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プロローグ 篠宮徹、18歳。人間やめます。

はい、二作品目ですね。新連載です。

今回はちょっとファンタジー寄りにしてみました。

暇つぶし程度でよろしくお願いします。

 …いやね、うん。めったに来ないところだし?観光地だからって言うのもわかるよ?そりゃ、こんなことになるかもしれないってことくらい、想像することだけならできるだろうさ。

「(でもさ…)」

 よりによって、犯罪に巻き込まれるとかありえなくね?

「オラァ!!動くな!こいつがどうなってもいいのか!?アァン!?」

「さっさと金よこせや。……おい、そこのやつ、ちょっとでも不穏な動きをしてみろ。こいつでぶち抜くからな」

 そう言った狼族の男はショットガンだろうか、少し大きめの銃器を掲げて威嚇する。

 はい。自己紹介します。俺、篠宮徹しのみやとおるといいます。今年、高校を卒業したばかりの18歳です。

 やったー!高校卒業したー!ってノリで、俺の叔母さんがいるこの人工島、“セレン”ってところに挨拶しに来たんだけど……。

「(あー…)」

 どうしよう。このセレンっていう人工島、実は異世界からの異種族の住居区域なんだよね……。いや、まだそれだけならいいんだけど、そこにいるちょっと野蛮な強盗につかまってしまったというか、なんというか。こいつらどうも、人間族じゃないみたいだし。

 いや!でも俺悪くないもん!だって、ちゃんと家族に「俺、高校卒業してこれから頑張っていきます」ってあいさつするために、セレン島に住んでいる叔母さんに会いに行って、そのついでにお金下ろそうと思って近くの銀行に入っただけだよ?なのにさ…。

「(速攻、銀行強盗につかまって人質にされるとかどゆことー!?)」

 後ろから手を拘束されて、頭にがっちり拳銃充てられているし。……身動き取れない。……ていうか、もうちょっと拘束緩めて。手、痛い。

「(うそでしょ…)」

 軽く絶望である。

 …と、そんなことを考えていると、機動隊員が満を持して臨戦態勢に入る。俺の前方で前衛部隊が防弾の盾を構えてそのすぐ後ろでカバーリングしながら隊員たちがいつでも突っ込める体制をとっている。

「(や、やった…!応援来た!助かる…!)」

 結構ヤバかった…!正直頭の中はパニックだった。まさか、ここにきてから初手、犯罪に巻き込まれるなんて想像もしてなかったよ!は、早く助けて…!

『こちらは機動部隊、セイバーズだ!…貴様ら、狼族だな!?人質を解放して、銃を床に置け!!さもなければ、こちらも相応の対応をしなければならない!』

 くぐもった、機械音的な声。おそらく無線を通して喋っているな…。…だが、良かった。セイバーズといえば、この島でも有名な機動部隊だ。餅は餅屋だ。プロに任せておとなしくしていよう。

『警告はしたぞ!おとなしくお縄についてもらおう!!』

「やかましい!てめえら人間族に従うつもりはない!お前らも、終わるまでそこで待っとけ!……おい!」

 そう言うと、狼族の男は別の仲間を呼びつける。

「はっ!なんスか!ボス!」

 …ボスだったのか、こいつ。

「例のブツ(・・)は…?」

「はっ!ここに、しかと。取引は終わりましたぜ?」

 そう言うと、下っ端(と思われる)のヤツが赤いどくろマークの刻まれたボストンのバッグを取り出して、ボスに差し出す。

 ……なんだ?あれ。

「…ケッ!あれだけの金を提示しておきながら、これっぽっちか!?向こうさんも随分といいご身分だぜ。…まあいい。必要な金は渡したんだろうな?」

「それも問題なく。先ほど、奥の金庫からいくらか拝借しましたもんで」

「ちゃんと確認しとけ?もし、足りなかったら……わかってるんだろうな?」

「へ、ヘイ!」

 わっかりやすい関係だな…。しかし……取引の金をあらかじめ用意せずに、強盗で無理やり用意して、挙句の果てに裏で取引まで済ませたのか。なんとまあ…。

「(エグいな…取引相手も、よくもまあそんなに信用なさそうなのを相手したな)」

 取引当日に金用意する集団なんて、信用できなさそうだし取引相手として最悪だと思うんだが…。

 …いや、そんなことを考えている場合じゃなかった。むしろ、俺自身が今一番危ない状況にあるのを忘れていた。

 現状、変わらずピンチ。セイバーズも犯人グループの様子をうかがったままで動けない。…が、どこの世界にもアホはいるもので。

「…!」

 セイバーズの隊員の一人が、俺を抑えている強盗犯の隙をついて、こちらに接近してくる。先輩隊員だろうか、その人が必死にその接近してくる隊員を止めようとするが、彼は一向に止まらず、敵に自分の接近がばれていないことをいいことに、どんどんと進行してきた。

「(ちょっ…!あんた、何してんの!?)」

 あまりの奇行に訛ってしまう。バカバカバカ!そんなにこっち来んじゃねえ!スニークしながら来るんじゃねえ!

 俺を抑えている奴をテイクダウンできても、他のやつがそのテイクダウンの騒ぎを聞きつけて、警戒しちまうだろうが…!

 勢い余って騒ぎを聞きつけた犯人グループの誰かが発砲して、俺に当たる可能性もあるんだぞ!

「(ねえ!バカなの!?…え、バカなの!?)」

 あまりの行動に心の中で罵倒してしまう。しかし、心の中で俺がそんなことを叫ぼうとも、彼が止まってくれるはずもなく。

「…っ!」

 ガッ!

 鈍い音が鳴る。隊員が俺を拘束していた強盗犯を殴りつけたようだ。カクンッと首をのけぞらせた強盗犯は、声を上げずに倒れる。どうやら意外にも、彼は静かに敵を一人、無力化できたようだ。

 そう、その瞬間は俺もテイクダウンした隊員を見直していたんだ。……その瞬間はね。…いや、俺、次の瞬間には我に返ったんだよ。なんか嫌な予感がするなって。

 確かに、犯人は声を上げなかったけど……。

 …ドサッ!

 そいつが倒れた音はごまかせないよねー…。

「な、なんだ!何事だ!」

 ほら、案の定、気づかれた。

『な、なにをしている!隊員番号006!まだ突撃の指示は出してないぞ!!』

 隊員の無線機から声が聞こえる。おそらく作戦班の声だろう。彼の行動のおかげで、俺は手を縛られた状態ではあるものの、それ以外は動ける状態にはなった。…が。

「そこで何をしている!」

 別の犯行グループが拳銃の銃口を俺と隊員に向けてきた。

 あ、これオワタ。

「お、おとなしくしていろぉ…っ!」

 テンパった犯人の一人が無計画に発砲する。パアンッ!という乾いた音が、銀行内をこだました。銀行内の一般人がパニックに陥る。幸い、誰にも当たってないようだが、このままではけが人…あるいは死人が出る!

「ただいま到着しました!状況を…って、何ですか!?これは…!」

 さらにそこへ、なぜか銀髪の美少女が入ってきたかと思うと、セイバーズに声を掛ける。彼女は今現在の銀行の様相に驚きながらも状況の分析を始めていた。

「(ああっ…もう!)」

 もう無茶苦茶だ!次から次へと状況が混乱していく。

 一刻も早くここを離れて安全なところへ…!

 手を縛っている縄は幸いそう硬くないものだった。さっきから何発か発砲している犯人が銀行の設備をでたらめに撃ちぬいている。それらが破損してできた金属片に試しに縄を当てて切ってみようとすると…。

「切れた…!」

 縄は見事に切れ、縛られていた両手は自由になる。

 そう太くなく、またそれほど固くない縄でよかった…!

 そう思った俺だったんだが。

「じ、じ、じ、じっとしていろ…!」

 さっきから発砲していたやつが俺の逃亡に気づいた。

 …ヤバッ!

 そこからはもう夢中だった。銃口が完全に俺の方を向いた。もう幾分も猶予はない。その銃口に目が離せないまま、俺は両手で辺りを探る。手探りで何か盾にできる物はないかと必死に。

 その時。俺は右手で何かをつかんだ。これは相当体積も大きそうだ。いけるかもしれない。

 そう思ったんだが。

「(…うおっ!!)」

 夢中でひっつかんだために、手が滑った。つかんで前に出そうとした拍子に、俺の拾ったものは、綺麗に放物線を描いて敵の方に飛んでいく。い、いや、俺は前に出して盾代わりにしたかっただけなのに。

 しかも、前に放り投げてしまった時に、つかんだものの正体が分かった。

 ……それは、先ほど強盗犯たちが持っていた赤いどくろのバッグだった。

「…うそん」

 いや、絶対あれヤバいものしか入ってないでしょ。バッグは敵に向かって放り出される。しかも、さらに悪いことに、そのバッグの口は開いていた。おかげで、中の物が外に放り出される。

 そして。

「て、て、抵抗するなぁ!」

 俺に銃口を向けて威嚇していたヤツが、俺がバッグを投げたことを皮切りにとうとうしびれを切らして、その銃の引き金を引いてしまう。

「だ、ダメ!!逃げて!!」

 女の子の声。おそらくさっきの銀髪の子のものだろう。が、俺にそんなことを考えている余裕はない。

 ——死ぬ!

 そう思った瞬間、パアンッ!と乾いた銃声。

 その直後、銃弾がバッグの中身のものに当たって(たぶん当たったと思う)、それがパリィンッ!!とガラスが割れるような音を立てて、砕け散った。

 銃弾は軌道を変え、俺には当たらなかったが、別の物が俺に降り注ぐ。

「ぐっ…!」

 グサッと。何かが俺の左腕に刺さった。

「(な、なんだ…!?)」

 頭が混乱する中、俺は左腕に刺さったものを確認する。

「(ちゅ、注射器…?)」

 なぜ、注射器が…?…いや、それよりも!

「(あのカバンの中から見えてるやつ…!)」

 いつの間にか、落下を終えて、床の転がっているどくろのバッグ。中からチラリと俺の左腕に刺さっているものと同じ注射器が顔をのぞかせている。

「(まさか、同じもの…!?)」

 ヤバい。そう思った時には、俺は右手を動かし、刺さっている注射器を力任せに引き抜いた。それほど奥まで刺さっていなかったのか、出血はひどくはないが…。

「中身がちょっと減ってる…」

 俺に刺さっていた注射器の中身がわずかに減っていた。透明の液体のようだが…。

 そんなことを考えていると、セイバーズの隊員の一人が突っ込んできて、俺を撃とうとした敵にタックルをかまして、無力化した。見ると、他の場所でも、すでにいろいろと状況は動きつつあった。

俺以外の一般人は無事に銀行の外へとセイバーズにより誘導され、犯行グループはそのほとんどがセイバーズの隊員たちによって取り押さえられていた。

「うぐっ…!」

 だが、俺はそれどころではない。

「う…あ、あああぁぁぁ…!(あ、熱い!体が……熱い!!)」

 次の瞬間、焼けるような感覚が体中を駆け巡る。あまりの熱さに俺は床を転げまわった。

「し、しっかりして!ゆっくり……ゆっくり息を吸うのよ!」

 銀髪のあの子がそう言いながら駆け寄ってくる。

「な、なにが起こって……うそ…どうして、これがこんなところに……!」

 女の子が、俺の腕から引き抜かれた注射器を見て何か言っている。…が、何度も言うが、俺はもはやそれどころではない。熱すぎて、体がどうにかなってしまいそうだ。

「…だめ!眠っちゃダメ!落ち着いて、幻覚症状みたいなものだから!ゆっくり。ゆっくりと息を…!」

 彼女の必至な顔が視界に入る。…ああ、近くで見るとやっぱりかわいいな…。

 そんなくだらないことを考えていると、次第に視界が真っ赤に染まっていく。

 …………ああ、ダメだ。もうそんなことを言っている間にも、その赤は黒へと変わっていく。あの注射器、中には何が入ってたんだろうか。

 薄れゆく意識の中で、彼女の声が途切れ途切れに聞こえてくる。

「…だめ…!おねが…!……眠っちゃ…!」

 …………。

 ………。

 ……。

 …。

 闇が迫ってくる。俺の意識は真っ黒な闇に飲まれた。




「…………ん…」

 目が覚めた。ここはどこだろう…?

「…なんだ、ここ」

 SFで出てきそうな頑丈な床、壁、天井。合金なのか、なんなのかは不明だが、とにかく今、俺がいる部屋は部屋を構成する壁や床や天井が光沢を放っており、ドアだと思われるそれは厳重そうな機械が横にはめ込まれており、いかにも「パスコードがないと開きません!」

といったようなドアだった。

「……夢?」

 いや、ほっぺたを引っ張ってみたが、普通に痛い。あと。

「…頭痛が……」

 それに、吐き気もするな…。なんだか、船酔いでもした気分になる。どうやら普通に現実のようだ。

 現状に混乱していると、ピピッという電子音とともに、部屋のドアが開かれた。

「…!意識が戻ってる!…どう?大丈夫?」

 入ってきてそんなことを言ったのは、例の銀髪の美少女だ。俺を見て、心配そうに俺の様子をうかがってくる。

「あ、ああ…。大丈夫だよ。……ちょっと気分が悪いけど……」

 うん。とりあえず、わけわかんない。

「……そうね。気分が悪いところ、申し訳ないんだけど。これから一緒に来てほしいところがあるの。……あなたには、知ってもらわなければならないから」

 真剣な表情でそういう彼女は、じっと俺を見つめていた。

 その迫力に俺は圧されてしまう。

「大丈夫よ。あなたの安全は保障するわ。…ただ、ちょっと厄介な事態なの。あなたの体が」

 そう言われて、俺は少しだけ不安になる。あの注射器の中身がやばかったのだろうか。

「…とにかく、一緒に来て頂戴。説明するわ、あなたの体のことについて」

 そう言って、彼女は姿勢を正すと。

宮島詩乃みやじましのよ。…まだ、名乗ってなかったわね」

 彼女はわずかにほほ笑んだ。

「ああ…。俺は…」

「知ってるわ。篠宮徹くん」

 …!なぜ、その名前を…!

「そのことについても、向こうで説明するわ。……立てる?」

 彼女は手を差し出してきた。

「……どうも」

 俺は少しだけ照れ臭くなりながらも、その手を取って、起き上がった。




「…やあ」

 俺が連れてこられた先。そこには一人の白衣を着た若い男性がいた。部屋は診療室の様相をしている。……ということは、この人は医者だろうか。

「…うん、どうやら運び込まれてきたときよりも血色がいいようだ。これは、完全に適応したと考えてよさそうだね。…ありがとう、詩乃。彼を連れてきてくれて」

「ええ。構わないわ」

 やけに親しそうな会話だな…。

「…じゃあ、とりあえず。自己紹介から始めようか。…初めまして。僕の名前は宮島悟みやじまさとる。まあ、一応医者なんだけど、ちょっと変わった人達を相手にしている」

 変わった人を……相手に。どうにも怪しいが……。

「…?“宮島”…?」

「あ、ああ…。そうだね。僕はこの子、詩乃の父親なんだよ」

 ……は!?父親!?いやいやいや。どう考えても年齢おかしくないか?

 …だって、若すぎるだろ、この人。こんな大きな娘さんがいて。言っても、この娘だって、俺とそう変わらない年齢に見えるぞ?

「ああ、そうそう。お父さん、吸血鬼だから。だから、ちょっと若く見えるところがあるのよね…」

 ……なんだそりゃ。つくづくここが日本ではないことを思い知らされる。ここはあくまで、異世界から何らかの形で転移してきた種族たちが日本で自治を勝ち取ってできた人工島だ。日本であって、日本ではない。

 そういう意味では、かつての日本の状況からすれば、ここは「異世界」なのかもしれない。

「コホン。さて。そろそろ本題に入ろうか、篠宮君。ここへ来てもらった目的も話した方がいいだろうしね」

 そう言って、彼はすっと目を細める。俺は彼に真剣に向き合うことにした。

「……単刀直入に言おう。…篠宮君、君はすでに……」

 そして、十分間をとった後、彼は口を開いた。



 ———————人間ではない。



 ……あ、やっぱり?


ふ、ファンタジーって難しくね?


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