Episode11 いやー、天童さんってエネルギッシュだよねー(棒)
第11話です。
ちょっと長めです。
「ケビンにも教えてしまうことになるが、致し方あるまい」
そう言ったのは、天童さんの記事のネタになる話を聞かせてもらう代わりに驚かせてみろ、と言ってきたレイアさんであった。
「え、自分はダメですか!?」
「当たり前であろう。私を驚かせたわけでもあるまい。本来なら教えることなどせんが、まあ徹を連れてきたことはようやったと誉めてやろう」
そう言ってクスクスと笑うレイアさん。
「……さて。それじゃあ、話すかね。…実は、ここから北の方にいくと、周りはビル街なのに一軒だけポツンと社が建っておるのだ」
レイアさんがそう言った直後。
「え…!そんなの見たことありませんよ?」
ケビンが怪訝そうにそう言った。
「うむ。そうじゃろうな。…そして、それこそがこの話の根幹となる部分じゃ」
てっきりケビンが知らないだけかと思ったのだが、どうやらその社はそういう代物らしい。
「…あれ。ちょっと待ってください。レイアさん、ケビンがその社を見たことがないことが何か関係あるんですか?」
「うむ、もちろん。その社の不思議なところは、誰もその姿を存在を知っているだけで見たことがないということである。ひどい場合、今のケビンのように存在すら知らない者もいる」
「そうなんですか」
なんとも不思議だな…。そこに何かあるんだろうか。
「まあ…今の話を聞けばわかる通り、ポツンと一軒だけたっていれば、それなりに記憶に残るというもの。しかし、どのような様相なのか誰も覚えておらんのだ。……この私も含めて…な」
「ふーん……え?」
あ、あれ?この流れは「だが私はその社の実態を知っている」という展開だと思うのだが。
「あ、ご存じないと」
ケビンがあっけらかんとして言う。まあ、そういう反応になるよな。レイアさんが知らないなんて……。…あ。
「なるほど、そういうことですか」
そして俺はレイアさんの意図に気づいた。
「レイアさんをごまかすレベルの魔術…ですか」
「そういうことじゃ。自慢じゃないが、私はこれでも精霊族の長。魔術の類いなど、あらゆる物を知り尽くしている。私をごまかせる魔術など覚えがない」
「確かにそれは不思議ですね…」
精霊族の長でも知らないだろうと思われる魔術によってカモフラージュされた社か…。確かにそれはいいネタになりそうだ。
「…まあ、おぬしの言うその……女子が気に入るかどうかはわからんが」
「いえいえ!いいネタだと思いますよ?」
ミステリー系だけど、ここは異世界人が多く住まうセレン島。日本みたいにカルト雑誌の記事みたいにはならないはずだ。
「でも……どうしてレイア様ですら覚えがないのでしょうか?」
ケビンが恭しくレイアさんに対して疑問を向ける。
「さあ?私にはわからん。少なくとも、死ぬまでにはこの疑問を晴らしておいたほうが良いとは思うが」
等とブラックジョークをを言うレイアさん。…いや、見た目的には死ぬような年齢ではないと思うのだが。
「ほれ。早くその…何某とかいう女子に伝えてやらんか。そのために私のところまで来たのじゃろう?」
「あ…はい!わかりました!ありがとうございました!」
そうして、俺は部屋を急いで出て行こうとしたのだが。
「ちょい待ち。言い忘れておったわ。…時間があれば、またここに来るとよい。歓迎しよう」
ふっ…と穏やかな笑みをたたえてレイアさんは俺にそう言った。
「あ、わかりました。またお邪魔させてもらいますね?…ケビンもありがとな」
友へのお礼も忘れない。……例えそいつが変な奴でも。
そして、俺は今度こそ部屋を退出したのだった。
~Another side レイア~
「……行ってしまいましたね」
ケビンがそうぼそりとつぶやいた。
「そうだな…」
私は彼が出て行った扉を見つめる。…本人には言わなかったが、何やら数奇な運命を抱えているようだった。
「しかし…珍しいこともあるものですね。レイア様が他人を呼び止めるなど…」
「……ちょっと…な」
あの男からは妙な因果を感じた。それがいったい何なのかはわからんが……。
「…面白い」
「…?はい?」
ケビンが素っ頓狂な声を上げる中、私は彼について考えていた。
「(あやつはきっと面白いことを起こしてくれるじゃろう…。先ほども、あやつから私の覚えのない力の波動を感じとった。これは少し…私も動く必要がありそうだ……)」
「あ、あの……レイア様?」
ケビンはそんな考え事をしている私の様子を戦々恐々と見ていた。
~HERO side 徹~
……よし。さっそく天童さんに教えてあげよう。その情報を天童さんがどうするかは彼女次第だけど、全く意味のないものにはならないはず。
「天童さん…どこに行ったんだろう…?」
放課後になってそんなに時間は経ってないから、まだ校舎の中にいてくれるといいんだけど…。
俺は天童さんを探し求める。…が、そんなことをしている間も。
「お、あれが噂の転校生か…。本当に人間だったんだな」
「珍しいわね、人間の子がセレンに移住するなんて。…なんか訳ありっぽくない?」
などとかなり噂がそこかしこでささやかれており、天童さんを探すのに集中できない。
いや、まあ確かに訳ありですけどねっ?銀行強盗に巻き込まれて純粋な人間じゃなくなりましたけども!……ええい!黙らんか!
『はい…!申し訳ないです!部長…!』
…?なんだ?今ちょうど横の教室の扉から声が聞こえたが…。
…と。
ガラッと音を立てて、教室の扉が開いた。
「うおっ!」
「…え?きゃあ!」
その扉から出てきた女子生徒とぶつかりかってしまう。天童さんはしりもちをついてしまった。
「あ、すまん!大丈夫……って天童さん?」
「いたた…、あれ。転校生君?」
扉から出てきたのは天童さんだった。目を大きく見開いて、俺を見ている。
「あ、ええと…。すまない、大丈夫か?」
俺は彼女に手を差し出し、起こすをの手伝った。
「あはは…。私は大丈夫だよ。こっちこそごめんね。心ここにあらずって感じで君にぶつかっちゃったよ」
苦笑いする天童さん。さっきの声は天童さんの声だったのか。何やら部長に謝ってたようだが…。
「もしかして……聞いちゃった?」
「……悪い」
なんだかいたたまれない。
「たはは…。いやー、カッコ悪いところばっかだな、私。…あ、部長に怒られてたのは別に君のせいじゃないよ!ただ、私が新ネタを持ってこられなかったことを怒られてただけだから!」
…ここで、俺のせいにしないのが、この子のいいところなのかもしれない。
そうか。ここの教室は新聞部の部室だったのか。
「…あ、そうそう。その新ネタのことなんだけど。実はさっき、俺、情報を手に入れたんだよ」
「えっ?」
俺は「誰も覚えていない社」の話を天童さんにした。
「…というわけなんだ。あのレイアさんが知らないっていうくらいだから、その社も安全なものかわからないけど、それに近づかないように調べればいいんじゃないかな?」
レイアさんはこのセレンの長寿種だと言われる精霊族の長をしている人だ。当然、魔術のことなど熟知している。それなのに、彼女の語る「社」はレイアさんにさえその魔術の影響を与えている可能性がある。なぜなら彼女はその社のことを漠然としか覚えていないからだ。
「…………ほう」
天童さんは興味深そうにうなずいた後、うつむいて動かなくなった。
…あ、あれ。
「天童さん…?」
…が、しかしその直後。
「いいね!!そのネタ!」
バッ!と顔を上げて勢いよく俺の右手を両手で握ってぶんぶんと上下に振り始めた。
「ありがとう!篠宮君!私、そのネタ買うよ!」
そんなことを言い出した。
「ま、待ってくれ。俺は自分のことを新聞のネタとして提供することができないから、代わりのネタを提供しただけに過ぎない。そんな情報を買うとか、そんなことは気にしないでくれ」
そう言うのだが。
「……ふーん、なるほどねー。なんとなく、君がどうしてセレナードの寮に入れたのかわかった気がするよ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、彼女は俺にそう言った。
「えっ?…いや、そう…?」
俺がセレナードに入れたのは、自分の能力のせいなのだが、まさか天童さんがそんなことを知っているとは思えない。…事実でないことを記事にしたりしないと信じたいが……。
「ふふふ!大丈夫!私は君のことをこれから先、記事にすることはほとんどないと思うから。そんなことをしたら、ネタを提供してくれた君に対して不義理になるしね」
と、魅力的な笑顔でそう言った。……危ない、一瞬マジでドキッとした。
「…よし!そうと決まれば行動あるのみっ!」
そう言うと、天童さんは俺の横を通り過ぎようとする。
「…え、ちょっと待った。どこに行く気?」
俺はとっさに彼女の腕をとってしまった。
「…?どこって…その社に決まってるじゃない」
「いやいやいや。安全かどうかわからないんだよ?」
「…篠宮君。新聞部員を舐めないで。私は特ダネを報道することには命を懸けてるの。どんなことがあっても私は絶対にこの目で確かめてやるんだから!」
そう言って、走り去ってしまう彼女。俺も無理やり女の子の腕を引っ張るわけにもいかず、つい彼女をつかんでいた手の力を緩めてしまう。
「あっ…待って…!天童さん!」
しかし、彼女は俺がそう言った次の瞬間には、廊下を折れ曲がって、階段を下りて行ってしまった。
天童さんが走って行ってしまってから、俺は自分の教室へと足を進めていた。自分のカバンをとりに行くためなのだが……なんだか天童さんのことが気にかかる。…なんとなく嫌な予感がする。
「…まあ、あの社まではここからそんなに距離はないはずだから、大丈夫だとは思うけど…」
これはレイアさんの情報だ。本人は、そんなに近い距離に存在しているのに、なんで気づかなかったんだろう、と首をかしげていたが、俺も確かにそうだと思う。
「それだけ何か特殊な何かが社にある…ということなのか?」
そんなことを考えていると。
「…あら。徹、どうしたのかしら?」
「…詩乃」
詩乃がやってきた。
「ごきげんようですわ、徹様」
「エリーナまで。…その、あれからどう…?」
エリーナは先の事件で自分を責めていたが…。
「もう大丈夫ですわ。…ありがとうございます。あなたが守ってくれてうれしかったですわ」
うふふ、とにっこりと笑うエリーナ。
…なんだか照れるな…。
「いや、俺は自分にできることをしたまでだ。…とはいっても、結局は無我夢中で飛び込んでいっただけだったけどな」
「…いえ、それでもです。あの時のあなたの勇姿は私の眼にしっかりと。私も思わず見入ってしまいましたわ」
少しだけ顔を赤らめるエリーナ。…うん、そう言うリアクションは男の前でしないほうがいいと思うよ。
……と俺は言いたいが、いかんせん俺もその「男」のうちの一人である。ちょっとだけ夢を見てしまうのは仕方ないと俺は思うんだ、うん。
「…ゴホン!そろそろ……いいかしら?」
ジト目でこちらを見る詩乃。
「あら、詩乃さん。そんなに嫉妬しなくても、徹様を無理やり私がとったりはしませんわよ?」
ニヤニヤと笑うエリーナ。エリーナもこんな顔するんだ…。
「べ、別に徹のことなんてどうとも思ってないわよ!」
そう言われると、それはそれでなんか傷つくんだが。
「それより徹。どうしたの?何か悩み事かしら?」
詩乃が気にしてくれていたようだ。…まあ、セレンのことならセイバーズ関係者に相談するべきだよな。
「ああ…。実はな……」
話し始めようと俺は口を開く。…が、しかし。
「「…?」」
俺の様子に怪訝な表情を浮かべる二人。…まあ、それも当然だろう。
「……あれ?」
「徹様?どうかされました…?お顔の色がすぐれないようですが……」
そりゃ顔色もおかしくなるだろう。…なぜなら。
「……すまん、かなり間抜けな話なんだが……」
俺は言うのを躊躇った。しかし、これは言わなければならない。
「……俺は何に悩んでいたんだったか」
いつの間にか、俺は悩んでいた内容をすべて忘れてしまっていた。
い、忙しくて書けない……(泣)