Episode4 それじゃあ、みんなに挨拶しに行きますかね。
うっ…ボリュームヤバ…。第4話です…。
「す、すみません!忘れてました!」
鍵を渡していなかったことで俺に謝る中村さん。
「い、いえ。俺の方こそうっかりしてました。これからよろしくお願いしますね、中村さん」
「はい。よろしくお願いします。……こちら、篠宮君の部屋のカードキーになります」
中村さんは俺の部屋の鍵をくれた。
「…ン?カードキー?」
「はい。この宿舎、セレナードって言うんですけど、すべての部屋のロックはこのカードキーで行われます。各部屋にはスキャン式のカードリーダーがあると思いますので、そのカードキーに書かれている矢印の方向にカードをリーダーにスラッシュしてください」
…うん、何かの研究室みたいだ。そして何気に初めて聞いたこの宿舎の名前、セレナード。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って、その場を立ち去った。
「……さて」
カードキーの使い方はマスターしたし、部屋の片づけはあらかた終わった。
……これからどうしよう。
「ぁ…ふわぁぁ……」
や、ヤバい。強烈な眠気が…。
ふらふらとベッドに向かおうとした俺だが、コンコンと部屋の扉をたたく音に俺の意識は再び覚醒状態に。
「はい…?」
俺は部屋のドアをゆっくりと開ける。この扉はオートロックなので、外からは鍵なしでは開けられないようになっているのだ。
ガチャ…という音とともに、俺が目にしたのは。
「ほうほう…?君が新しく入ってきた子かな?…うんうん!いいよね!黒髪と黒い瞳!」
そんなことを言い出す目の前の女の子。いや、本当にびっくりした。扉を開けると、まず目に入ったのはケモミミ。さらにその髪はピンク色で。
…………なにより。
「(いや、これはでかくね?…え?何カップよ?これ)」
大きなお胸様が俺の目の前にご登場なされた。よく見たら、俺の目の前の巨乳っ子の背後にはしっぽのようなものが見える。
「うーん…。やっぱり“元”人間君にはこの耳は珍しいのかな?」
めっちゃ的外れだった。…いや、そのケモミミが気にならないと言ったらウソにはなるが。
「あ、えっと……」
「あ、ごめんね?急に訪ねてきたからびっくりしたよね?」
申し訳なさそうにするピンクケモミミ少女。
「私、リル=ローグルスっていうの。学院では3年生ね」
む。3年ということは、俺にとっては先輩になるわけか。
「ああ、すみません。俺は…」
「知ってるよ、篠宮徹君?」
「あ、俺のことはもしかして…?」
「うん!詩乃ちゃんから聞いたよー」
ゆるふわな空気を発しながらそう言う巨乳先輩。…いや、
「リル先輩…ですよね?」
「私より、君の方が年上なんじゃないかな?」
あ、その事も知ってるのか。
「いえ、この島では俺は新入りですし、学院ではどちらにしろ後輩ですから」
俺がそう言うと、彼女は不思議そうに俺を見つめた後。
「ふふ…そっかそっか。うん!わかった。君がそう言うならそうするね!君のことは、徹君って呼べばいいかな?」
うん、いきなりのフレンドリー感。だが、嫌いじゃない。
「ええ、それでお願いします。…よかった。ほかの住居人に挨拶に行こうと思ってたんですよ」
そうだそうだ。さっきはぼやぼやしていて眠りかけたが、俺はこれから一緒に生活していく人たちに挨拶に行こうと思ってたんだよ。
「あ、そうなんだ。なら、良かったね!ちょうどタイミングがあったみたい」
嬉しそうに言う先輩。…うん、いい人そうだ。
「…?あれ。先輩はどうしてここに?」
「……あ!そうそう!忘れるところだったよー」
えへへ、と照れ臭そうに笑う。…………うん、かわいい。
「実は私、これを君に渡そうと思ってたんだー」
そう言うと、彼女は自分の胸の谷間に手を入れる。
「うおっ…!?」
は、初めて見た…。女スパイかよ。…っていうか、自分の腕が完全に埋まってしまうほどの谷間ができる巨乳って……。
「はい!これ、あげる!」
そう言って、彼女がその巨乳から取り出したものを俺に手渡した。
「これは…?」
生徒手帳……だろうか。だが、中は相当固いな。
試しに開いてみると、タッチパネルのようなものが出てきた。
「!?」
すると、次の瞬間、その手帳が起動した。
『エネルギー波長パターンを確認………特定不可。複数のパターンを確認。複数のパターンを持つ人物に照合します………特定。本デバイスの使用者権限者を2年、篠宮徹に登録します』
「な、なにが……」
「これはね、Student supporting deviceと言って、通称、SSDと呼ばれているの。学生たちの間で連絡を取るとか、自分自身の基本情報を確認するとか、学院からの連絡事項のお知らせとかを受け取るために使われる。…まあ、言ってみれば“通信機能付き電子生徒手帳”といったところかな?」
な、なるほど。先輩の説明でようやくわかったな。
「私、これを渡しに来たんだ。一応、詩乃ちゃんの連絡先と、私の連絡先が載ってるから、適宜使ってね!」
おお…!それはありがたい!…なるほど、携帯として使えるのか。これなら困ったときに知ってる人に連絡できるな…。
「…おお!!」
と、急に先輩が雄たけびのような声を上げる。
「うお!?どうしました!?」
「わ、忘れてたよ!私、この後用事があるんだった!……あ、あの!SSDの連絡先、ここのみんなの分は早いうちに聞いておいた方がいいと思うよ!じゃ、私は行くね!」
そう言って、先輩は慌ただしく駆けて行く……が。
—―――こらー…!廊下は走らないー…!
……中村さんの叫び声が聞こえる。…どうやら先輩に手を焼いているようだ……。
…………。
…ハッ!しまった。SSDをいじってたら集中してて時間がたってた。
「おいおい、早くいかないと」
俺は急いで自分の部屋を出て、左右を見ると。
「うおっ…」
「あ、あら。ごめんなさい。気づきませんでしたわ」
女の子が隣の部屋から出てきたので、俺のすぐ横にその子の部屋の扉が迫っていた。
「申し訳ありません…。お怪我は…?」
「あ、いや。大丈夫だ。こちらこそ、申し訳ない。ちゃんと見てなかったよ。そちらこそけがはない?」
「あ、大丈夫ですわ。わたくしのことは、お気になさらず」
優雅にスカートをつまむ仕草をする。…お嬢様なのだろうか?
「あ、申し遅れました。わたくし、エリーナ=フローレンスと申します。どうぞ、良しなに」
「よろしく。篠宮徹だ。今日、このセレナードに入寮した。お隣のようだから、仲良くしてくれると嬉しい」
そう言って、俺はお辞儀をした。すると。
「えっ…?あ、あの。あなたは何も悪いことをしていないので、どうぞ頭を上げてくださいまし…!」
…うん?なんだ、この違和感は。
「…………ああ!こ、これは日本の風習なんだよ。感謝の気持ちとか丁寧な対応をするときとかは日本ではこういうふうに頭を下げる文化がある。“お辞儀”という」
もしかして、と思って俺の行動の意味を解説してみたのだが。
「な、なるほど!すみません。日本の礼儀作法にはあまり詳しくなくて。お見苦しいところをお見せしました…」
…ふむ…。対応は丁寧だが、あまり日本独特の表現に慣れていないようだ。名前からしても、異世界出身の人なのかな?
「えっと。もしや、オリジンの…?」
「あ、知ってたのか。……ええと」
「エリーナですわ。よろしければ、そのままお呼びくださいまし」
「あ、でも、いいのか?その口調から察するに、エリーナは…その」
「はい。確かに生まれは高貴ではありますが、わたくしたちは同じ学院の生徒でありますし、そもそも篠宮様のほうがお歳は上でありましょう?」
「た、確かに……でも、できればその『篠宮様』というのはやめてもらえないか?できれば対等な関係でいたくてな」
「ですが……わたくしは貴族ですので……。…では、こうしましょう。『徹様』というのはいかがでしょうか?」
下の名前ときたか。
「ああ、ひとまずはそれで。これからよろしく頼む、エリーナ」
「はい。徹様」
うん、改めて聞くと、違和感マックスなんだけどな。
「君の部屋は俺の部屋の隣なんだよな?」
「はい、そうですが?」
「ならよかった。ちょうど同じ寮生の人たちに挨拶を、と思ってたんだ」
「あいさつ……ですか?」
「ああ。これからよろしく頼むって一声かけようとな」
「なるほど」
うーん…。ここまでだと、逆に新鮮な反応が面白いな。
「徹様はわたくし以外の方は、どなたに挨拶を済まされたのでしょう?」
「そうだな。詩乃は俺をここに連れてきてくれた時に言ったし、さっきリル先輩には本人が来てくれたからその時に言ったな」
「では、わたくしを含め、3人の方には済まされたと」
「ああ」
俺は相槌を打つ。しかし、見れば見るほど一挙手一投足が優雅で上品だ。やっぱり普通の生まれじゃないな。
「では、あとお二方ですね。わたくしでしたらご案内させていただきますが?」
親切に申し出てくれるエリーナ。
「ああ、ありがたい。ぜひ頼むよ」
俺は彼女のご厚意に甘えることにした。
「こちらですわ」
そう言うと、エリーナはある部屋の前で止まる。
「今お呼びしますわね。……あかねさん、少しよろしいでしょうか?」
『へっ…?その声、エリーナ先輩!?ちょ、ちょっと待ってくださいね!』
何か片づけでもしていたのだろうか、ゴタゴタといったような音が部屋の中から聞こえてくる。ごった返したようなドタバタしたような音が混じってしばらくして、扉がゆっくりと開かれた。
「はぁ…はぁ…。す、すみません!お待たせしました!……って、えっ?」
その子はエリーナに向けてビシッと敬礼するが、俺を見て固まってしまう。
「あ、すみません。こちら、今日からこちらでわたくしたちと同じ寮生になる方です」
「篠宮徹だ。よろしく頼むよ」
「あ、はい。よろしくお願いします!私、二葉あかねといいますです!1年です!」
おや?一年生か。
「新しい入寮生…ということは、オリジンの適合者の方ですよね!?あいさつ回りですか?それなら、あの子にも紹介しないと!」
そう言って、元気に飛び出して別の部屋へと向かっていく彼女。
「げ、元気だな…」
「おーい!こよちゃん!こよちゃん!!」
「ど、ど、ど、どうしたですか!?大きな声を上げて……」
彼女はあかねと呼ばれた女の子の声にびっくりしながら部屋から出てきたが、俺を見て、すぐに委縮してしまう。
うーん、この二人、口調は似てるけど、性格が完全に逆だな……。
「例のオリジンの適合者だそうだよ!?」
「え?そうなのですか……?」
じーっと俺を見る女の子。
「ほら、こよちゃん!自己紹介!」
「あ、すみません…!私、神代暦と申します…。一年生です。どうぞ、ご容赦を……」
……なんか、俺におびえてない?この子。ていうか、この一年生の二人はどちらも黒髪だな…。
「篠宮徹だ。…その、つかぬ事を聞くけど、もしかして二人は……人間?」
「あ、はい!そうですよ!」
元気な声でそう答えるあかねという一年生。
「あかねちゃんと……暦ちゃんだね。よろしくね」
俺は改めて二人を見る。…うん、このコンビはかわいいな。
「わ、私たちはどうお呼びすれば…!」
むんっとこぶしをグッと握って聞いてくる暦ちゃん。
あ、そうか。そうだな……。
「なんでもいいよ。好きなように呼んでくれ」
「では、私は篠宮先輩……と」
「じゃあ、私はしのくん先輩で!」
お、おう…。すごいネーミングだな…。
「あ、あかねちゃん!それは先輩に失礼だよ!」
「えー!いいじゃない!これくらい!」
「ふふふ…。しのくん先輩…かわいいですわ」
あかねちゃんに怒る暦ちゃん、ぶーたれるあかねちゃん、俺のあだ名がお気に召したのかクスクスとほほ笑むエリーナ。
……あれ?
「ちょっと待って」
俺の言葉にこちらを向く三人。そして。
「あら?徹?」
「お、徹君だ!やっほー」
詩乃とリル先輩が登場。なら、ちょうどいい。
「もしかして、つかぬ事を聞くかもしれないんだけど……」
「「「うん?」」」「ええ?」「はい?」
「…………もしかして、ここ、俺以外、女の子だけ?」
「「「「「…………」」」」」
長い沈黙の後。
「…そうね」
代表して詩乃が答えてくれた。
………うそん。
ひ、ヒロインたちを紹介するので精いっぱいだった…。
次回、もうちょっと深めます…。