ?結構マトモな王様なのでは? 何で…
[一言] 既に主人公の動向より、勇者ちゃんの恋の行く先より、王様の王国立て直しが上手く行くかの方が楽しみ(作者様スミマセン)。
[一言] 前例っておそロシア
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