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Kaleidscope-カレイドスコープ- ~俺、亜人間になります~  作者: AKIRA
-壱章- 学院編:二葉あかね
75/80

Episode72 犠牲を出さない、ということ

72話です。更新が……(白目)

「心のコントロール?」

「そうだ」


 力が欲しい。

 俺のそんな要望に対して悟さんが返してきた言葉はそれだった。

 何かと思えばいきなりスピリチュアルな話になったものだから、思わず聞き返してしまった。


「…“なんでそんなことを”とか思ってる?…まあ、無理もないかもね。基本的に君の力は君の細胞の中にある遺伝子に働きかけるようなものだから、直接的に精神的なものとのかかわりがない。でも、その本質はむしろ精神にこそある」

「…どういうことですか?」

「人間の脳は、働き者のように見えて実のところ、そうじゃない。僕たちの脳は…というよりも人間の脳は必死に考えようとしてもう頭が回らないと思うまで酷使しようとしても、実は限界には達していない」

「え、そうなんですか」


 …というか、何で脳の話?


「脳には振り切ってしまうとヤバいラインというものがあって、それを越えないように制限リミットを掛けているんだ。…そうだね。例えるなら、コップ一杯の水を入れて、ここへ持ってきてください…と言われて、本当にコップ一杯限界まで表面張力まで使ってなみなみ入れてくる人はいないだろう?」

「…そう、ですね」

「そんなことをしてしまったら、コップを持っていく途中で中に入っている水がこぼれてしまう可能性がある。だから、基本的に無理があるんだ。……普通ならば(・・・・・)」

「…?」


 悟さんは何が言いたいんだろう。


「まあ、要は君の限界の枷を外そうって話さ」

「……マジですか」


 それは、大丈夫なんだろうか。

 ひどく、何か良くないことが起こりそうで少々怖気づいてしまう。


「…まあ、さっきは脳の話をしたけど、別にそんなに極端な話じゃない。…それに、どうも君は何か今までとは少し違う考え方をしているようだからね。そろそろ、徹君には“相手を無力化する”のではなく、“相手を倒す”力を持ってもらった方がいいと思うんだ」

「…でも、精神的な話なんですよね?具体的にはどうすれば…」

「単純な話だよ。…今から君の中にある迷い(・・)を消し去ってもらう」

「…っ」

「さっき、“セイバーズは防衛部隊”なんて言っておいてなんだけど、僕はそもそも「力」に正しい使い方も間違った使い方も存在しない、と思っている。…それは、根拠がなく言っているわけじゃなくて、仮に間違った使い方ができてしまうのなら、それは求められた使い方であることもあるってことだ。正義が成立するためには、その意義を成立させるための悪が要る。食う者が生きるためには食われる者が要る。それなら当然だけど、襲われてしまうならそれを防ぐ力…極端な話、逆にそれらを食い物にする力だって必要だ」


 長々と語る悟さんの目には、いつもとは違う暗い炎が宿っていた。

 …詩乃のお母さんは人間に殺された、と聞いた。

 今の悟さんの態度が、詩乃のお母さんと関わっているかどうかは分からないけど、どこかもうこの世にはいない誰かに向けられた強い感情を感じた。


「…そういう意味では、徹君。君はある種、覚悟に欠ける。だから、ここで誓ってもらうよ」


 悟さんは、辛そうにしながらも言葉を吐き出す。


「…セレナードのみんなのためなら、どんな犠牲も問わずに戦えるかい?」

「…………はい」


 よく考えた上での答え。

 俺には守るべきものがある。

 「犠牲者ゼロ」。かつて、詩乃が俺に向かって言った、彼女自身の行動理念。

 …完璧に。正確に。誰も傷つくことなく。


「…詩乃は、多分怒るでしょうね……」

「うん」


 彼女は俺のために、最初は戦線から俺自身を外した。

 俺が傷つかないようにするために。

 でも、それはどう考えても矛盾している。誰も傷ついて欲しくない世界を作るためには、「誰かを傷つける人間をこの世から排除しなければならなくなる」。

 それはときに、世界を救うことよりも難しい。


「君はいずれ、詩乃の言う“犠牲者ゼロ”を実現することになるだろう。…でもそれは、同時にその理念を裏切ることにもなるんだ」

「…分かっています。それでも、やるしかない。結局、俺たちはこの世界に生きている以上、生物の法則には勝てないんです。人は争うし、欲望のためなら魂だって売ってしまう。…だから、俺たちが止めないと」


 ハンスのときだって、オベリアさんのときだって同じことだ。

 

「そこまで言うなら……僕はもうこれ以上は言わない。…さあ、特訓を始めようか」


 それから日が暮れ始めるまで、俺は悟さんの指導の下、オリジンの限界を解除するための特訓に励んだ。







「…で、どうしてここに?」


 今、俺の目の前にはオベリアさんがいる。怪訝な顔でこちらを見る彼女は……そんな表情でもその美貌は健在だった。


「あなたに教えて欲しいことがあるんだ。かつては連中と共に日本に戦争をけしかけようとしていたんだ。…なにか、知ってるんじゃないのか?」

「前にも言ったと思うけど、私は何も知らないわよ?」

「…本当に?この間は、奴らとの会話ややり取りは遠隔だって言ってたけど、その最中に何か聞いていたりとか…」

「そうは言っても……あ」


 なにか思い出したと言わんばかりに目を見開くオベリアさん。


「…?何か知ってることでも?」

「…これがどういうことなのか分からないけど、奴ら……“抑止力”がどう…とか言ってたわ」

「抑止力…?」


 なんだ?

 何かの合言葉か何か、か?それとも別のなにか隠語のようなものか?


「詳細はわからないわ…。けど、何か引っかかるのよ。連中、もしかしたら戦争に勝つための武器を持っているのかも」

「なんだって…?」


 それって結構一大事じゃ…。


「…まあ、あやふやな記憶だから、当てにしてもらっても困るけど」


 うう…ん。この情報はどうなのか。具体的な危機が今起こっていないことを考えると、そこまで焦るほどのことでもないのだろうけど。


「……オベリアさん。また来ます。俺の質問の答え、何か思い出したら教えてください」


 俺が出した結論は、保留、だった。

何かを守るためには、何かを犠牲にしなければならない。


次回、73話です。

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