表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/243

第1話 主義に善悪はないが無知は不幸を呼ぶ。だからこそ、不当な解雇が起こる。

 『有事の際』となれば、ありとあらゆる『規制』を世界が緩める。緩めさせる。


 『絶世の美女』が『魔王』を名乗り、この世で最も大きな独占欲を発揮して世界を手中に収めようという状態は、そのわかりやすい『有事の際』だ。


 魔王は『魅了大権現』というスキルを持ち、その性能は端的に言えば『絶対的な男性支配』である。


 人や竜、オークや悪魔はおろか、魔剣やマジックアイテムだろうと『男性型の意思』があれば完全に支配し、魔王の命令は絶対となる。

 しかも、魔王が死んだ後でさえ、支配が解けることはない。


 そして、絶対的な崇拝を体現するがゆえに、支配された男は文字通りの全身全霊をもってその命令をこなす。


 一切の躊躇も休憩もなく、魔王の姿を見ただけで、すべての男性は支配され、虜になり、絶対的な崇拝を誓うのだ。


 そしてそんな存在がこの世で一番の『独占欲』を持っているとなれば、当然、その欲望は止まらない。


 そんな、『有事の際』だ。


 例えば、『宮廷につかえる者は、貴族かその縁故採用でなければならない』と規制を設けた国があったとしよう。


 そんな国であったとしても、『有事の際』の場合、人は圧倒的に足らなくなる。

 特に識字率が低い場合はなおさらで、国家が機能不全になってしまう。


 そんなときに、貴族とその縁故採用しかないなどというのは人手不足の極みのような話であり、規制を緩和せよと『国際社会』が求める。


 識字率が低い国であろうと、ゼロではないのなら、文字の読み書きをこなせるものはいる。

 そういったものは宮廷に雇用され、有事の際ゆえに国庫に余裕はないため、薄給で働かされた。


 そんな状態が世界で発生し、数年後。


 魔王が討伐されたら、その『規制』をどうするのか。

 いや、その規制を緩めさせる『特例』をどう扱うのか。


 考えるまでもないことは、人の歴史が証明している。


 ★


「お前らは全員クビだ!」


 広間に集められたのは、およそ五百人。


 その一番奥の壇上では、太っている男が煌びやかな服をまとって、喚き散らしている。


「貴様ら平民に、本来は城で働く権利などない! 最も古くから存在する由緒正しき王国の宮廷には、選ばれた貴族と、貴族が選出する優れた人間が勤めるべきなのだ!」


 選民思想に取りつかれたそのセリフは、とても慣れたもの。


「魔王が出現し、『平民を雇用することを妨げてはならない』などと世界会議がほざいていたからおいていただけだ。その魔王が討伐された今、この場所に貴様らの居場所はない! さっさと出ていけ!」


 喚く男、公爵家の当主である『ザイーテ・ルギスソク』が全員の解雇(クビ)を宣言した。


 ……そんな中、一人の少年が人間たちの一番前に出てくる。


 黒髪黒目で、百八十センチと高身長……だが、それ以外には特に何の変哲もない風貌だ。


「質問です。あの、引継ぎはどうするのでしょうか」

「公爵家の当主である私に逆らうのか!」

「いえ、出ていけというのであれば出ていきますが、引継ぎがなければ困るはずで……」

「これだから平民は。いいかね? そのような低レベルな話はどうでもいいのだよ。優れた血統には優れた能力が備わる。君ら平民が維持できる程度のことだ。貴族である我々にモノを教えるなど、言語道断!」

「……わかりました。引継ぎは不要……ですね」

「フンッ! まあ、世界会議のほうから、『解雇する場合に私物に干渉してはならない』と言われているからな。私物をまとめて、さっさと出ていけ!」

「引継ぎは不要。私物をまとめて出ていく……わかりました」


 少年は頭を下げた。


「お世話になりました。失礼します」

「フンッ! では、私が忙しいのでね。これで失礼する」


 そう言って、ザイーテは広間から出ていった。


「……人に指示を出すだけですべてが解決すると思っている人間に、引継ぎの重要性はわからないか」


 少年はザイーテが出ていった扉を見てため息をつくと、指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、五百人近い群衆の体が、一瞬で『鉄の塊』に変わった。

 そのまま『鉄の塊』と『衣服』の二つに分かれて……。


「アイテムボックス」


 一辺三センチの立方体を上着の裏から取り出すと、起動する。

 すると、空間に二つの渦が出現。


 それぞれが、『鉄の塊』と『衣服』を吸収していく。


 ……数秒後、そこには何もない。

 あれほどいた人間は、一人の少年を残してすべて消えた。


「まあ、いいか。ゴーレム運用の実験もすべて終わったし、世界会議が決めた国際法の、『王族所有のアイテムの使用権』の特例も消えるから、アンテナが使えないし」


 ドアに向かいながら、少年はため息をつく。


「さすがに操作可能距離が自分の体から半径三メートルっていうのは短すぎたか。いやでも、射程を犠牲にして処理速度を上げるっていう方法をとったのは間違いないはずだし……まあ、この先困ったら、その時に考えればいいか」


 少年はそう言って廊下を歩く。


 近くのごみ箱に向かうと、上着から一枚のカードを取り出す。

 そこには城で勤務する職員であることと、『ホーラス』という名前が記載されている。

 遠慮なくカードをビリビリに破くと、ゴミ箱の中に捨てた。


(ゴーレムに使う最高の素材でも求めますか。国の中心地に、特別な石が集まる『カオストン竜石国』に向かおう)


 ホーラスはそう言って、『ディアマンテ王国』から出て、『カオストン竜石国』に向かい始めた。

ブックマークと高評価(★★★★★)、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
・・・作中時勢や状況的に貴族の入れ替え期じゃね?  ディアマンテ王国は役に立たなかったけど邪魔になる程でも無かった田舎国家なん?
[一言] 公爵の家名が後ろから読んだらクソすぎるwww
[気になる点] 「」が多すぎて読みにくい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ