Episode62 無垢なる白
62話です。
ちょっと長くなっちゃった…。
~HERO side 徹~
「とおるくん。ワタシ、みんなに秘密にしていることがあるの」
「えっ…?」
「ワタシ…とおるくんの力になりたい」
「それって……どういう…?」
「ワタシの力……使って?」
え、先輩?何を……
「…えいっ」
「…!!??」
だ、抱き着かれた?
…ていうか、秘密にしていることって何!?
……つーか、なんか柔らかいッ!!胸にあ、あたって…!
「ワタシたち…獣人族はね。魔獣と人間の間に生まれた一族なの。…だから、生物としての本能を残しているの。……それで、ワタシは今発情中で…」
……ちょ、ちょっと待て。それって…!
「あ、あの。先輩。…まさか……」
「…うん。でも、今はダメ。きっと今この気持ちを君に伝えてしまったら後悔する気がする。…気を持たせてしまうかもしれないけど、ごめんね?」
…つまり、やっぱりそういうことなのか。
きっと先輩は、俺のこと……
「…それとね。その発情するようになると、その個体は生物個体として“次の段階”に入るようになるんだ」
…?次の段階?
「…じっとしててね」
俺は言われたままにリル先輩に抱き着かれたままじっとしていると、彼女からとてつもない力が流れてくる。
「う、うおおおおッ!?」
カッと体が熱くなって、燃えそうなほど自分の体からエネルギーがほとばしっているのがわかる。
「活気術。魔獣の力を引き出すための力は、本能的な刺激が引き金になるんだ。…だから、この発情が現れた時点で魔獣の持つ本来の力をワタシが使えるようになる。…そして、その力をほかの人に譲渡することもできるんだ」
「……」
…まじかよ。
そんなこと初めて聞いたぞ。
…いや、そりゃそうか。さっき先輩がみんなには秘密にしているって言っていたしな。
「…でも、どうして俺にそんなこと…」
「えへへ。まだ秘密!」
そう言って、俺の唇に人差し指を当てる彼女は、様子がおかしくなる前の彼女……いや、それ以上に明るく、そして快活に笑っていた。
ー--Analyzing the unknown power.
ー--unreleased operon will be unlocked through this power.
ー--Activate the operon, "Strength".
「…!?」
刹那、オリジンが起動する。
「うぐ…!」
そして、体の中を何かがのたうち回るような感覚が這いずり回る。
心臓が大きく鼓動する。
「ふ、ふぇ!?」
思い余って目の前のリル先輩を抱きしめてしまう。
「あ、あ、え、え、えと…とおるくん?わわわ、ワタシはうれしいけど……」
うろたえる先輩の声が聞こえるが、こっちはそれどころじゃなかった。まるで自分という存在が一からつくりかえられているかのような感覚。
全身から滝のような汗が流れ出る。
「…大丈夫だよ、とおるくん…」
ぎゅっと俺の身体を抱きしめて支えてくれる。
Stabilizing the operon status......
...completed.
「…ぐ…はあ……はあ……」
何とか落ち着いたみたいだ。
「あ、ありがとうございます。先輩。…なんか、すみません」
「う、ううん!抱き着いたのは私のほうが先だから……」
照れながらもこちらを見て安堵の表情を浮かべる目の前の先輩。
その顔を見て俺は心を決めた。
「先輩」
「えっ…?」
「俺の作戦に……協力してくれませんか?」
「……」
「………」
「…………」
…なんだ、この沈黙。
リル先輩を連れて詩乃たちのもとへと戻ってきたけど、なんだか空気が重い。
「…お帰りなさい、先輩」
「詩乃ちゃん…」
なぜかシリアスなムードが漂っていた。
「あ、あのね。しのちゃー」
「その話は後にしましょう、リル先輩。…それより、今は…」
そうして詩乃はいまだに暴走中のオベリアさんのほうを見る。
「…このままだとまずいな、あのオベリアという女」
ぽつりとつぶやく朔。
「あの黒いよどみ。よくない気配を感じる。下手をするとあの女、飲み込まれるぞ」
こちらを見て険しい顔で俺の顔を見つめる朔。
「…猶予はない、か」
「うん。とおるくん、ワタシの力、活気術はね。悪質化したエネルギーを正常な状態に戻すことができるの。もしかしたらあの人を助けられるかも」
やっぱりか。さっき、抱き着かれたときに、彼女の普通の魔力とは違う感覚を覚えた。
体感ではあるけど、何か特別な力を感じた気がする。
「…よいのか、リルとかいう女子よ。あのオベリアという女はお主を捕まえてた、いわば敵であるぞ?」
「…わかってる。でも、だからって放っておくわけにはいかないよ。このままじゃセレンのみんなに被害が広がってしまうし、何より……“犠牲者ゼロ”、だよね?詩乃ちゃん」
「……。…ええ、そうよ」
先輩の問いに一瞬あっけにとられたような顔をした詩乃だが、すぐに不敵な笑みを浮かべて答えた。
「……じゃあ、先輩。協力してください。俺に考えがあります」
きっと。この方法なら助けられる。
…俺の中でオリジンが叫んでるんだ。
「オオオオオォォオォォォォオォオォ!」
相変わらずの雄たけび。そいつに向かって先輩が突っ込んでいった。
「はあああ!!」
ガツン!!と彼女のこぶしが吹き荒れる黒いよどみにぶつかる。
それと同時に彼女からほとばしるオーラのようなものが腕、こぶしを伝ってよどみへと流れていった。
次の瞬間、よどみは白く輝くとむなしく霧散していった。
「やった!」
先輩が喜びの声を上げる。
これに乗じて俺も……と攻撃を仕掛けたかったのだが。
「あああぁぁぁぁああっぁぁぁあっぁ!!!」
ごうっと神経を逆なでするような音が聞こえたかと思うと、再びオベリアを覆いつくしていく。
「なにっ…!?」
予想を超えた事態に一瞬体が硬直する。先輩の活気術でよどみを浄化できるんじゃないかと思ったのに。
「ううううおううううんん!!」
「っ!!」
暴走状態のオベリアさんと目が合った。
一瞬にも満たないこの時間が、脳内物質の分泌で何十分にも感じられるほどの時間に感じられる。
その時に頭に浮かんだ単語は、“浅慮”だった。
もう少し、しっかり考えて動いていれば。
先輩を危険にさらすことはなかったかもしれない。
……そんな思考が頭を駆け抜けていったその時。
ぎゅっと、先輩が俺の手を握った。
「…っ!?」
予想外の行動に俺の頭が真っ白になる。
おかげでうじうじと考えそうになっていた頭はクリアになったけど。
「……」
一瞬と言えるほどの時間の中で、彼女は何も言わずただ俺のほうを見る。
そこで、俺の勘違いでもうぬぼれでもなければ、彼女からの信頼を感じたように思う。
その時点で俺の中で迷いは消えた。
もう一度、黒いよどみをまとったオベリアさんのほうに目を向ける。
覚悟を決めて、先輩の手を握り返したその時。
オリジンが、起動した。
ー-overexpression.....
思考がさえわたる。なぜだかこの後の行動にも迷いがない。
体が軽い。妙な自信が体に力をみなぎらせてくれる。
「………先輩、お借りします」
「うん」
そうして先輩と手をつないでいる方とは逆の手を前に突き出す。
「……終わりだ」
前だけを見据えて、俺は小さくつぶやいた。
ー--無垢なる白
その言葉を唱えた瞬間、世界が真っ白に染まった。
次回、63話。
リル編少し長編になってるなぁ。
これは予測してなかったかも…。




