第3話 魔法のメカニズム
知己の間の抜けた声に、他の4人も目線を向ける。
「ちょっとみんなのを見せてもらっても…?」
知己の困惑したような様子を見て、4人は素直にカルテを見せた。
水崎百合 【水性魔法】
火山アカネ 【火性魔法】
新妻来寿 【電性魔法】
伊達正義 【風性魔法】
「源くんのは…疑問がどうとか言ってなかった?」
アカネは言う。
「うん…『疑問の具現化』って書いてる」
知己は守山に詳しい内容を仰ごうとした。守山はすでに「仕事モード」から離脱しており、ソファに腰かけテレビをつけ始めた。
「あの…守山さん」
「んー?」
守山は小さなドーナツをつまみながら反応を見せる。
「僕のこの、疑問の具現化? っていうのがよく分からないんですけど」
「あー…詳しいことは『こいつ』に聞いてくれ」
そう言うと守山は、ドーナツをつまんでいない左手で胸ポケットから名刺を取り出した。
—— —— —— ——
福楽魔法研究所 所長
守山 賢治
—— —— —— ——
「研究所ですか? というか、名字が同じなんですね」
「ああ、一応弟だからな。その研究所に行きゃ大体のことは分かるぞ。俺はテレビで忙しいからカネ置いたら帰っていいぞ〜」
画面に映るは録画された音楽番組。「キングブー」の特集。
守山の態度に違和感と不快感を覚えつつ、子ども達は診療所を後にした。
「とりあえず俺は研究所に行ってみるけど、みんなはどうする?」
知己の呼びかけの答えは「ついて行く」というものだった。
「にしても研究所行ったらまた金取られんのかなぁ」
「それは勘弁してほしいよね〜」
来寿とアカネはそう言って
「兄弟ぐるみでお金巻き上げたりして…」
「決めつけるのはよくないだろう」
「もしかしたら弟さんはちゃんとしてるのかも…」
知己、正義、それから百合がそう言った。
「ほら見て! あたし調べてみたんだけどさ…さっきの守山診療所ってとこ、やっぱり評判悪いよ。星1だもん」
「だろうなぁ…オレ美人センセー期待したのに…」
一行が大通りに出た頃、知己は立ち止まった。名刺とスマホを見比べている。
「どうしたの?」
「いやぁ…なんか地図だと小学校になってるんだよね…」
4人は意味が分からないらしく、彼のスマホを覗きこんだ。
「『南福楽小学校』ってもう廃校になってるやつじゃね?」
「そうだな。父親が通っていたらしい」
来寿と正義はその廃校を知っていた。
「廃校を研究所にしてるのかな?」
「いいですね。地元の施設を大事にしてるみたいで…」
アカネと百合、知己は土地勘がない。
「南小に行くなら私に任せろ。近道を知っている」
「本当? じゃあ織田くん案内よろしくね!」
「私は伊達だ」
軽自動車であれば通れるだろうか? 守山診療所へ向かう路地よりもさらに狭い道を正義は進む。その間、約5分…
「あれが南小だ。正面玄関は向こうだがな」
ビルとビルとの隘路を通ると、少し古びた校舎の後ろ姿が見えてきた。職員用の駐車場があり、「福楽魔法研究所」の看板がフェイスに貼りつけられてある。
「研究所…ここだね」
無機質なシルバーのドアのインターホンを鳴らし、しばらくすると男が出てきた。
「いらっしゃい。どのようなご用件でしょう?」
その男は「守山賢治」と書かれた名札を首にかけている。
「僕たちさっき魔適を受けてきたんですけど、僕の魔法だけよく分からなくて。ここに来たら調べてくれるかなって思って…」
「なるほど。中へどうぞ」
男はそう言うと、来客用玄関の部屋へ案内した。窓口としての役割だったのだろう。
ソファに向かい合って座ると、男はカルテを確認した。
「疑問の具現化…前代未聞ですね。ちなみにご両親の属性は?」
「母親が水属性で、父親は…僕が生まれる前に亡くなったらしいので分かりません」
その頃、4人は同室の円形テーブルに…
「ねぇ、あのひと結構いい感じじゃない?」
「まぁ、さっきのと比べたらなぁ…」
「本当に兄弟なのだろうか…」
「清潔感がありますね」
守山賢治は短髪で髭もない。服装は紺のポロシャツというシンプルな出立ちだ。
「…ひとまず実演といきましょうか!」
「ん? 実演…?」
賢治はそのまま玄関を出てグラウンドへ向かった。慌てて5人は追いかける。
彼らがマウンドにたどり着いたところで、賢治は知己に白い宝石のペンダントを貸し出した。
「それを首にかけてもらって…いま的を用意しますね」
知己が首にかけている中、賢治はポケットから杖を取り出し、バックネットに直径10メートルほどの的を生み出した。
「そしてこちらが…お試し射撃用の杖になります」
賢治は杖を手渡すと、グラウンド全体に結界を張った。
「あとは魔法を使うための『魔力』ですが…」
そのとき…
知己のペンダントが、うっすらと白く光った。
「…あれ? 今ペンダント光ったよね?」
「うん、光った…」
「光ったな」
「どうしてでしょう?」
4人はヒソヒソと話している。
「守山さん、ペンダントが光ったんですけど、なんで…」
ペンダントは再び光った。
「…源さん。その杖を2回まわして、的を目がけて振り払ってください」
知己は光る理由が気になりつつも、右手のそれを2回転させて肘を曲げ…振った。
次の瞬間、杖の先端が白く光り…
そこから放たれた「疑問」の矢が命中した。