Episode1 あ。俺、学生やり直しですか、そうですか。
はい、第一話公開です。
めっちゃ説明回みたいになってしまった……。
結局、俺はどうなるのだろうか。そんな不安を抱えながら、悟先生の話を聞く俺。いや、俺自身もなんとなく、人間やめちゃったんじゃないかなー…という感じがしてたんだ。
何せ、ものすごく体が軽いからね。どう考えても、人間ではできないような身のこなしができていた。(実は、詩乃さんが来るまでちょっとだけ体を動かしていた。)
「いやはや。本当に驚いたよ。詩乃から、DNAナンバー000(オリジン)を間違って摂取した人がいるって聞いた時には」
「DNAオリジン…?」
「あなたの左腕に刺さっていた注射器の中身よ」
……へ?
「…君が摂取してしまったのは、とあるDNA断片のサンプルなんだ。一から説明してしまうと長いんだけどね……」
ははは…、と苦笑いをする悟さん。
「…まあ、君にはいろいろとこれからのことについて相談したほうがよさそうだしね。…あ、そうそう。僕のことは下の名前で呼んでね。名字だと娘とややこしくなるから」
「私のことも、“詩乃”と呼んでもらって構わないわ。年は、あなたの一つ下。17よ」
やっぱり。そう考えるとこの親子、本当に違和感がすごいな。俺には、父親の悟さんが20代後半の年にしか見えない。
「な、なるほど。よろしくお願いします。……あの、俺ってこれからどうなるんでしょう…?」
うん。本当に不安。人間じゃないってことは……つまり…。
「そうだね…。少なくとも、日本に戻るのはかなり難しいだろうね…」
うわー…、マジか。…いや、高校は卒業したからそこはいいとして、これからの進路に関して日本での選択肢がもうなくなったってことだよな?これ。
「…確かに、日本での生活はまず不可能でしょうね。“こっち”での報道はすでに、君を“オリジンの被害者”として扱ってしまってるから。おそらくこれは日本にも伝わるでしょう。…でも、大丈夫よ。そこは私たちの責任でもあるから。あなたの“こっち”での生活は保障するわ」
……ああ。そういうこと。要するに俺は日本で暮らせなくなった分、セレンでの生活を支援してもらえるってわけか。
「…理解が早くて助かるね。…まあ、今詩乃の言ったように、僕らはこれからの君のここでの生活をサポートしたいと思ってる。…でも、そのためにはまず、今の君自身の状態について、君にはちゃんと知識を持っていてほしいんだ」
穏やかではあるものの、真剣な表情で悟さんは言った。
「…は、はい」
そう言われると、こっちも身構えちまうぜ。…でも、そうだよな。自分の体のことだ。ちゃんと知っておくべきだろう。
「…よし。まずは君が今、いったいどういう存在なのか、ということだが。正直に言おう。…………わからない」
「…………はい?」
わからないとは何ぞや?…え、何?俺はとうとう生物学で分類できない生物に成り下がったというわけか?
「……なぜわからないか、ということだけど、実はさっきの“オリジン”が関係している」
「オリジン…ってDNAの?」
「うん。あのDNAナンバー000は実は、異世界人がこちらに転移してきたときに、こちらにやってきた向こうでの原始的な生物が残したDNA断片のことなんだよ。…これは、それを復元したサンプルで、厳重保管されている」
「へ、へえ……」
…な、なんかとんでもない話が出てきたぞ…。俺には難しい話過ぎて、何が何だか……。
「まあ、もうちょっと詳しく話すとね。このDNA断片は、この世界における原初の異世界生物のDNA断片ということで、オリジンという名前がついている。…ただ、こいつが厄介な曲者でね。日本…というか、この世界においてあらゆる生物の細胞に導入しても、細胞単位の免疫によって、排除されてしまうんだ」
「…?要するにどういうことですか?」
「まあ、つまりだよ。これを、誤って人間なんかに導入したときには、これを異物とみなした宿主細胞がオリジンを排除しようとして過剰な免疫反応を起こすんだ。…その反動によって、人間は高確率で即死する」
「………はい?」
い、今この人、即死って言いました?
え、うそでしょ。俺なんで死んでないの?
「そうだね。たぶん不思議だと思う。…正直、僕が一番教えてほしいくらいだけど、君はなぜか死に至ってない。それほど数はこなしてないけど、オリジンに適応しているのは、今のところ君だけだ」
「て、適応…!?」
「まあ、あくまで可能性だけどね。そう考えないと、君が生きている説明がつかない」
…マジかよ。非現実的すぎて頭がついていけてないぜ。
「…私も驚いたわ。銀行で、オリジンとあなたを見た時、もう遅いと思ったの。…でも、ここに運び込んで、バイタルが安定していくあなたを見て私もぎょっとしたわ。こんなこと、私も初めてだから」
なんということだ……。
「まあ、言ってしまえば、君は人間でありながらもオリジンに適応できた初めてのケースってことになるね」
……。
「え、じゃあ、俺って今どういう立ち位置なんです?人間……ではないんですよね?」
「そうなんだよ。それなんだよね。僕もどうしたものかと思ってね?…君を生物学的にどの分類に当てはめていいのかわからなくてさ。…一応、血液検査の結果や体の構造、基本的な機能などそれらを鑑みるに、人間とさほど変わらない感じなんだけど、いかんせん、オリジンを取り込んだ体がどう変化していくかわからないし……」
うーん、と悩みだす悟さん。…ああ、もうヤバいな、いろいろと。もはや自分が何者なのかもわからない状態になってしまうなんて。
「……そうだね、あえて言うなら亜人間ってところかな?」
「あ、亜人間…?」
聞きなれない単語だが……。
「一見人間ではあるが、人間にあらず。すなわち、間をとって“亜人間”」
…な、なんて適当な…。
「…ま!そんなに悲観することもないさ。ここの生活は楽しいよ?日本ほど広くはないが、魅力的な要素がいっぱいだからね。あ、そうそう!重要なことを言い忘れてたよ。君にはもう一度学生をやってもらうから、青春を謳歌してもらっても構わないしね!」
「えっ!それってどういうことですか?俺、もう高校は卒業したんですけど…」
俺が頭の上にはてなマークをいっぱい浮かべていると、隣の詩乃が俺に説明を加える。
「…実は、こっちの学院では、セレンで暮らしていくにあたって重要な条例や法令、あと、他種族に関する扱いなどを学ぶカリキュラムが組まれているの。これは、学院で教えてもらう以外に学ぶ方法がないわ。…もし、こっちで暮らしていくのなら、そういうことを学んだっていう証明が必要になるから、それを単位で修得してもらう必要があるの」
…あ、さいですか。
「…もちろん、福祉も充実しているから、君の日々の生活は豊かなものになっていくと思う」
すげープッシュしてくるな。まあ、でも……。
「そうですね。俺、日本に帰れないんだったらそうするしかないですもんね」
…………よし。受け入れた。
「ただ……ちょっと一つだけいいですか?」
「ん?何だい…?」
「俺、実はこの島に叔母が住んでいるんですけど、今回は18歳になりましたっていうあいさつに来たんです。…その件はもうやり終えたんですけど、その帰りに例の事件に巻き込まれまして…。叔母には、今回の事情をちゃんと伝えたいんです」
うん。大事。ほうれんそう(報告・連絡・相談)大事。
叔母さんなら……うん、きっと理解してくれるだろう。
「……そうだね。そういう事情なら仕方がない。一度、ここを出たら会いに行くといいよ。何か手違いがあったら僕らも協力させてもらう。…というわけで、僕から改めて。今回は巻き込んで本当に申し訳なかったね」
悟さんは頭下げた。
「私も。もう少し、早く現場にたどり着いていればこんなことにはなってなかったのに…」
悔やむように、詩乃は俺に頭を下げながら、そう言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あ、頭上げてあげて!…さ、さすがにそこまでされたら居心地が悪い。突然のことにびっくりはしてるけど、俺自身はもう受け入れたし、叔母さんの説得に協力してくれるのなら、俺はもう気にしてないから…!」
「そ、そうかい?…いやー、徹君がいい人でよかったよ!」
こ、こわいこわい…。二人そろって頭を下げられたらむしろこっちが悪いような気がしてきて本当に居心地が悪い。悟さんも詩乃も、あまり俺の一件に関しては気にしないでほしいんだけど…。
「…っていうか、俺、悟さんたちに助けてもらった側ですよ!むしろお礼を言わなければならない立場じゃないですか!俺」
や、やばっ!さすがにそれは礼節をわきまえてなさすぎる。
「あ、いや。そうでもないんだよね。オリジンはウチで管理してたから…。むしろ、僕らの管理不行き届きなところがあるし……」
痛いところを突かれたとばかりに苦い顔をする悟さん。
「…?あれ。そう言えば、ここって何なんでしょう?」
「ああ、ここはね。僕ら“セイバーズ”の本社だよ」
…は?セイバーズ?え、どういうこと…!?
「お父さんはセイバーズの研究員であり、医者でもあるの。セイバーズは一般的に機動部隊として知られているけど、実はいろいろな事業に手を伸ばしているのよ。…それこそ、“遺伝子開発”も…ね」
なるほど。そう言うことか。
「……はー…」
思わずため息が出た。いろいろと新事実が多かったけど……。
「でも、ここでまたやり直せるんだよな……」
そう考えると何も変わらない。生活のステージが日本でなくなっただけの話だ。
「…じゃ、そういうわけで。もろもろ細かい話は後々、ということで。これからよろしく頼むよ。…あ、1週間に一回は定期検診を予定しているから、毎回来てね。その費用はすべてこちら持ちだから。むしろ、その貴重な検体データを僕たちに……」
「お父さん!」
「うっ…。わ、悪かったよ……。で、でも。僕らもこういったケースは初めてだったんだ。協力してもらえるとありがたい」
「あ、いいですよ。協力させてください。…俺の身の安全は保障されるんですよね?」
「うん。安心してくれ。少なくとも、君の検体データの研究が原因で追われることはないと思うよ」
それならなんだっていい。俺はこの先の人生でお先真っ暗な状況に、ちょっとだけ不安を覚えていたんだ。やるべきことがしっかりしている方が精神衛生的にも助かるしな。
「……じゃあ…」
こちらを向く詩乃。
「えっと……うん。よろしくな、詩乃」
「よ、よろしく……」
彼女は照れ臭そうに手を差し出してくる。俺はそのやわらかい手を握って、握手する。
………意外に照れ屋だったんだな。
字数はちょっと少な目かな。