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短編(超短編)

メモリアス

作者: 芝田 弦也

コンクリートで一面囲われたような、無機質なエレベーターホールが視界に入った。

広さはコンビニ程の大きさで、高さは二階建分はありそうに感じる。

そして天井からぶら下がっている一灯の安定器に備え付けられた蛍光灯は、ガスが抜けてきたのかちかちかと明滅しては、この部屋を不規則に不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。



正面の向こうにはカゴを呼び出す逆三角の形をしたボタンが見えるけど、あまりの歪な空気に飲まれて僕はこの場から離れようと、元来た道に戻ろうと振り返ったけど、この部屋に通じていた筈のドアが見当たらなかった。確かにさっきまでは存在していた、人一人が潜るのが精一杯な点検口みたいな小さい四角い扉が見つけられない。

近づいて隈なく探すも壁は何処までも平面で、どこにも扉らしい窪みや取っ手等は見当たらなかった。暗闇が訪れては薄暗い明かりに切り替わる度に、自分の影が壁面に映し出されるが、あたかも自分のではない別の人格を持った何かに思えて、恐怖がどんどん募っては自分の心を蝕んでいく。

思い出したかのようにポケットからスマートフォンを取り出して、外部と連絡を取ろうと試みようにも、電波は県外になっており、誰かに助けを求める事はできそうにもない。

元の場所に戻る事は叶いそうにもなく、今出来る事は、一つだけ存在している何処か行きのカゴに乗ることだけだった。



意を決して逆三角形のボタンを押すと、カゴの扉がゆっくりと開いてはぼんやりとした光が体を包み込んできた。中に入って操作盤を確認すると、横2列、縦5列に並んだ丸いボタンがあり、どれにも階数表示の刻印や印はなかった。適当に一つのボタンを押すと、扉は開いたときと同じ速度で閉まって行く。

すると、斜め後ろに引っ張られる感覚があり、改めてカゴの中を確認すると天板が無いのに気づき、天井を見ていると、緩やかに後方下に向かって流れているのが見て取れた。

先ほど適当に押したのがふと怖くなって、一度押したボタンを何度も押したり、長押ししても表示灯は消えること無く光り続ける。慌てて、今光っているボタンより更に上方にあるボタンを押す。


しばらくすると、カゴはゆっくりとした動きを止めて目的階に着いた事を知らせる音を告げた。

扉はゆっくりゆっくりと開かれていく。僕はその先に何が待ち受けているのか固唾を飲んで待ち受けていたけど、扉の向こうに在ったのは壁だった。何もない事の安堵と、えもいわれない気持ち悪さと怖さが相まって襲ってくる。途中で降りる事は許されなかった。その事実が重くのしかかってきては、精神的な重圧で息苦しさを覚えてきた。



扉は閉まり、またしても斜め後方に向かって突き進んでいくのを感じていた。

なんともなしに見上げていた天井には、何か言葉がつらつらと書き綴られていることに気づく。

でも、それが何と書いてあるのか読み取ることが出来ないほど文字が乱れていた。

得られた物は何もなくただ恐怖を高めただけで、真綿で首を締められたかの様な息の詰まりがやってきただけだ。



こんな事になるなんて分かっていたら、興味本位でこんな場所になんか来なかった。

出来ることなら、30分前に遡ってこんな所に近づかないルートを辿るようにしたい。



そんな思いとは裏腹にかごはゆっくり、ゆっくりと動いていく。

絶望なまでに気持ちが落とされかけていたけど、冷静になって考えてみれば何かが起きると決まったわけではないじゃないか。さっきと同じく壁があるかもしれない階に行き着いて止まる筈だ。そしたら元の階に行くボタンを押すまでだ。振り出しに戻るだけじゃないか。

ちょっとした超常現象と雰囲気に飲まされてまともな思考ができなくなったせいで、一時パニックになっただけさ。そう思うと先ほどまで感じていた息苦しさは楽になっていた。



間も無くして目的階に着き、扉はゆっくりと開くも、その先にあるのは予想していた通り壁であった。

安堵のため息をついて、上に行くであろうボタンを押そうと指を伸ばしたけど届かなかった。

さっきまで感じていた体に押し掛かっていた筈の重力が忽然と消えた。

目に飛び込んできたのは操作盤が凄い勢いで上方に向かっていく所だった。

いや、操作盤だけでなく、カゴ全体が縦方向に180度回転していたようだ。



天板の無い部分が自分の足元に移り変わっており、気がついた時にはカゴはどんどん小さくなっていく。

物凄い速さの重力を感じながらどんどんどんどん小さくなっていく明かりを目にし、終いには消えていった。

何もかも全て。

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