Episode7 え、一緒に戦わないかって?望むところです。
よし。第7話です。
前回よりは長めかな?
~ヒロインside 詩乃~
大丈夫かしら。徹...。
あれは尋常じゃない。一応、セイバーズの本部に運んでもらうように隊員の皆さんには頼んだけど...。
...いや、こんなときこそ、作戦部の私がしっかりしないと。徹がいったい何をしたのかわからないけど、とにかく状況終了。エリーナの様子は...?
「詩乃さん...申し訳ありません」
グッと唇を噛み締めるエリーナ。隙を突かれたことを悔やんでいるようだ。
「いえ、あなたのせいではないわ。とにかく、あまり自分を責めすぎないで。それを言うなら私だって、安易にあなたを前線に立たせるべきではなかったわ」
女の子の救助を確認したら、エリーナを後衛に下がらせるべきだったかもしれない。というのも、残念ながら、エリーナは戦闘能力としてはうちのチームの中では最弱だ。だから、彼女に戦わせることはない。
だが、彼女の能力はセイバーズでも一役買われている。平穏に犯人グループと交渉するには、彼女のような魅了の力は非常に効果的だ。チームには所属してもらう必要がある。
もちろん、今回のようなことが起こるかもしれないという危機感はあった。...だが。
「(相手がサキュバスの能力を知っていたなんて......!)」
そうだ。それが今回の事態を引き起こした。でも、わからない。いったいどこから情報が漏れでたのか。サキュバスは異世界種族のなかでも希少種だから、そうそうその生態を知っている人なんて限られてるんだけど。
「(とにかく、エリーナを休ませないと)」
今、彼女は憔悴している。身体的な疲労は無いにしても、精神的な疲れが表情に表れていた。
「申し訳......ありませんわ...」
「謝らないの」
あまりにもエリーナが謝罪をやめないものだから、ついキツい口調で嗜めてしまう。そして。
「(これは一言だけでも文句を言ってやる必要があるわね...)」
私は決意に満ちていた。
「な、なにかね。いきなりやって来て。今は会議中だ」
「では、会議中失礼いたします。先程の出撃要請で、どうしても言っておきたいことがありまして」
エリーナを部屋に送っていった私は、その足でセイバーズ本部の司令部を訪ねていた。目的は当然、私とエリーナ、そしてリル先輩の3人だけ(..)による無茶な出撃について抗議するためである。
「皆さんが何を考えておられるのか、正直私には理解しかねるのですが、あの布陣での出撃はいささか無茶ではないかと」
「何を言うかと思えば。我々はあくまでも必要最低限の人員を確保し、それを必要な体制で調整しただけにすぎん」
よくもまあ、いけしゃあしゃあと。今回のグループ構成は明らかに"異世界人のグループ"で構成されていた。よこしまな意図はなかったなどと、どの口が言うのか。
コイツらはいつもそうだ。私たち異世界人をどこかでバカにしている。先程の出陣に関してもどこかおかしかった。そもそも、前衛がリル先輩一人だけなんてどうかしている。私なら、あの場面では安全も考えて特攻要員としてあかねも配属するだろう。
「あなたたちがどのような意図をもって仕事に取り組むのかは、あなたたちの勝手ですが、私たち異世界人をむやみに危険にさらすのだけは止めていただけますか」
「な、何をバカな。誓って言おう。そのような意図はないと」
「その通りだ。確かに報告を聞いたときにはヒヤッとさせられたが、皆無事に帰還できたそうじゃないか」
「うむ。君らの仕事は、それそのものがそれなりのリスクを負うものだ。それを理解してほしいものだが」
司令部の面子が口々に各々の見解をのべる。だが、リスクに関しては十分わかっている。しかし、何も敢えてリスクをおかす必要はない。彼らはもっともらしいことを言って、煙に巻いているだけだ。みんなが無事に帰ってこられたのだって、所詮結果論にすぎない。
「お言葉ですが、私は相手の犯罪グループがサキュバスの情報を知っているなんて報告は聞いてませんでしたよ?それについてはどう弁解なさるおつもりで?」
悪いが彼らの安っぽい言い訳を聞くつもりはない。なんとしても、エリーナを危険に遭わせた理由を聞き出してやる。
「そ、それは......」
やつらが言葉に詰まった。
そう思って追撃をしようとしたその時。
「これはこれは。議会の皆様。お疲れ様です。...おや?詩乃も来てたのかい?」
「み、宮島悟...!」
「お、お父さん!?」
お父さんが現れた。
「議長さん、今回の出撃はビックリでしたね。僕、今まで能力を得た者を見てきたつもりですけど、あんなにすごいのは初めてですよ。オリジンの適応者はいた、ということですかね?」
「!?なんの話だ!それは」
あれ。なんだろう。急に感情的になったような......。
「あれ。もしかして、ご存じない?今回の一件を抑えたのは、オリジンの適応者と考えられている"彼"ですよ」
...?どうしてお父さんが知ってるの?
「き、貴様...!まさか!」
「そういうことですから、すでに彼は僕らのチームメンバーにぴったりでしょう。彼には非常に悪いのですが、協力してもらうとします」
それだけ言って、お父さんは会議室を出ていこうとする。
「ま、待ちたまえ!どうする気かね!あれはそうそう手軽に扱えるものではない!それこそオリジンに適応したとなれば、話は別だ!是非ともわがチームに...」
こういったチーム配属は部署ごとで異なっている。上の人間にもそれぞれ取り持っているチームがある。だから、絶対やつらは勧誘すると思ったのだが。
「あ、その件なんですけど、すみません。もうこちらで同意をとってしまいました」
「......は?」
「いや、だから。"僕のチームに入ってくれ"と頼んだら、"いいですよ"と」
あっさりとお父さんは言った。ちなみにお父さんのチームは私たちセレナードに住んでいる学生グループである。
「な、なんだと!それはどういう...ま、待て!話はまだ終わってないぞ!」
議長が叫んでいる間にも、お父さんは部屋を出ようとする。
「すみません、このあと急用がありまして。急がなければならないのでコレで失礼しますね」
ペコリと頭を下げて、部屋を出ていく。さすがの私も固まってしまう。
しかし、なんとも鮮やかな御業だった。...というか、え?徹からいつ同意をとったの?
「あ、では私もこれで」
とにかく退室してしまおう。いつまでもこんなところにいたってあいつらの腹のたつ顔を見る以外にやることがない。
「き、貴様ァ!宮島悟ゥ!この借りは絶対に忘れんからな!!」
ドアがしまるまでに、そんな声が聞こえた気がした。
~HERO side 徹~
悟さんが会議室に向かう数十分前。目覚めると俺は裸、そして、俺の目の前にはその悟さんの姿があった。
「いやー、散々だったね。篠宮くん。気絶する機会がすごく多いようで」
朗らかな笑顔でそう言い、俺のベッドの目の前までやって来た。
「あ、あの。これ、どういうことです?…ていうか、ここは…」
「ああ。詩乃が手配して運んでくれたようだよ。僕も、状況はすべて把握しているし」
「え、どうして…?」
「いやはや。なんか嫌な予感がしたものだから、隊長君にちょっと頼んでおいたんだよ。君を現場に連れてていくように…と」
ど、どういうことだ?なんで悟さんがそんなこと…。
「あ、そうか。君は知らないのか。僕はセレナードの学生さんたちのチームの統括をやっているんだ」
えっ…?じゃ、じゃあ、まさか……。
「うんうん!ある意味予想以上だったね。君が現場に立ち会えば、力を発揮してくれると踏んだんだけど、これはなかなかの結果だった。…まさか、上の連中があんなに無茶なチーム編成をしてくるとは思ってなかったからね。今回の一件は僕的には君の能力の覚醒のきっかけ程度に思ってたんだ」
つまり、俺の能力を無理やり引きずり出そうとして、本当に真価を発揮させちゃったわけか。
「まあ、結果オーライだよ。…ま、詩乃はたぶん上に対してとんでもなく怒っているだろうね。今頃、会議室に突撃してるんじゃないかな?」
「え、詩乃が?」
ああ、でもそうか。エリーナが危険な目に遭ってるからな。…それよりも、チームを編成したのがセイバーズのトップだったなんて。
「ちょうど、僕が忙しい時に余計なことをしてくれたもんだよね。勝手に人のチームメンバーを編成しちゃってさ。統括は僕だっての」
悟さんから、セイバーズのトップに対するわずかな敵意を感じる。
「さてと、じゃあとりあえず。君はこれからもう力を使えるようになったわけだ。…そこで。僕のチームに入らないかい?」
「それは…」
詩乃たちと一緒に戦える、ということだろうか。
「僕が君を誘う理由は、何よりセレナードのみんなのためだ。…だから、君からすればいい迷惑、ということになる。君がいくらセレナードに住んでいるからと言って、彼女たちに協力する義理はない。君がここにいるのは、あくまでこちらの不手際なんだから」
そこまで言って、いったん言葉を切る悟さん。
「…だが、それでも僕は君を勧誘する。……どうだろうか。一緒に戦ってくれるかい?」
真剣な表情に、気圧される俺。食い気味に確認をとろうとする悟さんだが、俺は…。
「……正直、どうするのが正解なのか、俺にもわかりません。この島に来たのだって、本当に良かったことなのか、いまだわからないんです。…でも、少なくとも、セレナードに住んでいるみんなはとてもいい人でした。何より、詩乃なんて俺がこうなった原因を自分のせいにしてるくらいだし。…だから、今回みたいにみんなが危険な目に遭うのを少しでも緩和できるのであれば、俺にやらせてください」
俺は自分の気持ちを正直に打ち明けた。すると。
「……大歓迎だ。君がみんなの力になってくれるのなら心強い。…それじゃあ、改めて。僕のチームに入ってくれるかい?」
「……ええ、いいですよ。こちらからも、よろしくお願いします」
そう言うと、悟さんは安心したような顔をして、
「……ありがとう」
腰を折って、俺に感謝の意を示してくれた。
や、やっと徹君がメンバーに入った……。
なんかここまですごく長かった気がする…。