第4話 どうしたものか知己の魔法
「出た…守山さん! 俺いま…」
「疑問の具現化。要するにこういうことか…」
賢治は顎に手をそえ考えている。
「源くん、守山さんが結界張ったときに光ったじゃん? あれはなんで?」
「あー…なんで結界を張ったんだろって思ったんだ」
すると、またしてもペンダントは白く光った。
「あれは『幻覚魔法』をアレンジしたものです。あの結界を張れば、私たち人間は外にいる人から見えなくなります。主にプライバシー確保のためです」
それを聞いた知己は納得したらしく、ペンダントの光は徐々に消えていった。
「おそらくですが源さんの場合、疑問に感じた分だけ魔力が溜まるのではないでしょうか?」
「う〜ん…どうなんだろう…ちなみに他の属性だとどうやって魔力が溜まるんですか?」
ペンダントは再び光った。
「あたしも試してみてもいいですか?」
アカネは見本も兼ねて(というより自分がやりたいだけだろうが)射撃魔法を試すことになり、知己はそのまま杖を譲った。
「いくよぉ…フレイムっ!!」
先ほどの知己のように杖を振り払うと炎の矢が放たれた。
「フレイムって何? 呪文が必要なの?」
「ううん。なんとなく」
「な、なんとなく…まぁ、形から入るのも確かに大事だね! うん」
結局その日は、子ども達が代わりばんこに射撃する運びになった。
「いやぁ、楽しかった!」
「風の矢…なかなかよかったな」
「次はつららを飛ばしてみたいな…」
「C級の割にはオレ結構強くなかった?」
知己の魔法が少しだけ理解できたところで、みんなの興味はすっかり自分の魔法へ向いた。
(もうちょっと杖使いたかったんだけどな…)
知己はペンダントだけ首に残して嘆く。
「みんなこの後どうする?」
「俺」や「私」の魔法合戦が終わる頃、先ほどの部屋に戻ったところでアカネはみんなに呼びかけた。
「ブックオン行きたいな」
「私はもう帰るつもりだが」
「私はお婆ちゃんのお見舞いに…」
彼らはそれぞれ予定があったりなかったり…
「源くんは…」
「源さんには少しだけ研究所に残ってもらいたいのですが、構いませんか?」
そのとき知己は、4人に問いかけた。
「みんな。どの高校に行きたいか、せーので言ってみてほしい」
4人は頷き、知己は「せーの」と声に出す。
結果、5人ともが同じ答えを出した。
「…満場一致だね。連絡先交換しない?」
ソファに座る賢治は、その様子を微笑ましく思っていた。そのとき…
「青春だねぇ」
この場の全員にとって聞き覚えのある声がした。
「兄ちゃん!? いつの間に…」
自称「守山診療所の守り神」が現れた。
「賢治。お前のことだから、どうせまた勝手に魔道具作ろうとしてンだろ?」
「…悪いかよ。僕はただ魔法をうまく操る手伝いを…」
「いや! 悪くない。むしろ今回は賛成してる」
兄弟喧嘩が始まるのではないかと5人はハラハラしていたが、兄は自らそれを回避した。
「え、賛成?」
賢治も想定外だったらしい。
「ああ…この研究所が設立されてまだ3日…」
「えっ…」
「こいつらが初めての来客者…」
「ええっ…」
「どうせなら稼ぎになることしようぜ! …と、俺は思ってンだ」
「えええ…」
知己のペンダントは白く輝き続ける。
「源くんだっけ? あんたそれなんの光だ?」
部屋の冷蔵庫からコーラを取り出し、勝手に紙コップに注ぐ守山。
「疑問の具現化ってやつらしいです。疑問に思うと魔力が溜まるらしくて…」
「ぐふ…!? げほっげほ…ええ? マジで? マジで言ってンの?」
コーラが変なところに流れたようで、守山は涙目でむせている。
「はい、おそらくそうだろうってことで…」
喉が落ち着いた守山は、やがて知己の元に近づき、このようなことを聞いてきた。
「なぁ、なんで俺が医者になったか分かるか?」
「え…いやぁ…稼げるから?」
知己のペンダントはさらに強い光を見せた。
「ははっ…」
その様子を見た守山は、目を細めていたずらっ子のように笑った。
「ご名答。自慢じゃないが俺は稼ぐことしか考えてねぇ」
疑問が晴れたからか、ペンダントの光は弱くなった。が、またすぐに強くなった。
「守山さんの診療所って、その…どれくらい患者さんが来るんですか?」
「稼ぐこと考えてる割には全然人気がねぇじゃねぇか…そう思ってンなぁ? このヤロー…まぁなんだ、ご贔屓してもらってる人は何人かいる。ぶっちゃけギリギリだよ」
すると今度は弱くなる…
「…おい残り物!」
何かを思い立ったかのように、残りの4人に大きな声で吐き捨てる。
「今日のところは帰りなさい。源くんと連絡先交換したいンならする、しないならしない! やることやったらお引き取り! オーライ?」
残り物扱いされた挙句、突然追い払われそうになる4人は当然納得がいかない。
口々にブーイングが巻き起こる。
「そうだよ兄ちゃん。あまりにも失礼だ」
これには賢治も参戦する。
ところが守山の意志はそれ以上に強かった。
「今日のところはマジで帰ってもらうぞ」
「だからなんでですか!」
アカネは4人を代表して抗議する。
すると守山は、知己の肩に腕をまわして不敵な笑みを浮かべた。
「こっから先は彼の問題だからでぇす」