第9話 長距離射撃
土石が剥き出しの壁を横目に見ながら…彼らは「地下の世界」へゆっくりと降りていく。
「どうなってるんだ…すごいな…」
「中庭がエレベーターになってるなんて…」
しばらくすると中庭は地面に到着した。そこは白い壁で囲まれており、向かい合うように6つの入口がある。
やがて人々の頭上に屋根ができあがり、完全に「密室」となった。
「これから皆さまには属性ごとに分かれてもらいます」
入口の上にはそれぞれの属性のイラストが描かれており、通路はランプで灯されていた。
片方は火、水、雷。もう片方は風、毒、個となっており、水属性が最も多かった。
「まず試していただくのは長距離射撃です。杖は後ほど提供いたしますので、そのまま中へお入りください」
その言葉を最後に、音無は姿を消した。
「…みんな、とりあえず中に入って…とにかく全力を尽くそう」
知己は4人に声をかけ、皆は無言で頷いた。
それぞれが先陣を切って入口に入り、残された者もひとりひとり入っていく。
——アカネの場合——
(長距離って言ってたよね。守山さんのときみたいに的に撃つのかな?)
【火属性】88/300人
的が用意されており、きっとこの先にはそのための広場がある…アカネはそう考えていた。
(ほらやっぱり! なんか開けた場所が見えてきた!)
真っ暗闇ではあるが、通路の果ての「広場」が見えてきた。
(ここ…本当に地下なの?)
アカネのみならず、他の火属性たちも言葉を失っている。
通路を抜けた彼女らが立っているのは崖であった。崖の前には赤い砂漠が広がっており、遠くの方には天高くそびえる岩山が見えている。
(福楽町みたいな都会の地中にこんな場所が…ありえない…)
アカネが呆然としているとき、我に返らせる「声」が響き渡った。
「なんだ!?」
「なに!? なんなの!?」
声の主は1体だけではなかった。
姿を見せたのは黒いドラゴン…小ぶりではあるが優に40体は超えている。
「やばい…早く魔法使わないと!」
アカネがそう口にしたとき、どこからともなく大きな杖が降りてきた。全員分あるようだ。
「これで倒せばいいんだね…よし!」
勇気を奮い立たせたアカネは、魔力を込めて火球を放った。
——百合の場合——
(なんとか半分は減ったかな…)
つららを放ち活躍する百合だったが、彼女には気がかりなことがある。
【水属性】112/300人
ドラゴンは相手が学生だろうと容赦なく爪や翼で攻撃してきた。
その結果、同志は半分近く消えた。
力強いその攻撃を受けた途端、学生は忽然と姿を消していくのだ。
(どうして消えるのか、どこに行ったのか、怪我はしていないか…全然わからないけど、攻撃されたらきっと不合格だよね…!)
迫り来るドラゴンを、百合は走りながら迎え撃つ。
——正義の場合——
(だいぶ減ってはきたが…)
【風属性】43/300人
20体近くいたドラゴンは残り7体。
そして、43人いた風属性は現在35人…
(血を流したりなどはしていなかったが…)
岩壁を背にして正義は、鋭い空気弾で頭部を狙う。
——来寿の場合——
(ムリムリムリムリ!!)
【雷属性】37/300人
ひたすら逃げていた。18体のうち8体が減り…37人いた学生は30人になっていた。
(こえーけど…1体でも倒さないとさすがにやばいよな…)
一撃で倒せるよう、魔力多めに稲妻を降らせた。
——知己の場合——
(…あれを倒すのか?)
【個属性】3/300人
3人だけの個属性。1人はドリアンのように尖った銀髪の男子。もう1人は焦点の合っていない赤髪の女子であった。
(7、8…9匹か。あれを倒したらいいんだな!)
通路を見知らぬ2人と歩いていた知己は、ようやく気まずさから解放された。
(2100ポイントか…ギリギリだな)
昨日の分に「筆記試験全員合格」が1000ポイント上乗せされ、圭介の言っていた「最低でも2000ポイント」をなんとか達成させた。
(よし…さっそく疑問弾を…!)
「ふざけんなァァァァァ!!」
知己は心臓が止まりかけた。ドリアンが頭に血管を浮かせながら砲弾を撃っている。
+400
「あっはははは!! 死ねぇぇぇぇぇ!!」
次に声を上げたのは赤髪の女子だった。目を向けたが彼女の姿はなく、杖からマシンガンのように射撃しながら走っている。
+400
(2900ポイントになった…というかちょっと待て!?)
そうこうしているうちにも、ドラゴンは残り3体となった。
「ま、待ってください! 撃たないで!」
知己が叫ぶと2人の動きはピタリと止まり、なんだとばかりに睨んでいる。
「あの…残りは俺に撃たせてくれませんか?」
そこで2人は、「9体いるのだから1人3体倒せばいいのでは?」ということに初めて気づいたようで、大人しく知己に譲った。
「あ、どうも…よし!」
3体のドラゴンは、束になって知己に迫って来る。杖を肩にかついでドラゴンに向け…叫んだ。
「筆記試験が全員合格…やっぱり納得できなぁぁぁぁぁいっ!!」
『採点はした』
『しかしどうでもいいと思っている』
そのような言い分では知己の疑問は解消されなかった。
疑問を賭したそれはロケットランチャーのように放たれ…3体もろとも爆ぜた。
「おいあんた。なんだその魔法は?」
「アタシも気になるぅ!」
その様子を見ていた2人は興味津々であった。
「その前に、あなた達の魔法のことを教えてほしいです」
「俺のは『憤慨の具現化』だ。ムカついた分だけ魔法が使える」
—400
「アタシのは『享楽の具現化』! とにかく楽しむが勝ちなの!」
—400
知己は納得したのか疑問が減った。
「俺は『疑問の具現化』です。なんで? って思った分だけ魔力が溜まります」